ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第15回 指導例「Twitterで著名人にお祝いを通して好意を伝えることができる」

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【連載】ソーシャル・メディアをめぐる冒険〈毎月第4金曜日更新〉

第15回 指導例「Twitterで著名人にお祝いを通して好意を伝えることができる」

 

冒険家のみなさん、こんにちは。
エドモントンはすっかり緑も濃くなり、夏らしい気候になりましたが、今日はまた最高気温13°Cと、春先のような天気です。

さて、ソーシャル・メディアで交流するときに欠かせないのが、お祝いのメッセージです。この原稿を書いている6月15日はイスラム教の人たちにとってラマダン明けのとてもおめでたい日なので、僕自身も先ほど Facebook でイスラム圏の人たちに「Eid Mubarak!」と投稿したばかりです。

お悔やみなどと違って、お祝いの場合はメッセージを受け取る側も機嫌がいいことが多いでしょうし、カジュアルな日本語の場合はあまり表現のバリエーションも多くないので、ひらがなさえ覚えていればすぐに使える交流の方法です。今日は、この「お祝いを通して日本語で好意を伝えることができる」という授業について考えてみましょう。 特に今回は、まだ日本人の友達もいないような海外の日本語学習者で、しかし日本のサブカルチャーなどに関心を持っている人たちを対象に、作家やスポーツ選手、アイドルなどに日本語でお祝いを伝える方法について考えてみたいと思います。

 

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シラバスを考える


 

まず、ビジネスのメールなどでは、「お祝い申し上げます」「お慶び申し上げます」などといったお祝いの表現も珍しくありませんが、 Twitter や Facebook などといったソーシャル・メディアでは、こういった堅苦しい表現はほとんど見られません。 つまり「おめでとう」もしくは「おめでとうございます」だけ知っていれば、ほとんどあらゆるシチュエーションでお祝いを通して好意を伝えることができるのです。

特に、本人が何らかのめでたいことをソーシャル・メディア上で発表した場合などは、「おめでとうございます」の一言だけで、とりあえずの祝意を伝えることができます。この場合は「祝意を伝える前に、本人の投稿を理解しないと祝意が伝えられないのではないか」という心配をする人も多いかと思いますが、実はこうした場合は、他の人がすでに「おめでとうございます」などとコメントをつけていることが多いので、実際には 「おめでとうございます」しか知らなくても、その投稿へのコメントから何らかの祝福すべきことがあったのだということを理解することができます。実際に僕のアラビア語やベトナム語などはかなり初歩的なレベルですが、「おめでとう」にあたる言葉と絵文字などは非常に特徴的なので、 A1レベルの学習者でも、かなり簡単に判別することができるでしょう。

問題は、本人の投稿へのコメントではなく、まずこちらから祝意を伝える場合です。この場合でも何もしないよりは「おめでとうございます」だけ伝えたほうがずっといいと思うのですが、「お誕生日おめでとうございます」などのように、何に関するお祝いなのかということを表現すると、さらに自然な日本語に聞こえるようになるでしょう。

今回、この記事を書くためにTwitter をいろいろ検索してみたのですが、ファンのみなさんのポジティブぶりには本当に驚きます。 ファンではない人間からすると、俳優本人の誕生日ではなく、その俳優が演じたキャラクターの誕生日など、「そんな些細なことにまでお祝いをするのか」と驚いてしまうようなことにまでお祝いのコメントを見ることができます。しかし、それは逆にネガティブなことでなければ、どんなことにでもお祝いのメッセージを送ってもいいということですから、学習者のみなさんにとっては心理的な敷居が低いのではないでしょうか。

具体的にどのような機会にお祝いのメッセージを送ればいいかですが、やはりいちばん多くの例を見るのが誕生日です。しかも著名人の場合は誕生日だけならちょっと検索すればすぐにわかりますし、前もって準備できるのでこうした活動では非常に使いやすいでしょう。同じように前もって準備できるイベントのキーワードとしては「周年」もあります。「デビュー3周年」「メジャーデビュー4周年」などです。

また、漫画家や映画俳優などの場合は作品の発売や放送、配信の決定、開始などもすべてお祝いできます。その他に漫画家やラノベ作家に特定のお祝いの機会としては「アニメ化」「映画化」などがありますし、さらに漫画家だけに限定すると、「連載決定」「連載開始」「連載再開」「連載完結」などもお祝いの対象になっています。ちなみにこの4つの「連載」関係の表現のうち、Twitter で検索してみると、連載再開を祝うツイートが一番多く、「どんだけ休載が多いねん」となぜか関西弁で突っ込みたくなってしまうのですが、やはりそれだけ漫画家というのは過酷な仕事なのかもしれません。

なお、 これらの漢字はソーシャル・メディアに投稿するだけなら手書きをする必要はないので、とりあえず意味と読み方がわかり、キーボードで入力したときに同音異義語のなかから選べる程度に識別ができればいいでしょう。

また、『進撃の巨人』の作者、諫山創さんなどをはじめ、人名なども一般的には初級では扱われない漢字なども含まれることが非常に多いです。 しかし、ファンにとってはこうした著名人の名前を漢字で認識できることはとても重要で、一般的に初級で扱われるかどうかということはまったく関係ありません。初級の段階からどんどん使ってもらっていいのではないかと思います。もちろんファンではない学習者が覚える必要もまったくありませんが。

 

 


活動例


 

まず授業の初めに、スキーマの活性化を図るために、これまでに有名人に対して何らかのお祝いのメッセージを送ったことがあるかを尋ねてみましょう。もし誰もいなければ、学習者のみなさんにどのようなお祝いのメッセージを贈る習慣があるかを聞いてみましょう。

次に、大量のインプットの一部として、以下の例文を準備します。

「尾田栄一郎先生、第90巻の発売おめでとうございます! 楽しみです。」
「尾田栄一郎先生、お誕生日おめでとうございます! ルフィーが大好きです。」

「嵐のみなさん、デビュー19周年おめでとうございます! 大好きです。」
「嵐の皆さん、CDの発売おめでとうございます! 楽しみです。」

「本田圭佑さん、ワールドカップ出場決定おめでとうございます! がんばってください!」
「本田圭佑さん、プロデビュー16周年おめでとうございます! いつも応援しています。」

媒介語がない場合は、スライドに例文と一緒に、漫画の表紙やCDジャケットなども表示して、音声も聞かせましょう。 これらのメッセージを耳で聴いたり、口頭で伝える必要はなくても、読み方がわからないとキーボード入力も音声入力もできないので、 授業の目標になっている能力記述文がアウトプットに関するものなら、音声でのインプットも大切です。

ただし、スポーツに興味がない人にとっては「ワールドカップ」などのような語彙はアウトプットする必要はないと思いますし、 漫画やラノベに興味がない学習者にとっては、「第90巻」などといった語彙も同じようにアウトプットする必要はないでしょう。ここでは、おめでとうございます」「楽しみです」「大好きです」などのように、 一般的な表現をたくさん耳にすることだけを目標にしましょう。

第二言語習得では「大量のインプット」が大事だといわれていますが、 自分が興味のない著名人へのお祝いのメッセージを大量に読まされるのは一種の拷問ですので、 これ以降はTwitterの検索機能と「Rikaikun」のような補助ツールを使いながら、 たくさんの投稿に目を通してみましょう。

以下に漫画家の諫山創さんとサッカー選手の本田圭佑さんの名前と「おめでとうございます」をTwitterで検索した結果を参考までにご紹介しておきます。

「諫山創 おめでとうございます」の検索結果
「本田圭佑 おめでとうございます」の検索結果

上にも書いたように、Twitterでは架空のキャラクターの誕生日なども盛大に祝われていますので、そのキャラクターの名前と「生誕祭」というキーワードで検索してみる活動も面白いでしょう。『ONE PIECE』のルフィやサンジの場合は「#ルフィ生誕祭2018」「#サンジ生誕祭2018」などといったハッシュタグでも大量に投稿されているのをみることができます。

上にも書きましたが、「大量のインプット」には目で読むだけでなく耳で聞くことも大切なので、文字を読み上げるプログラムなどを活用すると良いでしょう。 Chrome ブラウザを使っている場合は、例えば「Read Aloud: A Text to Speech Voice Reader」という拡張機能などもあります。長文を読ませるとなぜか途中で止まってしまうので、 日本語の母語話者が運転中に使ったりするのには向いていませんが、 Twitter の投稿を読み上げるぐらいでしたら大きな問題はないでしょう。

なお、このような活動をすると Google 翻訳やRikaikunなどのツールを使っても理解できない部分が必ず出てきます。しかしそれについてはあまり心配する必要はありません。むしろ真面目な学習者にとっては、理解できない部分をスルーして先に進むという習慣を身につけてもらわないと、ある段階から先には進むことができなくなってしまいますので、授業中に人為的にそうした経験をしてもらうのにも大きな意味があると思います。

こうして何度も聞いたり読んだりするインプットを行ったら、次は「少しのアウトプット」です。 これはやはり実際に投稿するのが一番ですので、まずは対象となる著名人やルフィのような架空のキャラクターの誕生日を検索して、お祝いのメッセージを日本語で書き、それを Google カレンダーなどにペーストしておきましょう。相手が Twitter を使っていたら、場合によっては返事がもらえることもあるので、 ID をつけてその人向けに投稿しましょう。 その場合は、 Twitter をその著名人の名前で検索して、検索結果のなかの「ユーザー」というタブをクリックすると、その名前のユーザーを見つけることができます。

 

検索結果の画面の「ユーザー」というタブを開きます。名前の横に水色のマークがついているのが公式アカウントです。

半角@+ID+スペースで、「ID をつけてその人向けに投稿」できます。このツイートはほかの人も見ることができます。

 

誕生日以外には、その著名人の活躍する分野によって、お祝いする機会も少しずつ違いますので、 主な例文を以下のように準備してみました。Google翻訳へのリンクはとりあえず英語になっていますが、ここはもちろん学習者の使える言語にしておくといいでしょう。また、現状ではGoogle翻訳もまだ不自然な訳も含まれていることもご承知ください。

 

一般的なお祝いのメッセージ

「お誕生日おめでとうございます!」
「デビューおめでとうございます!」
「デビュー3周年おめでとうございます!」
(Google 翻訳へのリンクはこちら。)

 

漫画家などへのお祝いのメッセージ

「連載決定おめでとうございます!」
「連載開始おめでとうございます!」
「連載再開おめでとうございます!」
「連載完結おめでとうございます!」
「アニメ化おめでとうございます!」
「映画化おめでとうございます!」
「(新刊・第〜巻)発売おめでとうございます!」
「発売日決定おめでとうございます!」
(Google翻訳へのリンクはこちら。)

 

スポーツ選手などへのお祝いのメッセージ

「出場おめでとうございます!」
「ベスト16進出おめでとうございます!」
「準々決勝進出おめでとうございます!」
「準決勝進出おめでとうございます!」
「決勝進出おめでとうございます!」
「優勝おめでとうございます!」
「(リーグ名など)デビューおめでとうございます!」
「昇格おめでとうございます!」
(Google翻訳へのリンクはこちら。)

 

YouTuberなどへのお祝いのメッセージ

「一億回再生おめでとうございます!」
「チャンネル登録者百万人おめでとうございます!」
(Google翻訳へのリンクはこちら。)

 

俳優などへのお祝いのメッセージ

「ステージデビューおめでとうございます!」
「スクリーンデビューおめでとうございます!」
「初日おめでとうございます!」
「千秋楽おめでとうございます!」
「(作品名)出演決定おめでとうございます!」
「(キャラクターの)誕生日おめでとうございます!」
(Google翻訳へのリンクはこちら。)

 

歌手などへのお祝いのメッセージ

「デビューおめでとうございます!」
「CDデビューおめでとうございます!」
「 デビュー5周年おめでとうございます!」
「CD発売おめでとうございます!」
「配信開始おめでとうございます!」
「結成5周年おめでとうございます!」
(Google翻訳へのリンクはこちら。)

 

今回は誕生日などを中心にお祝いを著名人に送る活動例をご紹介しましたが、現在ロシアで開催中のサッカーのワールドカップのような世界的なイベントは、こうした活動を行うのにまさにぴったりの機会です。普段ソーシャル・メディアに触れていないような先生方も、「スポーツ選手などへのお祝いのメッセージ」の例を参考にして、ぜひ一度挑戦してみてください。世界中の人たちとつながることのできるソーシャル・メディアの力をみなさんも感じることができると思います。

 

 


参考文献


 

むらログ: 第二言語習得におけるハッシュタグの3つの使い方
http://mongolia.seesaa.net/article/454797260.html

むらログ: ティーチャー・トークに未習語をなくしてはいけない
http://mongolia.seesaa.net/article/438007164.html

rikaikun (Chrome 拡張機能)
https://chrome.google.com/webstore/detail/rikaikun/jipdnfibhldikgcjhfnomkfpcebammhp?hl=en

 

 

近刊紹介
SNSで外国語をマスターする方法について筆者がまとめた書籍『冒険家メソッド』(ココ出版)が、近日刊行予定!!

 

《筆者》村上吉文 冒険家。これまで、国際協力機構(JICA)や国際交流基金からモンゴル、サウジアラビア、ベトナム、エジプト、ハンガリーなどへ派遣されてきた。2017年5月からカナダのアルバータ州教育省に勤務。ブログ「むらログ」(http://mongolia.seesaa.net/)では、日本語教育とICTに関する記事や、教育機関によらず自らの力で日本語を学ぶ「冒険家」たちについてのインタビューを発信している。

 

 

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