ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第7回「コミュニティを作ろう」

最終更新日

 

【連載】ソーシャル・メディアをめぐる冒険〈毎月第4金曜日更新〉

第7回 コミュニティを作ろう

 

みなさん、こんにちは。冒険家の村上です。先月は日本語教師として成長するためにどうソーシャル・メディアを使うかをご紹介しました。記事を読むだけでなく、実際にTwitterで同業者をフォローしたり、チャットに参加したりしていただけたでしょうか。

もし教師としての学びにソーシャル・メディアが絶大な力を持っていることに気づいていただけたなら、今度は是非その力をみなさんの学習者に分けてあげてください。そして、そのためには学習者にオンラインのコミュニティに参加してもらうことが大切です。そこで今回は、コミュニティをどのように作るかをご紹介したいと思います。コミュニティを作るといっても、交流用のグループについては連載第5回で簡単に触れましたので、今月はクラス運営のグループを中心に考えてみましょう。

 

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クラス運営用コミュニティのメリット


 

こうしたグループがオンラインになると、いろいろなメリットがあります。

まず、当たり前ですが連絡が楽になります。宿題のお知らせや教材の配布など、1回書くだけで全員に共有することができます。

次に、授業内容に関する質問への対応業務を減らし、かつ対応速度を上げることができます。なぜなら、文法の質問などは教師に質問するより学生グループに質問したほうが学習者にとっても気楽ですし、先生が忙しいときにもグループの誰かが答えてくれるようになるからです。

また、コミュニケーションの透明性を上げることもできます。1対1のメールやSMSなどでは「えー、そんなの受け取ってない!」とかいう問題が起きることがありますが、グループへの投稿なら全員が同じように目にすることになるので、このような問題を防ぐことができます。

最後に、クラスのラポール(信頼関係)の形成に非常に効果的であることも忘れてはなりません。それぞれの学習者は、授業中では見えてこない思いがけない才能や趣味を持っていたりすることがありますが、授業外のコミュニケーションが増えるとそれが見えやすくなります。また、授業開始前からこうしたオンラインコミュニティを作っておくと、教室で初めて顔を見るときまでにはすでに全員が知り合いで、初めての授業を、まるでオフ会のようなノリで迎えることができます。

 

 


プラットフォームをどうするか


 

では、どのようなメディアをプラットフォームにすればいいのでしょうか。実はこれは僕もよく質問されることなのですが、正答はないというのが実際のところです。というのも、学習者の状況によって何が最も適しているかは変わってくるからです。ただし、方向性としてはいくつか留意すべきことがあります。

1つ目は学習者が実際に使えて、できるだけ馴染んでいるものがいいということです。もし中国の人ばかりのクラスならWeiboやWeChatのような中国で普及しているものがいいでしょうし、逆に中国語がわからない人もいる場合は、メニューに中国語しかないようなサービスは避けたほうが無難です。

2つ目は、もし選択肢が複数あるときは、最近の学習者はメーリングリストやSNSよりもメッセンジャー系を好むという点です。端的に言えば、FacebookやGoogle+よりもLINEやWhatsAPPなどの方が彼らの感性には合っているようです。

3つ目は、公式なクラス運営用のグループとするなら、クラスの誰もが参加できる機会がなければならないということです。ただ、多国籍の場合はそうするとかなり選択肢が限られてしまうこともあり、たとえばメーリングリストにするしかないというような場合もあります。しかし、もしメーリングリストでも参加できない人がいる場合は、複数の選択肢を提示するのも1つの考えです。さきほどSNSよりメッセンジャー系のほうが好まれる傾向があると書きましたが、メッセンジャーだと頻繁に通知が来て煩わしいという人もいないわけではないので、SNS上のグループも並行して走らせ、好きなほうに参加してもらうのもいいでしょう。

 

 


コミュニティを育てるための留意点


 

運営側が気をつけなくてはならないことは、こうしたコミュニティは器を作っただけでは育たないということです。通知が多すぎて煩わしいのではないかと心配する人もいますが、公式なクラス運営コミュニティが「通知が多すぎる」と嘆くほど育ったら、それは失敗ではなく成功だと思っていいでしょう。

公式コミュニティでは最初は学習者側からの投稿はあまりないでしょうから、運営側が積極的に投稿していく必要があります。ただし、あまり勉強らしいものばかりでなく、コミュニティを盛り上げるような内容もシェアするのがおすすめです。イベントでの写真などはその良い例です。

保守的な組織では最初にがっちりと「こういう投稿はいいが、こういう投稿はだめ」とルールを作ってしまうことがありますが、ルールが抽象的だと「この投稿は違反なのではないか」という心配から投稿できなくなりますし、逆に具体的にすればするほどルールが細かく、長くなるので、自分の母語で書かれているわけでもない場合はいちいち確かめるのが面倒になって、投稿する気持ちが萎えてしまいます。ですので、最初のうちはルールは作らずにスタートさせ、問題が出てきてから対応するようにするといいでしょう。みんなでルールを決めると参加者の主体性も高まりますよ。

また、望ましい投稿があったら、教師が積極的に「いいね」を押したり肯定的なコメントをするのもコミュニティを育てるのに効果的です。僕がいままでかかわってきたクラス運営用のコミュニティでは、その日の授業の内容を自分でまとめてそれをコミュニティでシェアする学習者や、板書やスライドをスマホで撮影して授業が終わる前にその写真を投稿している学習者もいました。忙しい社会人の多いクラスでは、こうした投稿はとても喜ばれます。こうした行動を促進するには、授業中に「誰か写真に撮って投稿しておいてくれる?」などと積極的に呼びかけるのも効果的です。

 

 


非公式なグループ


 

こうしたグループは、1度か2度作ってみればまったく難しいものではないのですが、1度も経験がない教師にとっては敷居が高いかもしれません。その場合は、得意そうな学生にグループの管理人をお願いするといいでしょう。得意そうな学生が思い浮かばないときは、クラスで聞いてみると意外な学生が手を上げてくれたりすることもあります。

学生に管理人をお願いすることによって得られるメリットはいくつもありますが、非公式化することによって、参加者の主体性が増すという点がいちばん大きいのではないかと思います。また、公式なグループとは別に「裏サイト」「裏グループ」などが存在する場合もあります。これらはマスメディアでは悪の結社のように言われることもありますが、私の知っている範囲では、そのほとんどはいじめの温床になるようなものではなく、健全な学びのコミュニティです。裏グループに私のような教師が時々顔を見せることによって健全さを確保することができるのかもしれませんが、教師と学習者の関係性によっては、教師の参加によって学習者の主体性が損なわれてしまうこともあるかもしれません。そうした懸念のある場合(たとえば教師の目に触れることを学生が嫌がって、投稿の数が減ってしまうときなど)は、たとえ盛り上がらないとしても、公式グループを一方的な情報発信の場として確保する一方で、学生中心の活発な裏グループとは距離をおいて静観するほうがいい結果になることもあるでしょう。

また、クラス別ではなく、学校単位のコミュニティを作るのも学習者同士の学びを促進するには有効です。活発なコミュニティでは中心にいる上級生が積極的に日本語学習用のYoutube動画などを共有し、正統なメンバーとして周辺にいる新入生は、そこで先輩から日本語学習用のリソースなどを学びます。そして、慣れていくに従って、徐々に自分の学習成果物などを共有していくようになります(これを実践的共同体の正統的周辺参加といいます)。「上級生から日本語を学ぶコミュニティ」というより、むしろ「日本語学習」を共通の目的とするコミュニティで、徒弟制度のように見よう見まねで日本語の学び方を学んで、日本語学習を実践していくのです

 

 


日本人との交流用のコミュニティ


さて、今回はクラス運営用のコミュニティを中心に説明してきましたが、日本語を実際に使うためのコミュニティを作るのも、学習効果は非常に大きいです。連載第5回の「学習者の安全のために」でも簡単に触れた通り、そのためにはFacebookの「The Nihongo Learning Community」などの既存のグループを活用することもできます。しかし、Facebook以外のメディアを使っていたり、知らない人の多い大規模なコミュニティに参加する勇気のない学習者がいたりする場合は、新たに非公開のグループを作って学習者と他の日本語話者に参加してもらい、そこで実際に日本語を使って交流することができます。

交流コミュニティを作るにあたって、いちばん難しいのはクラスの学習者以外の日本語話者に参加してもらうことです。すでに学校単位の交流校などがある場合は、相手の学校の日本人学生に参加してもらうと簡単ですが、そうした組織同士の交流がないときでも、ソーシャル・メディアを使えば積極的に参加してもらう人を探すことはそれほど難しくありません。海外の場合は、その国や地域に関心を持っている日本人のオンライングループに入って、積極的に発信している人に声をかけることもできますし、国内の場合は日本語教育関連のグループに出入りしている日本語教師志望者を見つけることができれば、相手にとっても利益のある交流をすることができるでしょう。

交流用のコミュニティがあると、実際に自己紹介文などを読んでもらったり、オンラインイベントの日時を知らせて誘ったり、参加してもらったら感謝したりするなど、教科書に出てくる行動をとったり、その表現を実際に使うことができるようになります。主に文字でのコミュニケーションが中心になりますが、最近はSNSにしろメッセンジャーにしろ、動画を送ることも簡単にできるようになりましたし、メッセンジャー系のアプリならリアルタイムで音声のやりとりもできるようになっていますから、日本語の会話の機会を作ることも難しくありません。

知らない人も混じっているオンラインコミュニティを育てるには、クラス運営用のコミュニティを育てる以上に努力が必要です。ここでは具体的に説明する余裕はありませんが、ご関心のある方はぜひココ出版さんから刊行予定の「冒険家メソッド」の「第4章 冒険家の育て方」をご覧ください。

 

 

近刊紹介
SNSで外国語をマスターする方法について筆者がまとめた書籍『冒険家メソッド』(ココ出版)が、近日刊行予定!!

 

《筆者》村上吉文 冒険家。これまで、国際協力機構(JICA)や国際交流基金からモンゴル、サウジアラビア、ベトナム、エジプト、ハンガリーなどへ派遣されてきた。2017年5月からカナダのアルバータ州教育省に勤務。ブログ「むらログ」(http://mongolia.seesaa.net/)では、日本語教育とICTに関する記事や、教育機関によらず自らの力で日本語を学ぶ「冒険家」たちについてのインタビューを発信している。

 

 

連載バックナンバー

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第6回「教師自身の学びのために」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第5回「学習者の安全のために」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第4回「教師自身が使いこなすために必要な第一歩」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第3回「自律性と一斉学習」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第2回「冒険家の実像」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第1回「なぜソーシャル・メディアか」

 

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