【インタビュー】日本語教師転職エージェント・トレデキム 関行太郎社長

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有効求人倍率が25年ぶりの高水準を記録し、あちこちの業界で人材不足が問題となっていることもあり、人材紹介会社は各社業績を伸ばしている。日本語教育業界も教師不足に悩んでいるものの、これまで日本語教育業界を専門とした人材系の会社はなかった。「ないなら作ろう」と立ち上がったのが、日本語学校の責任者等も務めてきた関行太郎氏。開業を目前に控え、準備に忙しい関氏にその想いを聞いた。(取材は、2016年12月の開業前に行いました)

 


関社長関 行太郎(せき・こうたろう)氏
 株式会社トレデキム代表取締役。学生時代に日本語教師養成講座に通い、大学卒業後、学芸員の仕事を経て日本語教師に。中国の日本語学校で7年、日本の日本語学校で3年間働く。2016年12月、日本語教育業界に特化した人材紹介会社トレデキムを設立した。

 

 


日本語教育業界の離職率を下げることで
人材不足の解消に貢献したい


――この事務所はとても便利なところにありますね。

 日本語学校の多い高田馬場か新宿で物件を探していました。ここは大久保駅から徒歩5分、新宿駅から徒歩10分と便利なのに賃料が安いんです。ビル自体は古いですが、中はキレイにしようと、いま自分で少しずつリフォームしています。

 

――日本語教師の転職エージェントとして開業されるそうですね。

関 はい。いま日本語教育業界では人材不足と、それに起因するサービスの低下が著しいですよね。それは自分が1つの学校で働いていて変えられるものではない、業界を横断する新しいサービスをつくらないと改善できないと考えて、転職エージェントを始めることにしました。

私は、人材不足を解決するための方法が3つあると思っていて。①人材を雇用すること、②離職率を下げること、③仕事の生産性をあげることの3つなんですけど、当社のサービスによって②の離職率を下げることをめざしたいと考えています。

現状、ほとんどの日本語教師は、実際に学校に就職してみて働いてみないと、職場のことがよくわからないという状態に置かれていますよね。それが原因でミスマッチが起きてすぐに離職してしまう。採用担当者の仕事も多くなってたいへんです。当社が間に入ることによって、ミスマッチを減らしていきたい。1人でも多くの日本語教師に「満足して働く機会」を、1つでも多くの日本語教育機関に「この人が来てくれてよかった」と言える人材との出会いを提供し続ける、というのが当社のミッションです。

また、紹介して終わりではなく、紹介した人材については定期的にカウンセリングを続け、離職を未然に防いでいきます。

 

――そのビジネスモデルを思いついたきっかけは?

 以前から「35歳までに独立したい」という想いがあり、何をしようか考えていました。いま、たとえば保育業界や介護業界でも人材が不足していますが、それぞれの業界に特化した人材紹介などのサービスがあります。日本語教育業界だけ、ない。日本語学校の責任者として感じていた業界の問題点と、これからどんな仕事をしていくか、そんなことをずっと考えていたら、うまいこと頭の中でつながって、今年の夏にパッとひらめきました。

 

――それからどんな準備をしましたか?

 10年前くらいにつくった教案サイトの月間ページビューがいまでも1万くらいあります。このサイトでアンケートを行い登録者を募ったところ、1ヶ月で150人くらい集まりました。

 

――学校側の登録は?

 求職者の方に変な学校を紹介するわけにはいかないので、これまでの経験からよく知っていてお付き合いのある学校の中から厳選し、ある程度数を絞ってスタートするつもりです。

 


日本語教師の無料求人サイトは
もっとたくさんの情報を載せるべき


ウェブサイト
トレデキムのウェブサイト。お問い合わせはこちらから

――ところで、関さんはいまも現場で日本語教師を続けていらっしゃるとか?

 今日も午前中は授業に行ってきました。いま2つの学校で非常勤講師として働いています。これはいろいろな学校が見られるチャンスにもなっています。開業後はさすがに続けるわけにはいきませんけどね。

 

――日本語教育業界には、無料で求人情報を載せられるサイトがいくつかありますよね。そういうサイトのことはどう見ていますか?

 もっと情報を詳しく載せていけば反応率も上がってくるはずなのに、どうしてどこもしないんだろうと思っています。たとえば私は、iPhoneをプロジェクターで写して授業をしているので、Wi-Fiが使える使えないは死活問題なんです。Wi-Fiがなかったら全部紙でやらなくちゃいけないし。でもそういう細かい情報は無料サイトには載っていません。

 

――一般的な転職サイトだと、社員の声とか職場の写真とかいろいろ載っていますよね。そんなサイトをつくるとか?

 「エン転職」というサイトでは、各社の求人情報の横に、「会社の評判」というサイトの口コミ情報が出てくるんですよ。あのシステムはすごくいいですよね。求人を出す方は怖いけど。

 

――そこまでシビアなサイトだと、求人情報を出す日本語学校がないかも。

 そういうサイトにも自信をもって参加できる学校ばかりになってくれれば、働きやすい業界になるんですけどね。当社の事業によって、いい学校にいい先生が集まるようにしたいと思っています。

 


社員の生産性向上に寄与する
もう一つの事業とは



――「いい学校にいい先生」ということですが、紹介する人材は、すでに実力が認められている教師になりますか?

 そうですね。でも、養成講座を出たばかりの未経験の方こそ、何も情報がなくて学校探しに困ると思うんです。だから養成講座を出たばかりの未経験の方についても考えています。最初は非常勤になると思いますが、研修等が充実した学校をご紹介し、その人がある程度経験を積んで、次は常勤として紹介できる人材に育ってくれれば。未経験者が常勤に育つまで、うちの会社が存続できるかわかりませんけど(笑)

 

――そこはがんばりましょうよ。教師以外の職種はいかがですか?

 事務職員や営業スタッフも需要があるので広く扱っていきたいです。事務職員は、たとえば「中国語で入管業務ができる人材」とか、「経理業務ができる人材」など、教師よりもむしろピンポイントの要望が多いので、人材の集め方が難しいですね。

 

――紹介以外の業務も考えていますか?

 最初に人材不足への対応を3つお話ししました。その3番めの「生産性の向上」への取り組みがもう1つの柱です。社員がスキルアップして、3人でやっている仕事を2人でできるようになれば、残りの1人が別の業務を担当できます。これが生産性の向上による人材不足の解消です。そのために当社が考えているのが研修事業です。

日本語学校は、研修したいけど自分のところで研修している余裕がありません。とくに教務主任の先生は無理して研修してひいひい言っている人が多いと思います。各学校でバラバラにたいへんな想いをしているのも効率が悪いですよね。

一般企業だと、デロイトトーマツなどが定額制社員研修というサービスを提供しています。毎月4万5000円払えば、その企業の社員はデロイトトーマツが提供する約150の研修が受け放題になるというもの。これと同じサービスを、日本語学校を対象に提供したいと考えています。初級授業の進め方など教務の講習はもちろん、事務の学生対応の方法とか、管理職向け研修とか、いろいろ用意しておいて、いくつでも受けていいですよ、というサービスが提供できないか検討しています。

 


できるだけ多くの判断基準を
求職者に提供していきたい


リフォーム中のオフィス
オフィスを借りたばかりの12月上旬にお邪魔したときの様子。関さんご自身の手でリフォーム中だった

――日本語教師の待遇はあまりよくないことが話題になることがありますが、もちろん自信をもって紹介できる学校も複数あるんですよね?

 ありますよ。すでに話が来ているところなんて、常勤講師に最初から月30万円払ってくれる。ベトナムで月20万円とか。そんなにくれるんだったら私が行きたいと思うほどです。

 

――給与以外ではどの辺を見ていますか?

 いい悪いではなく、求職者の方にできるだけ多くの情報を提供したいと思っています。人によって判断基準は違うので。

判断基準として考えている項目はたくさんありますよ。まず学生の国籍、全体の出席率……

 

――出席率?

 学生の出席率が100%に近い学校で変な学校はありません。私が以前に働いていた職場も出席率が95%以上で、先生方が「ここの学生はいままで見たことがないくらい真面目だ」と言ってくれていました。そういうところはアピールしていかないと。また、学生の年齢層も雰囲気に影響します。

教務的なことでいえば、カリキュラムが固定されているのか、ある程度教師の裁量に任されるのか。これもどちらがいいということではなく、求職者が求めているほうを紹介できるように、情報を集めています。

 

――先程、Wi-Fiのお話がありましたが、設備のほうは?

 Wi-Fiの有無は大切ですよね。あとはトイレ。学生と共用が嫌だという先生もいます。コピー機の性能も気になります。非常勤の先生は朝の忙しい時間でコピーしなくちゃいけない。そのときにコピー機がトロトロしているとイライラするんですよ。

 

――かなり細かいですね。

 小さなイライラの積み重ねが退職につながると私は思っているので、悪い芽を摘んでいくということです。

 

――なるほど。ということは、逆に日本語学校に対して、「先生方はこういう点も気にしているから直したほうがいいですよ」とコンサルティングもできる、と。

 そのあたりのコンサルティングも含めての紹介料だと思っています。当社が情報を提供して、学校が1つひとつをクリアしていったら、それだけ人が集まりやすくなる。そのうえで学校同士が競争していってくれたら、日本語教育業界も働きやすくなるだろうというのが大きな野望です。

――そうなったらいいですね。応援しています。

 

NEWS!
トレデキムの求人情報サイトがオープンしました(リンク)。人材紹介サイトも近日公開予定です。(2017年3月1日現在)

 

《聞き手》平井美里 ライターとして9年働いた後、青年海外協力隊の日本語教師隊員として、2年間、某国の大学で日本語を教えた経験をもつ。現在は当ウェブマガジンのコンテンツ拡充のために奮闘中。

 

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