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    【連載】センパイ! 大学院って何をすればいいんですか!?〈毎月第3金曜日更新〉

    vol.10 修士課程のセンパイ

    みなさん、こんにちは。ひろこです。
    今回は修士論文を提出したばかりのセンパイに具体的な話を聞きたくて、同じ大学院のセンパイにインタビューしました。来年の今頃、私も提出できているといなあ……。

     

    《センパイ》大石忍(おおいし・しのぶ)氏 大学卒業後、青年海外協力隊(JICAボランティア)日本語教師隊員としてタイへ。帰国後、国内の日本語学校に非常勤講師として勤務しながら日本語教育専攻の大学院に入学。論文を提出し終えたばかりのセンパイ。

     


    《聞き手》中山裕子(なかやま・ひろこ) 大学卒業後、旅行会社の社員を経て日本語教師に。国内の日本語学校や中東のヨルダンで日本語を教えてきた。2017年4月から大学院に進学。でも大学院って何をすればいいのか、わからない! そうだ、先輩方に聞いてみよう!

     

     

     


    働きながら大学院生として研究


     

    ひろこ 大石さんはJICAボランティアを経て日本語教師をしながら大学院に通っている、というご経歴が私と似ているので、1度お話をうかがいたいなと思っていたんです。

    大石 似ていますね。

    ひろこ 違うのは、大石さんは大学の学部を卒業してすぐJICAボランティアとして派遣されてますよね?

    大石 はい。社会人経験なしで参加しました。大学では歴史社会学科の国際交流専攻で、日本語教育は副専攻でした。

    ひろこ JICAボランティアに応募したときは、日本語教師になろうと思って応募したんですか?

    大石 そうですね。

    ひろこ 帰国したら大学院に行くことも決めていたんですか。

    大石 はい。JICAボランティアに応募する時点で、大学院の受験の準備もしていて……

    ひろこ すごい!

    大石 私、1度JICAボランティアに落ちているんです。次に落ちたら無職になってしまうので、進学の準備もしておきました。

    ひろこ なるほど。だから大石さんは帰国してすぐに大学院に行ったんですね。

    大石 すぐでもないです。1年はかかりました。帰国が9月だったので、出願が間に合わなくて。

    ひろこ でも、ちゃんと計画を立てて進めてるって感じですね。日本語学校の仕事はいつから始めたんですか。

    大石 帰国して、修士入学の準備が終わってからです。

    ひろこ 初めて日本語学校で教えるといろいろ大変じゃないですか。準備とか。

    大石 そうですね。だから週1~2回ぐらいしか入ってません。

    ひろこ 十分だと思います!

    大石 でも、みなさん、大学院生は時間があると思われているので……

    ひろこ わかります! 私ももっと時間があると思っていました。まさかこんなに授業があるなんて……。週3、4日は行かないと終わらないですよね。

    大石 レポートの時期とか、「これ、終わるのかなあ」って思いますよね。

    ひろこ 本当に。勉強になりますけど。

    大石 時間の使い方の勉強にもなりますよね。

    ひろこ ああ、確かに。仕事をしながら大学院に通うのはどうでしたか。

    大石 2年だからなんとかなった、という感じですね。もしこれが博士課程とかでもっと研究に集中したかったら難しいと思います。

    ひろこ 研究しながら現場で教えていて、良いことはありましたか。

    大石 ありました。私の研究は非漢字圏の漢字習得についてなんですけど、いま仕事で担当しているクラスにも非漢字圏の学生がいて、漢字がネックになって伸び悩んでいる人もいて。それで漢字の補助教材を作るときに自分の研究を参考にしました。

    ひろこ さっそく実践できているんですね。

     

     

     


    論文提出までのスケジュール


     

     

    ひろこ テーマが決まるまでや、決まってから論文提出まではどんなスケジュールだったんですか。

    大石 入学してすぐスケジュールを立てたんですが、実際はそれとだいぶ変わりました。最初のスケジュールではテーマを1年生の9月までに決めている予定だったんですが、全然決まらなくて……

    ひろこ わかります。

    大石 それで、先生や先輩方にもいろいろアドバイスもらうじゃないですか。それで余計ぐちゃぐちゃに……

    ひろこ わかります! それぞれのアドバイスもすごく参考になるし面白いなって思うんですよね。でも、だからこそ結局何をしたらいいのかわからなくなってしまうという……

    大石 そうなんです。それでいろんな人にいろいろ聞いて、ある先生が「もう自分がこれって決めたら進んじゃえばいいんだよ」って言ってくださって。「結果が出ても出なくても、それをちゃんと書けば論文になる」って。他の先輩にも「これでいい、これでやるって自分で決めないと進めないよ」って言われてやっと決めました。

    ひろこ テーマを決めたきっかけはなんですか。

    大石 タイでの経験と帰国してからの仕事の経験で、漢字ができなくて伸び悩んでいる学生をたくさん見てきたので、そこからですね。

    ひろこ 漢字で悩む方、多いですよね。漢字をやろうと決めてから、テーマを絞るためには何をしたんですか。

    大石 12月と1月にしたインタビューを聞いて、真新しいものを探して、ピンときたものに関係する先行研究を探して、という感じですね。

    ひろこ やっぱり、自分で「これ!」と思えるものじゃないと難しいですよね。少なくとも1年ぐらいはお付き合いするテーマなので。

    大石 そしてあわよくばその先も……

    ひろこ あ、そうですね!

    大石 それで最終的にテーマを決めたのが、1年目の終わりぐらいですね。1年目の12月にインタビューをして、それが予備調査になりました。

    ひろこ そのあとはどんなスケジュールで進んだんですか。

    大石 12月から1月にインタビューをして、2月から3月にそのまとめを書いて、そこから実験の計画を立てました。

    ひろこ 大石さんの実験は確か8月でしたよね。

    大石 はい、2週間タイに行ってきました。

    ひろこ じゃ、帰国後に分析ですか。

    大石 そうですね。ただ、帰国してすぐは就職活動をしていたので、1カ月ぐらいは何もしていませんでした。

    ひろこ まあ、寝かせていたということですね。

    大石 そうそう。それで、10月ぐらいからデータのまとめをして、分析を始めたんですが……。私は誰よりも分析に時間かかりました。

    ひろこ どのぐらいかかったんですか。

    大石 最後の分析が終わったのが年末で……

    ひろこ え! あれ? 論文提出の締め切りっていつでしたっけ?

    大石 1月16日です。

    ひろこ そんなにかかるものなんですね。

    大石 分析は論文に載せたものもあれば載せていないものもあって、載せないものを省いたときに、新しい視点から分析する必要があるものが出てきてしまって……

    ひろこ 3カ月ずっと分析……

    大石 分析方法を決めておけば、もっと早く終わると思います。

    ひろこ 実験計画に分析方法も入れていたんですよね。

    大石 はい。でも、この分析をしたらこういう結果が出て、じゃあほかの視点から見たら……というところまでは想定していませんでした。

    ひろこ なるほど。

    大石 「とりあえずこのデータもとっておこう」っていう考え方あるじゃないですか。あれは危険です。

    ひろこ じゃ、分析と執筆は同時進行だったんですね。

    大石 そうですね。

     

     

     


    協力者を探すときに大事なこと


     

     

    ひろこ 実験はタイの高校で2週間実施したんですよね。

    大石 そうです。JICAボランティアのときにお世話になった学校で実験させてもらいました。協力してくれて助かりました。

    ひろこ 協力してくれるところを探すのってなかなか難しいですよね。

    大石 本当にお世話になりました。

    ひろこ でも、その実験ができたのは、大石さんが2年間、いい関係を現地で築いたからじゃないですか。そのご縁が研究につながったというか。

    大石 研究をしていて、本当にご縁って大事だなって思いました。

    ひろこ 学校以外にご縁はありましたか。

    大石 予備実験の調査協力者を探していたときですね。なかなか見つからなくて。特に私はタイからの留学生にインタビューがしたかったので、少ないんですよね。

    ひろこ 確かに。

    大石 最初は6人しか集まらなくてどうしようと思ったんですが、インタビューを受けてくれた人が友達を紹介してくれたりして、最終的に20人まで集まりました。

    ひろこ ご縁というか人徳ですね。

    大石 そのときに、この実験は何のためにやっているのかを相手に伝えるのが大事だなと思いました。

    ひろこ 「きっとこの研究はタイの学習者の漢字学習に役に立つよ」と伝えていたってことですか。

    大石 そういう思いでいるとは伝えていました。だから、何人かはインタビューに協力してくれた後に「タイのためにありがとうございます」とお礼を言ってくれる人がいて、泣きました。

    ひろこ 嬉しいですね。そんな風に言ってもらえて。

    大石 そうですね。それにインタビューって研究するほうにとっては必要ですけど、インタビューを受けるほうは面倒じゃないですか。それを付き合ってくれた上にお礼まで言ってくれて。

    ひろこ これからみなさんにフィードバックしなきゃですね。

     

     

     


    計画的に進めるには


     

    ひろこ お話を聞いていて、ちゃんとまっすぐ進んでいるなあ、と感じるんです。JICAボランティアに応募して、大学院行って、ちゃんと研究して、研究に関係ある就職先も決まって……。どうやったら計画的になれるんですかね。

    大石 それは、心配性だからだと思います。

    ひろこ 心配性?

    大石 ほかの人に突かれたら怖いので、何か言われそうなところは先行研究を読んでそれにならうようにしていました。

    ひろこ 研究では大事なことですよね。

    大石 でもそうなると新規性に欠けるというか……

    ひろこ いろんな本に「修士過程では新規性よりもまず手順を覚えるべし」と書いてありましたが。

    大石 一長一短ですよ。

    ひろこ でも、いいなあ。

    大石 研究が続けられたのは要所要所でいろんな人が後押ししてくれたからですよ。テーマが決まらないときに、先生が「好きなものをやればいい」と言ってくださったりとか、インタビューに協力してくれた人たちが「ありがとう」って言ってくれたりとか……

    ひろこ じゃあ、執筆中の後押しは何だったんですか。

    大石 同期ですね。「いまどこ書いてる?」とか聞きあって、励ましあってました。

    ひろこ 私たちもいまレポートの時期になると同じようなことをしています。

    大石 それがいいですよ。修論はレポート以上にすごい状態になりますよ。みんな余裕ないから。

    ひろこ 勝手に大石さんは余裕なのかと思っていました。

    大石 いやいや、そんなことないですよ。もう思い出したくないぐらい。

    ひろこ そうですか。じゃ、そんな状態でも論文を出した大石さんから、これから大学院に入ろうと思っている方々へのアドバイスをお願いします。

    大石 アドバイス……

    ひろこ テーマが決まらないとか、仕事忙しいしできるかなとか、不安に思っている方もいると思うので。

    大石 何というか、自分はこれがやりたいと思えて、それを守れるだけのものが何かしらあれば、2年はなんとかなります。私の場合は、人との縁のおかげで何とかなりました。結構そういう人はいると思います。

    ひろこ 人とのご縁、大事ですね。私も大事にしていきます。それでは今日はお疲れのところお付き合いいただいてありがとうございました。

    大石 こちらこそ、ありがとうございました。

     

     

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