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    【連載】センパイ! 大学院って何をすればいいんですか!?〈毎月第3金曜日更新〉

    vol.11 在学中に出産したセンパイ

    みなさん、こんにちは。ひろこです。
    第2回のインタビューで西谷センパイ(本当は先生なのですが、ここはあえて「センパイ」)の出産や子育てのお話が評判だったので、いままさに研究と子育てを両立しているセンパイにお話をうかがいました。

     

    《センパイ》布施悠子(ふせ・ゆうこ)氏 外国語学部卒業後、旅行会社に勤務。その後、日本語教師養成講座に通い、国内の非常勤講師、海外の企業研修を経験したのちに修士課程に入学。修士課程中に出産しながら2年で修了し、現在は非常勤講師や研究の仕事をしている博士課程のセンパイ。

     


    《聞き手》中山裕子(なかやま・ひろこ) 大学卒業後、旅行会社の社員を経て日本語教師に。国内の日本語学校や中東のヨルダンで日本語を教えてきた。2017年4月から大学院に進学。でも大学院って何をすればいいのか、わからない! そうだ、先輩方に聞いてみよう!

     

     

     


    新卒時は旅行会社へ


     

    ひろこ 早速なんですが、布施さんはもともと日本語教育専攻ではないんですよね。

    布施 そうですね。私は外国語学部でスペイン語専攻だったんです。それで、語学を使って仕事ができたらいいなと思うようになりました。なおかつ国から派遣されるような仕事がしたいなと。

    ひろこ しっかりした大学生ですね。

    布施 違うんですよ。私、就職氷河期だったので。

    ひろこ 私もです!

    布施 大学3年と4年のとき、外務省の専門職の試験を受けたんです。でもダメで、旅行会社に就職しました。

    ひろこ すごく私と似ていますね。私も、大学のときに語学が好きになって、卒業後はなんとなく海外に関わりたいなという気持ちだけで、旅行会社に就職しました。

    布施 同じです。私も旅行が好きだったので就職したのですけど、好きだけじゃダメなんだと気がついて……

    ひろこ まったく同感です!! 趣味としての好きと仕事としての好きってだいぶ違いますよね。

    布施 そうなんですよね。それで、旅行を嫌いになる前に日本語教師の養成講座に通い始めて、気持ちが救われました。

    ひろこ わかります。

     

     


    日本語教師養成講座


     

    ひろこ 日本語教師の養成講座に通うきっかけは何だったんですか。

    布施 中山さんは知らないかもしれませんが、昔、安田成美と香取慎吾の「ドク」というドラマがあって、それを見て「こんな仕事もあるんだな」って思ったんです。

    ひろこ 見たことはないんですが、名前だけ知っています。安田成美が日本語教師で香取慎吾が「ドク」というベトナム人留学生の役なんですよね。

    布施 それです。まあ、そのドラマはあくまできっかけの1つで、メインはやっぱり語学の仕事がしたいと思って、海外で働ける仕事を検索したら「日本語教師」という仕事が出てきて、それで養成講座に通い始めました。

    ひろこ それはやはり、大学時代に学んだスペイン語を活かしたいと思ってですか?

    布施 そうですね。スペイン語圏で、しかもちゃんとお金をもらって仕事がしたいなと思って

    ひろこ 「お金をもらって」って大事ですよね。では、養成講座が終わってから、日本語教師として就職されたってことですか。

    布施 それが、養成講座が修了した後に日本語教育能力試験を受けたり結婚したりして疲れてしまって……

    ひろこ ここで結婚! ついでみたいになっていますけど大事件じゃないですか。

    布施 大事件ではないんですが……。まあ、とにかく旅行会社時代の同僚と結婚したんですけど、結婚式って疲れるじゃないですか。

    ひろこ そうですね。私も先日かなり簡単な結婚式をしたのですが、それでもいろいろあったので、普通の式をされる方は本当に大変だと思います。

    布施 半年ぐらいは主婦をしながら在宅でできる旅行関係のバイトもしてみたんですけど、やはり対面じゃないとダメだなと思ったので、日本語学校に応募して非常勤で仕事を始めました。

    ひろこ 養成講座のあと時間が空くと、ちょっと不安じゃないですか。まあ、時間が空いてなくても不安ですが。

    布施 それが、勤め先の日本語学校が新人研修をしてくれて、すごくよかったんです。

    ひろこ 日本語学校で新人研修があるっていいですね。

    布施 たまたまそのときは5人も新人の先生がいたので、その学校でも初めて研修をしたそうです。先生方もベテランでしたし、同期もいい人たちばかりで、だからいままで続けられているんだと思います。

    ひろこ 確か、日本でお仕事をされた後に中国に行かれたんですよね。

    布施 そうなんです。やはり海外で仕事がしたくて。主人が中国の大連に留学していた経験を活かして転職先を探し、移住しました。

    ひろこ 布施さんご自身は大連に移住してからお仕事を探したんですね。すぐに見つかるものなんですか。

    布施 それがちょうど中国と日本のビジネスが盛り上がっていたので、おかげさまで日本企業からのアウトソーシングを受ける会社で、中国人スタッフに日本語を教える仕事が見つかりました。

    ひろこ すごいですね。とんとん拍子じゃないですか。どれぐらい大連にいたんですか。

    布施 3年半です。

    ひろこ 長いですね。

    布施 はい、けっこう楽しかったんですよ。でも異動をきっかけに辞めて、帰国して、また非常勤を始めました。

    ひろこ もう経験があるので常勤の仕事もあったと思うんですが、非常勤を選ばれたのには理由があるんですか。

    布施 単純に、当時は常勤の仕事がなかったからですね。あとは旦那の都合も考えなきゃいけないし。それに私、非常勤が好きなんです。

    ひろこ なぜですか。

    布施 クラスを受け持つのが好きなので。

    ひろこ ああ、わかります。目の前の学生と接しやすいのは非常勤のほうですよね。

    布施 常勤になると学校の運営の仕事が増えてしまって授業数が減るじゃないですか。

    ひろこ そうですね。私も同感ですし、他の先生方からも常勤になりたくない理由としてよく聞きます。

     

     


    産休・育休をとらずに大学院修了


     

    布施 それで非常勤をしていたんですけど、同じクラスを2年担当できたので、「学校の先生」みたいな仕事ができました。

    ひろこ そのクラスは入学から卒業まで同じ学生なんですか。

    布施 半分ぐらいは出たり入ったりしますが、半分は残るので、なんとなく同じクラスって感じですね。

    ひろこ 2年いるということは、大学や大学院進学を目指している人たちでしょうか。

    布施 そうなんです。それで、大学院を目指す学生たちと一緒に研究計画書を書いてみて、応募したら合格したんです。

    ひろこ え? そんなことあります??

    布施 本当なんです。私は大学のときに卒論も書いていなかったので、JASSOが出している研究計画書の本を学生たちと一緒に読んで、研究計画書を書いて。

    ひろこ じゃあ、大学院に行くつもりはなかったけど、受かってしまったんですか?

    布施 いやいや、もともと大学院には行きたいなと思っていたんです。国際交流基金の専門家の募集説明会に行ったときに、いまから修士をとればスペインかメキシコに行けるチャンスがあるとも思いましたし。それに年齢のことも考えると出産は難しいかなと思って、駄目元で応募したら受かったという……。

    ひろこ そうしたら大学院には合格したし、さらに妊娠も……。

    布施 そうなんです。入学してすぐ妊娠していたみたいなんですけど、気がついたのが6月ぐらいで。だから普通に前期は授業に出て、夏休み挟んだら安定期に入ったのでそのまま後期の授業も普通に行けて……

    ひろこ つわりとかはなかったんですか。

    布施 それが、私つわりがほとんどなかったんですよ。でもその代わりにすごく眠くて。なので、夏休み中はよく寝ていました。

    ひろこ でも出産時期はさすがにお休みしたんですよね。

    布施 それが、出産予定日が2月頭だったんですけど、後期の授業やテストはすべて1月31日に終わったので、後期も休むことなく普通に出席できたんです

    ひろこ すごい! 奇跡!! じゃ、レポートも問題なく?

    布施 はい。レポートの提出日が2月頭だったので、出産がかぶると思って、1月中に書いておいたんです。そうしたら出産が予定日より遅れて、かなりのんびりしていました。

    ひろこ 研究も早めに進めていたんですか。

    布施 もともとアカデミックジャパニーズの実践授業で研究計画書を出していたんですけど、授業をしながら研究するのは難しくなり、テーマを「教師不安」に変更しました。

    ひろこ テーマを決めるのってけっこう時間がかかると思うんですけど、切り替えるのに時間はかからなかったんですか。

    布施 もう決めないと間に合わないというタイミングだったので……。6月ぐらいに妊娠がわかってからテーマを変えて、秋にはインタビューをして分析をして質問項目を作ってと、できるだけ早めに進めました。

    ひろこ その後、ご出産されたんですね。

    布施 はい。出産後に質問項目を調整して、2年目の春ぐらいに質問紙調査(アンケート調査)をして、夏ぐらいに拡散して、秋にフォローアップインタビューをして、冬に分析と執筆、という感じです。

    ひろこ お話聞いているとすごく順調に聞こえるんですけど、妊娠すると、出産前はもちろん、出産後って結構大変じゃないですか。それはどうやって乗り越えられたんですか。

    布施 それがですね。たまたま自宅からすぐのところに0歳児から預けられる保育園があったんですね。それでたまたま4月から入園できたので、研究に集中できたんです。

    ひろこ やはり保育園って大事ですね。

    布施 本当に大事です。入園できるまではずっと心配で。でもおかげさまで入園できたので、7月には職場にも復帰して。

    ひろこ え! 職場にも?

    布施 やっぱりアンケートをとったりする関係で働いていないとお願いしづらいので。なので、大学院は週に2日、仕事も週に2日していました。

    ひろこ なんか……、本当にすごいなあとしか言えないです。かんたんにマネできることではないですね。

     

     


    人生には自分が動かせないことがある


     

    ひろこ 布施さんは日本語を教える仕事だけじゃなくて、養成講座のお仕事も研究のお仕事もいろいろされているうえに子育ても家事もこなして……。感心すると同時に反省。私は仕事と研究と家事ちょっとしかしていないのに、なかなか研究が進まないし家事も適当なのにイライラしてしまって……。

    布施 よくわかります。私はたまたま、本当にタイミングがよかっただけです。最初は専業主婦だったじゃないですか。それで、家事に慣れてきた頃に日本語教師を始めたので仕事に集中できましたし、日本語教師に慣れてきた頃に海外に行って経験が積めましたし。

    ひろこ 初めてのことが重ならなかったんです

    布施 はい。日本に戻ってからまた日本語教師をしましたけど、その頃には授業には慣れていたので自分の勉強ができて、妊娠したときには仕事にも結婚生活にも慣れていたので、本当にいいタイミングでした。

    ひろこ なるほど。アラビア語で「アルハムドリッラー」という言葉があるんですけど、「神様のお恵みで」とか「神様のおかげで」という意味なんですが、まさに「アルハムドリッラー」ですね。

    布施 そうですね。本当に。運命とか何か人が動かせないことってあるんだな、と私も思います。これまでお話ししたこともそうなんですが、実は修士が終わってからスペイン語圏に行けるチャンスを手に入れたんです。

    ひろこ 念願の海外、しかもスペイン語圏でのお仕事ですね。

    布施 はい。やっと行けると思ったんですが、最後の健康診断で失格になってしまって、海外に行くチャンスを失ったんです。それで、海外に行けないなら何がしたいかをもう一度考えたら、人をサポートしたいなと思うようになって、日本語教師養成講座の仕事を始めました。

    ひろこ 布施さんは切り替え上手というか、きっと切り替わるまでにいろんなことがあったと思うんですが、ちゃんと自分の人生を受け止めてちゃんと前に進んでいるって感じですね。

    布施 そんなすごいものじゃないんですが、人生の選択肢ってだんだん狭まってくるじゃないですか。そのときに何ができるかを考えるしかないっていうか……。

    ひろこ そうですね。歳をとるってなんでもできるわけじゃないって実感します。

    布施 私は子供のときに大きな病気をしていたので、もう自分の意思だけではどうにもならないことがあるんだなって実感はあったんです。でもそれは悪いことばかりじゃなくて、失うものもあれば得られるものもあるというか。羽生くんも言っていたんですけど(注:インタビューの数日前に羽生結弦選手が金メダルをとった)、「辛い時期があるからこそ絶対登れる」「明けない夜はない」って本当にそうだと思うんです。マイナスがあるからこそプラスが活きるし輝けるんだと思います。

    ひろこ 素敵ですね。

    布施 中山さんも言ってたじゃないですか。

    ひろこ あ、「アルハムドリッラー」。
    それで、日本に残ることになったこともあって、博士課程に進まれたんですか。

    布施 そうですね。養成講座のお仕事をしているんですが、できれば大学や大学院で養成の仕事をしたいと思うようになったので、そのためには大学の常勤になるしかない!と目覚めたんです。それで博士課程に進みました。

    ひろこ じゃあゴールは大学の先生になることなんですね。目標のために邁進されている姿がかっこいいです。

    布施 中山さんもですよ。

    ひろこ 私はあまり研究に邁進できていなくてお恥ずかしいです。

    布施 そんなことないですよ。一緒に頑張りましょう。

    ひろこ はい、頑張ります! 今日はお忙しいところ、長い時間お付き合いいただいてありがとうございました。

    布施 :こちらこそ、ありがとうございました。

     

     

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