センパイ! 大学院って何をすればいいんですか!? vol.8 海外のセンパイ(3)

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【連載】センパイ! 大学院って何をすればいいんですか!?〈毎月第3金曜日更新〉

vol.8 海外のセンパイ(3)

みなさん、こんにちは。ひろこです。研究計画がまだ定まらず、焦ります!
「海外のセンパイ」シリーズ、海外の大学院→海外で教えている荻野センパイ、国内の大学院→海外で教えている小川センパイにお話をうかがい、今回は海外の大学院→国内で教えている高嶋センパイにお話を聞きました。大学院のこと、研究のこと、センパイ、教えてください!

 

《センパイ》高嶋幸太(たかしま・こうた)氏 東京学芸大学日本語教育専攻卒、英国グリニッジ大学大学院MA Management of Language Learning修了。青年海外協力隊の派遣国であるモンゴル、留学先のイギリスでも日本語を教える。著書に『その日本語、どこがおかしい? 日本語教師のための文型指導法ガイドブック』(国際語学社、共著)、『〈初級者の間違いから学ぶ〉日本語文法を教えるためのポイント30』(大修館書店、共著)。個人サイト「世界の日本語図書室」運営。

《聞き手》中山裕子(なかやま・ひろこ) 大学卒業後、旅行会社の社員を経て日本語教師に。国内の日本語学校や中東のヨルダンで日本語を教えてきた。今年4月から大学院に進学。でも大学院って何をすればいいのか、わからない! そうだ、先輩方に聞いてみよう!

 

 


イギリスの大学院を選んだ理由


 

ひろこ お久しぶりです。というか、ちゃんとお話しするのは今日が初めてですね。

高嶋 そうですね。

ひろこ 私は学会で高嶋さんの発表を拝見するのでよく見てはいるんですけど。高嶋さんはそもそも青年海外協力隊のセンパイなんですよね。

高嶋 そうなりますね。中山さんのちょっと前ぐらいかな。私はモンゴルに行っていました。

ひろこ その前は何をされていたんですか。

高嶋 日本語学校の非常勤をしていました。その前が大学生です。

ひろこ だから若いんですね。

高嶋 (笑)。日本語学校を半年ほどで辞めて、協力隊に行きましたからね。

ひろこ なんだか展開がとても早いというか計画的というか、目的意識がはっきりしていますよね。大学院に行くのも、モンゴルにいるときから決められていたんですか。

高嶋 漠然と大学院には行きたいと考えてはいました。

ひろこ でも、大学院は日本にもあるし、海外にもいろんな国にありますよね。そのなかでどうしてイギリスを選ばれたんですか。

高嶋 まず、海外に行きたいって気持ちが強くなって。どうして海外かというと理由は3つありました。1つ目は言語教育について書かれている論文は英語が圧倒的に多いし、それを読むなら海外のなかでも特に英語圏がいいと考えたからです。2つ目が、今後留学生教育とかにかかわるなら自分が留学生の気持ちを知らなくちゃいけないっていうのがあったからです。

ひろこ そうですね。確かにそこは本や論文を読むよりも体験してわかることのほうが多そうです。

高嶋 3つ目が、海外にいるといろんな外国語教育の先生と知り合えると思ったからです。

ひろこ 実際どうでしたか?

高嶋 英語やフランス語の先生がクラスにいましたし、指導教員はイタリア語の先生でした。

ひろこ じゃあ、その3つの条件がクリアできたのがイギリスだったんですね。

高嶋 オーストラリアやアメリカの大学院も選択肢としてありましたけど、イギリスは1年だし、資金的にもこれなら行けるかなって思ってイギリスにしました。

 

 


修士を1年でとるための研究


 

ひろこ やっぱり1年って魅力的ですよね。ただ、すごく大変そうで……。

高嶋 だからセルフマネージメントが大事ですよね。入学して3ヶ月でリサーチクエスチョンを作って、実験して、検証して……。

ひろこ は、早い! 私、入学して半年以上経ちますけど、未だにリサーチクエスチョンすらまとまっていません。

高嶋 まあ、2年ありますからね。

ひろこ いや、それだけが原因じゃないと思いますが……。いや、私の話はさておき、高嶋さんの当時の研究はどんな内容なんですか。

高嶋 私は第二言語習得のフィードバックを研究テーマにしていて、少し詳しい話をすると、英語教育では冠詞についてこういう風に教えれば効果があるとわかっているけど、日本語教育の助詞ではどうか?というのを元に研究しました。

ひろこ 英語教育の研究を元にしているんですね。

高嶋 さまざまな研究があるわけですから、日本語教育学の先行研究だけではなく、ほかの外国語教育学の先行研究も参考にして、活かせるところは活かしたらいいと思いますよ。

ひろこ すごく勉強になります! 私はいままで日本語教育の論文しか読んでこなかったので、英語教育は盲点でした。

高嶋 そうなんですね。日本の大学院ではあまり紹介しないのかな。

ひろこ いやー、どうですかね。私が見落としていただけかも。ちなみにその実験っていうのはどういったことをするんですか。

高嶋 実験ではプリテストをして、トリートメント(指導)を2回施して、そのあとでもう1度テストして結果を検証しました。

ひろこ その実験はどこでしたんですか。

高嶋 当時、語学学校の日本語コースでアルバイトをしていたので、そこの学習者に協力してもらいました。

ひろこ それはいいですね。実験って結構時間がかかるから協力者を探すのが大変ですよね。

高嶋 でもこれは全部1日で終わらせました。

ひろこ え、これ全部1日なんですか?

高嶋 はい。

ひろこ さすが1年修了コース。すべてが早いんですね……。

高嶋 いや、そういうわけではなくて。トリートメントをしてから時間を空けてしまうと、その間に日本語と接触してしまい、その外部要因によって最後のテストの成績が上がった、という可能性が出てきてしまうからです。それを避けるためですね。

ひろこ ああ、なるほど。確かに1日で終わらせればコントロールできますね。

 

 


イギリス留学で大変だったこと


 

ひろこ イギリス留学で大変だったことって何ですか。

高嶋 英語で論文を書くことですね。

ひろこ あ、そうか。そうですよね。日本語教育でも英語で書くんですよね。もともと英語は得意だったんですか。

高嶋 そこそこだったんですけど、一応試験には合格できました。でも、英語が母語じゃないので、大学院が始まる5週間前に「プリセッショナルコース」というのに参加してアカデミックイングリッシュを学ぶように勧められました。大学院は9月入学なんですが、8月からそのコースに参加して、エッセイの書き方やアカデミックなプレゼンテーションのやり方を叩き込まれました。

ひろこ それすごくいいですね〜。

高嶋 イギリスではどこの大学も留学生のためにそういうコースを設けているそうですよ。

ひろこ 私は日本人ですけど、日本人向けにアカデミックライティングのコースとか開いてほしいです。日本語の。

高嶋 え、日本の大学院にはそういう授業ないんですか?

ひろこ 私も自分の大学しか知らないんですけど、論文の書き方とかプレゼンテーションの仕方の授業っていうのはないです。ただ、ゼミがあって自分の研究について発表する機会は多いので、そこでレジメの書き方とか発表の仕方とかを、先輩のを見ながら教えてもらいながら自分で本とか読みながらって感じです。

高嶋 そうなんですね。

ひろこ 高嶋さんが研究をいまも続けていられるのは、イギリスで勉強した経験が大きいですか。

高嶋 そうですね。大学院では「外国語教育リサーチ方法論」「第二言語習得研究」「外国語教授法」「外国語学習におけるICT活用論」などの講義を受講したんですが、それらの知識は血肉になっています。でも、日本に帰ってからもだいぶ学びましたよ。

ひろこ 日本だと、どこで学ぶんですか。

高嶋 学会で発表してコメントをもらったり、論文を書いて学会誌に投稿してコメントをもらったり……。それでどう見られているのかを知って、軌道修正していくなかで現在も学んでいるところです。

ひろこ なるほど。そう考えると、私がいまやっているゼミの発表が、ある意味研究発表の場所なのかもしれません。参加者の人数や参加する人は違いますが、一応コメントをしたりもらえたりはするので。

高嶋 私はあまりできなかったんですけど、大学院のときにいろんなところで発表するのはすごくいい勉強になりますよ。力にもなるし。

ひろこ そうですね。私も発表したいです。

高嶋 書類は前もって用意しなきゃいけないので早めに頑張ってくださいね。

ひろこ は、はい。

 

 


他の分野との共同研究が楽しい


 

ひろこ 高嶋さんは、留学を終えてからも論文を書いたり発表もされたり、すごく活発だなあと思います。しかも日本語教育だけじゃなくて、他の分野でも発表されたり講演会をされたりしていますよね。

高嶋 この前は教育心理学会で「学生が望む大学におけるよい第二外国語教育」について発表したんですけど、日本語教育が題材ではないですね。

ひろこ どういう研究なんですか。

高嶋 統計学の先生との共同研究で、ある大学の第二外国語を受講している学生たちに質問紙調査を実施して分析し、よい第二外国語教育を探る……というのをやりました。

ひろこ 面白いですね。じゃ、その結果が大学に還元されて、よりよい外国語教育ができるようになるかもしれませんね。

高嶋 あんまり人がやっていないし、どんな結果が出るかワクワクしますからね。それに、外国語教育学で連携・協力して、知見を共有していけたらいいなとも思っていまして。

ひろこ 面白いことを追い求めているから研究が次々と生まれるんですね。

高嶋 日本語教育と他の分野をプラスしていくのって面白いと思いますよ。日本語教育にとどまらず、社会学とか心理学とか、何でもいいから飛び出して研究するといろんな世界が見えてくると思います。

ひろこ 実際に他の分野とコラボしてみてどうですか。

高嶋 楽しいですよ。まだ誰もやっていないことがまだまだたくさんありますから。

ひろこ じゃあ、仕事としても日本語教育にこだわらずにいろんなことに挑戦していく予定なんですか。

高嶋 そうですね。面白そうなことを見つけて、それで仕事になっていったらいいなーとは思っていますし、いまは日本語教育を社会に伝えるのが楽しいですね。日本語を母語にしている人だけみても1億数千人いるわけですから、日本語教育だけじゃなくて、さまざまな人たちに何か伝えたり社会とつながったりしていけたらいいなって思います。

ひろこ 社会とつながる、いいですね。

高嶋 中山さんもいろいろと活躍されることを楽しみにしています。

ひろこ 最後に、これから大学院に入学する人や、現在大学院にいる人へメッセージをお願いします。

高嶋 そうですね……。自分が夢中になれることをトピックやテーマにすれば楽しい時間を過ごせると思います。そしてそれが研究として有意義なものになっていくと思います。

ひろこ 夢中になれること……。最近その感覚を忘れていたので、私も気持ちを改めて研究します。今日はありがとうございました!

 

 

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