ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第14回 指導例「イベントに招待できる」

最終更新日

 

【連載】ソーシャル・メディアをめぐる冒険〈毎月第4金曜日更新〉

第14回 指導例「イベントに招待できる」

 

みなさん、こんにちは。冒険家の村上です。
エドモントンはすっかり雪も溶け、緑が芽吹き、花が咲く季節になりました。

さて、これまで数回に渡ってソーシャル・メディア上のコミュニティに参加して自己紹介したり、新しいメンバーを歓迎したり、写真にキャプションをつけて投稿したりといった行動を日本語でできるようになるための指導例をいくつかご紹介してきました。今月は、 もう少しコミュニティの中心的な立場になって、パーティーなどのイベントを開催するときの日本語について考えてみましょう。

 

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シラバスを考える


 

以前はイベントに日本人を招待したりするのは、日本語の入門者にとってはかなり難しいタスクでした。なぜなら、場所や日時などで間違いがあると取り返しがつかないことになってしまうからです。しかし最近は、 Facebook や Google+などのSNSでは、日時も場所も自分の母語で設定すれば、それが自動的に翻訳されたり、地図として表示されたりするようになっているので、 その部分は日本語でできなくても最低限の案内はできるようになっています。 つまり「5W1H」の中の「いつ」「どこで」は日本語を使わなくても大丈夫なのです。最近は「5W1H」に「How Much」の「H」も加えて「5W2H」と言ったりすることもありますが、では残りの「3W2H」はどのように表現すればいいでしょうか。おそらく、よくある例としては、以下のようなものではないかと思います。

イベントタイトル(What):(スピーチコンテスト、コンサートなど)
主催(Who):(オンラインコミュニティの名前や、クラス名、学校名など)
目的(Why):(国際交流、ファンドレイジングなど)
参加方法(How):(Zoom、Twitterチャットなど)
参加費(How much):(無料、〜円、〜ドルなど)

イベントに招待するときの日本語の表現については、これらの要素からシラバスを考えればいいわけですね。

このうち主催者名などに関しては、おそらく学習者は既に知っているケースも少なくないかとは思いますが、それを日本語で何というかはわからないこともあるでしょうから、その場合は教師の支援が必要かもしれませんね。既に参加しているオンラインのコミュニティなどがあれば、その名前をキューにしてもいいでしょうし、学習者に関するそういった背景の知識がなければ学校名やクラス名などを使ってもいいでしょう。

目的については、 イベントによっては自明なのでわざわざ書く必要がないときや、あるいは明記しにくいものもあると思います。例えば結婚式の目的って何なのでしょう。また、主催者にとっては利益を上げることが目的でも、来場者にとってはそこで楽しい経験や新しい知識を得ることが目的だったりするように、立場によって違うこともあるでしょう。しかし、チャリティーイベントなどはその目的を明確に書く必要があります。 ちなみに例の部分にあげた「ファンドレイジング」というのは、カナダでは非常に多く行われていて、参加費などが少し高めに設定されているものの、そこで集めたお金が主催団体の活動資金になったり、NGO などに寄付されたりします。おそらくカナダで最も有名なファンドレイジングのイベントは「テリー・フォックス・ラン」という、義足でカナダを走って横断しようとした若者が始めた運動で、このスポーツイベントで集められた資金は癌の研究に寄付されることになっています。

参加方法は、従来の一般的なイベントではあまり明記する必要がないことも多かったと思いますが、オンラインのイベントの場合はZoomなどのテレビ会議システムを使ったり、 文字だけのグループチャットだったりすることもあります。 また、TwitterやYouTubeなどでは特定の期間内に特定のハッシュタグを付けて投稿するというパターンも最近ではよく見られます。

一番簡単なのが参加費の部分でしょう。「無料」か、あるいは「数字+通貨」だけで済みますから。なお、こうしたイベントの案内というのは基本的に文字で行うものでしょうから、 その場合は「3,000円」などの参加費をどのように発音するかということは考えなくてもいいでしょう。

このように見てみると、こうした「5W1H」、もしくは「5W2H」などの基本情報を伝えるには、単語レベルの知識があれば、あまり文を作ったりするための文法などは必要ないということがいえるのではないかと思います。

ただ、イベントの種類によっては「お願い」ベースで行わなければならないことなどもあります。チャリティイベントなどはその代表ですが、 その場合は入門レベルでもやはり「ぜひ来てください!」 「お待ちしております!」などの定型フレーズは教えておきたいものですね。

 

 


活動例


 

では実際の活動の例を考えてみましょう。

行動中心アプローチでは学習者の実際の行動に基づく例文が重要ですから、参加しているコミュニティやそこでよく行われるイベントなどをあらかじめ宿題などで学生に書いてもらっておくと良いでしょう。事前に提出してもらえれば授業の準備にも使えますし、授業が始まってから最初にそれを発表してもらうと、いわゆるスキーマの活性化を行うことができるはずです。

大量のインプット」としては、もちろんそこで得られた情報をもとにいくつかの例文を作るのが基本だとは思いますが、ここでは例えば以下のような例文を仮定してみましょう。(学生のレベルなどはあまり厳密に特定していませんので、あくまでも参考例の1つとしてご覧ください)

  • 「ワーキングホリデー説明会」
    主催:東京カナダ人学生会
    目的:国際交流
    参加費:500円
    お待ちしています!
  • 「ベトナム観光セミナー」
    主催:ハノイ日本文化センター
    参加方法:テレビ会議システム
    参加費:300円
    ぜひ来てください!
  • 「ハンガリー音楽コンサート」
    主催:ブダペスト日本語学校グループ3
    目的:ファンドレイジング
    参加費:700円
    お待ちしています!
  • 「イフタール」
    主催:さくら日本語学校ムスリム学生会
    目的:ラマダンのお祝い
    参加費:無料

こうしたイベントの招待は文字で行われるほうが普通だと思いますので、 いわゆる「大量のインプット」は文字を見せながら音声でも聞かせるという形が良いでしょう。ただ聞かせるだけでは集中力が続きませんので、以下のようなタスクを与えながら聞かせましょう。

1回目:
特にアウトプットを指示せずにすべての例文を見せながら聞かせます。

その次からは質問を見せてから、ひとつひとつの例文を表示して耳でも聞かせます。

2回目:だれのイベントですか?
説明会
(ハンガリー人・カナダ人・ベトナム人・ムスリム)
セミナー
(ハンガリー人・カナダ人・ベトナム人・ムスリム)
コンサート
(ハンガリー人・カナダ人・ベトナム人・ムスリム)
イフタール
(ハンガリー人・カナダ人・ベトナム人・ムスリム)

 

3回目:どうやって参加しますか?
説明会
(テレビ会議システム・その他・わかりません)
セミナー
(テレビ会議システム・その他・わかりません)
コンサート
(テレビ会議システム・その他・わかりません)
イフタール
(テレビ会議システム・その他・わかりません)

 

4回目:いくらですか?
説明会
(無料・300円・500円・700円)
セミナー
(無料・300円・500円・700円)
コンサート
(無料・300円・500円・700円)
イフタール
(無料・300円・500円・700円)

4つある例を全部で4回聞かせていますので、 「主催」「参加費」などは全部で16回触れていることになりますね。これだけ大量にインプットすれば、こうしたキーワードは忘れたくても忘れられなくなるのではないでしょうか。

アウトプットに関しては、ずっと先のイベントでもいいので実際にイベントの予定を立てて日本語話者を招待してみるという活動を体験してもらうのが一番いいと思います。こうしたイベントは学習動機を高めたり維持するのにも非常に効果的です。

 

 


参考文献


 

Facebookのイベントページ
https://www.facebook.com/events/

イベントの作成と管理 – パソコン – Google+ ヘルプ
https://support.google.com/plus/answer/2673334?co=GENIE.Platform%3DDesktop&hl=ja

 

 

近刊紹介
SNSで外国語をマスターする方法について筆者がまとめた書籍『冒険家メソッド』(ココ出版)が、近日刊行予定!!

 

《筆者》村上吉文 冒険家。これまで、国際協力機構(JICA)や国際交流基金からモンゴル、サウジアラビア、ベトナム、エジプト、ハンガリーなどへ派遣されてきた。2017年5月からカナダのアルバータ州教育省に勤務。ブログ「むらログ」(http://mongolia.seesaa.net/)では、日本語教育とICTに関する記事や、教育機関によらず自らの力で日本語を学ぶ「冒険家」たちについてのインタビューを発信している。

 

 

連載バックナンバー

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第13回 指導例「写真に簡単なキャプションをつけることができる」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第12回 指導例「新しいメンバーを歓迎できる」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第11回 指導例「コミュニティで自己紹介を書くことができる」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第10回「160文字以内でTwitterのプロフィールを書く」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第9回「行動中心アプローチとTwitter」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第8回「日本語教師のためのビデオ会議システム」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第7回「コミュニティを作ろう」

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ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第2回「冒険家の実像」

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