ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第11回 指導例 「コミュニティで自己紹介を書くことができる」

最終更新日

 

【連載】ソーシャル・メディアをめぐる冒険〈毎月第4金曜日更新〉

第11回 指導例 「コミュニティで自己紹介を書くことができる」

 

みなさん、こんにちは。今日もソーシャル・メディアで冒険していますか?

さて今月も、先月に引き続き、具体的な指導例をご紹介してみたいと思います。
今月は「コミュニティで自己紹介を書くことができる」です。

 

 

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コミュニティで自己紹介すること


 

コミュニティで自己紹介を書くのは、先月の「プロフィールを書く」と共通している部分がありますが、違うところもあります。 違いの1つは、先月も触れましたが文体です。例えば、「東京在住。」などのような体言止めの表現はプロフィール欄ではそれほど珍しくありませんが、ソーシャル・メディアのコミュニティなどへの投稿としては、かなりぶっきらぼうな印象を与えてしまいます。

もう1つの違いは、 どのようなコミュニティであれ、何らかのテーマや目的などが設定されているということです。つまり、コミュニティで自己紹介をするには、自分とそのコミュニティのテーマがどのように関係しているかも表現する必要があります。

では、学習者が日本語の習得のために利用できるソーシャル・メディア上のコミュニティはどのようなテーマや目的などを持っていることが多いでしょうか。日本語教師が学習者におすすめすべきコミュニティは主に3種類あります。

  1. 学習者の出身地や、専門性などに関するグループ
    例えば、ベトナム語が母語の学習者にとっては、ベトナム語を勉強している日本人のグループではそのグループに母語話者として貢献できることが期待できます。以前にご紹介した「海外旅行好きサークルwith国際交流」というグループでも、自分の住んでいる地域について情報提供することができますね。
  2. 日本語を勉強するためのグループ
    授業の一環として、こうしたグループに投稿を促すこともできます。ここでは学習者の立場は受益者であり、 コミュニティに貢献することはそれほど期待されていません。Facebook では例えば「日本語」というグループがとても活発に活動しています。
  3. 学習者が好きなアニメやゲームなどの日本のコンテンツに関するコミュニティ
    ここでは他のメンバーと対等な立場で参加することができます。

こうしたコミュニティにおける立場の違いによって、自己紹介の方法も変わってくるでしょう。

また、もう1つ考えなければいけないことは、そのコミュニティが自由に参加できるのか、あるいは承認制なのかということです。承認制の場合は、まず入会希望者が参加の申し込みをし、それを受けてコミュニティの管理者が承認した場合のみ、参加することができます。この場合は自己紹介のときに「ご承認ありがとうございます」という一言を入れるのがよくあるパターンです。

 

 


教室活動の例


 

では、具体的な活動の案について考えてみましょう。

最初に、学生たちからソーシャル・メディアで自己紹介をしたことがあるかなどの話を聞いて、スキーマの活性化を行いましょう。スマートフォンなどで実際に自分が自己紹介した画面を共有したりすることができれば、とてもいいですね。

次に導入ですが、第二言語習得理論では、「大量のインプット」が重視されています。これに関しては「教師がたくさん説明すること」という誤解が非常に多いのですが、そうではなくて、大量のインプットというのはその学習言語で読んだり聞いたりするということです。 「多読」などもこうした目的にはぴったりだと思います。

今回の「自己紹介」については、 Web 上に大量の資料がありますので、それを使って「大量のインプット」を行うことも簡単です。みなさんが学生に紹介したいグループがあれば、そのグループで「自己紹介」とか「はじめまして」で検索すると、いくらでも実際の例文を探すことができます。 インターネットに接続でき、「理解くん」などのブラウザ埋め込み型の辞書が使える環境であれば、初級前半でもこうした活動を行うことができます。

ただし、こうした環境にはない先生方もいらっしゃるでしょうから、その場合はこちらで例文を用意する必要があります。A1からA2レベルぐらいなら以下のようなものでいいでしょう。

  • 例文1:(ベトナム語を勉強する日本人たちのグループに自己紹介する場合)
    はじめまして。
    ご承認ありがとうございます。
    フオンと申します。
    ハノイに住んでいます。
    ベトナム語の質問ならお気軽にどうぞ。
  • 例文2: (日本語学習者のためのグループで自己紹介する場合)
    はじめまして。
    バータルと申します。
    モンゴルから来ました。
    東京に住んでいます。
    半年前から日本語を勉強しています。
    よろしくお願いします。
  • 例文3:(アニメファンのグループで自己紹介する場合)
    はじめまして。
    ご承認ありがとうございます。
    エジプトのライラと申します。
    「進撃の巨人」のリヴァイ兵長が好きです。
    日本のアニメの話がしたいです。
    よろしくお願いします。
    (作品やキャラクターの名前は学習者に馴染みのあるものにすればいいでしょう)

さて、今回の授業の目的は特定の文型を教えることではなく、「ソーシャル・メディアのコミュニティで自己紹介を書くことができる」という行動です。ですので「ご承認」「お気軽」の「ご」と「お」の違いなどについては、質問がない限り説明する必要はないと思いますし、ましてや違う場面での例文を出して教える必要はまったくありません。媒介語があれば、口頭で意味を説明するか、対訳を一緒に表示するぐらいで、いわゆる導入は済ませていいのではないかと思います。

上で3つの場面でのパターンをご紹介しましたが、これを1回説明するだけでは「大量のインプット」にはなりません。これを手を変え品を変え、読んだり聞かせたりする必要があります。そのために必要なのが、「それぞれ別の複数の質問に答えるために同じコンテンツを繰り返し読んだり聞いたりする」というストラテジーです。

例えば最初に、「承認制のグループに入った人は誰ですか」という質問をしてから例文をひとつひとつスライドに表示しましょう。 パソコンで漢字変換をするには漢字の読みも当然必要ですから、例文1をスライドに表示したらそれを教師が音読するという方法もいいのではないかと思います。 学習者による回答はプリントでも Google フォームでもkahoot!でもいいと思いますが、プリントの場合は以下のようなものが考えられます。

  • 質問1:次の人たちは、承認制のグループに入りましたか。(必要なら媒介語もつけて質問)
    フオンさん: はい いいえ わかりません
    バータルさん:はい いいえ わかりません
    ライラさん : はい いいえ わかりません
  • 質問2:次の人たちは、日本に住んでいますか。(必要なら媒介語もつけて質問)
    フオンさん: はい いいえ わかりません
    バータルさん:はい いいえ わかりません
    ライラさん : はい いいえ わかりません
  • 質問3:次の人たちは、どこの国の人ですか。(必要なら媒介語もつけて質問)
    フオンさん: エジプト人 ベトナム人 モンゴル人 中国人
    バータルさん:エジプト人 ベトナム人 モンゴル人 中国人
    ライラさん : エジプト人 ベトナム人 モンゴル人 中国人

質問1に答えるために例文の1から3までをスライドに表示して教師が音読し、 それが終わったら質問2に答えてもらうために同じように例文の1から3までをスライドに表示して音読します。質問3も同じです。

3つのダイアローグを3回示すので、こうすることによって、例えば「はじめまして」「と申します」は9回も見たり聞いたりすることになります。「ご承認ありとうございます」と「よろしくお願いします」は6回です。 このようにして、第二言語習得理論でいうところの「大量のインプット」を実現することができるのです。

さて、第二言語習得理論では、「大量のインプットと少しのアウトプット」が必要だといわれていますね。せっかくソーシャル・メディアを使うために日本語を教えているのなら、アウトプットに関しては当然、実際にFacebookなどのコミュニティで自己紹介してみることをおすすめしたいと思います。

実際にソーシャル・メディアに書き込むことを課題とするのは、慣れていない先生にとっては少し勇気がいると思いますが、その場合はこの連載の第5回「学習者の安全のために」をご覧ください。

 

 


参考文献


 

白井恭弘「大量のインプットと少量のアウトプットの重要性」(PDF)
http://pseec.miyakyo-u.ac.jp/shirai2013.pdf

[SLAコラム(9)] 第二言語習得とインプット | 日々雑感(ゼミ生編)
http://blog.hiromori-lab.com/?eid=184

海外旅行好きサークルwith国際交流
https://www.facebook.com/groups/vamos.a.viajar/

日本語
https://www.facebook.com/groups/The.Nihongo.Learning.Community/

rikaikun(ブラウザ埋込み型辞書)
https://chrome.google.com/webstore/detail/rikaikun/jipdnfibhldikgcjhfnomkfpcebammhp

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第5回「学習者の安全のために」
https://www.idobata.online/?p=616

 

 

 

近刊紹介
SNSで外国語をマスターする方法について筆者がまとめた書籍『冒険家メソッド』(ココ出版)が、近日刊行予定!!

 

《筆者》村上吉文 冒険家。これまで、国際協力機構(JICA)や国際交流基金からモンゴル、サウジアラビア、ベトナム、エジプト、ハンガリーなどへ派遣されてきた。2017年5月からカナダのアルバータ州教育省に勤務。ブログ「むらログ」(http://mongolia.seesaa.net/)では、日本語教育とICTに関する記事や、教育機関によらず自らの力で日本語を学ぶ「冒険家」たちについてのインタビューを発信している。

 

 

連載バックナンバー

 

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第10回「160文字以内でTwitterのプロフィールを書く」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第9回「行動中心アプローチとTwitter」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第8回「日本語教師のためのビデオ会議システム」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第7回「コミュニティを作ろう」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第6回「教師自身の学びのために」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第5回「学習者の安全のために」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第4回「教師自身が使いこなすために必要な第一歩」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第3回「自律性と一斉学習」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第2回「冒険家の実像」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第1回「なぜソーシャル・メディアか」

 

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