ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第5回「学習者の安全のために」

最終更新日

 

【連載】ソーシャル・メディアをめぐる冒険〈毎月第4金曜日更新〉

第5回 学習者の安全のために

 

みなさん、こんにちは。今日もソーシャル・メディアで冒険してますか?

さて、先月は教師自身がソーシャル・メディアを使いこなすためのコツをいくつかご紹介しましたが、今月は学習者がソーシャル・メディアで危険な目に遭わないために、教師ができることを考えてみたいと思います。

具体的な方法を述べる前に確認しておきたいのは、人と交流するには、いつも必ず何らかのリスクはあるということです。例えばインターネットを使わない一般の国際交流イベントなどでも、誰でも参加できることが多いですよね。その際、参加者の犯罪歴などを調べることはできません。実際に、僕の住んでいるカナダでも昨年9月に日本人の留学生が英会話カフェで知り合ったとされる男に殺害される事件がありましたが、犯人は犯罪歴もあったそうです。

こうした事件は完全にはゼロにできないとは思いますが、ソーシャル・メディアを使う場合は、いくつかの方法をとることによりリスクをかなり減らすことはできます。今日は、リスクの少ないものから順番に3つほどのやり方をご紹介してみたいと思います。

 

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招待制の秘密グループ


 

いちばんリスクの少ない方法は、FacebookGoogle+などの実名制のメディアで、秘密グループを作ることです。ここではFacebookを例に取りますが、Facebookのグループには3種類あります。

  1. 公開グループ 投稿の中身も含めて全てが会員以外にも公開されている。
  2. 非公開グループ 会員リストだけが公開されている。
  3. 秘密グループ 検索結果にも出ず、招待された会員以外はその存在に気づくこともできない。

この秘密グループを教師が作り、教師が実際に知っている信頼できる日本語話者と学習者を招待すれば、学習者が何らかの犯罪に巻き込まれたりするリスクはほとんどありません。もちろん、何らかの事件を起こした人間の知人が「彼がそんな人だとは思っていなかった」などというのは世の常ですから、リスクは完全なゼロではありません。しかし、実際に日本語を使ってもらう場を提供するには、その程度のリスクをとれない教師はほとんどいないのではないでしょうか。

 

しかし、こうした秘密グループ限定の交流では参加する日本語話者の数も限られますので、多様な学習者が自分の情熱を傾けられる活動やコンテンツについて話題を共有できる可能性はあまり高くありません。

 

 


完全に可視化する


 

もう少しリスクをとって、学習者が自分の興味のあるトピックについて日本語で交流できる場を作るとしたら、やはり、交流したい相手を学習者が自分で選べるようにすることが大切です。しかし、まだ相手がどういう人物かきちんと評価できない学習者もいることでしょう。その場合、いちばん危険なのが学習者を相手と密室で2人きりにしてしまうことです。そこで何が行われるか外部から見えないという状況は避けなければなりません。

 

ソーシャル・メディアで外部から見えないやりとりは、一般にダイレクトメッセージなどと呼ばれる1対1のコミュニケーションです。つまり、ダイレクトメッセージができない状況を作れば、すべてのやりとりは可視化されるので、問題のある日本語話者は学習者にコンタクトをとりにくくなります。また、万一、怪しい人物が学習者に手を出そうとしていたとしても、すぐに教師が把握し、適切に問題に対処することができます。

 

では、どうすればすべてのやりとりを可視化することができるのでしょうか。この方法をとりやすいのはTwitterです。Twitterでダイレクトメッセージを受け取らないようにするには2つ注意しなければならないことがあります。

 

1つは設定の安全に関するページ(https://twitter.com/settings/safety)で「すべてのユーザーからダイレクトメッセージを受信する」のチェックをオフにしておくことです。これは自分でオンにしない限り、最初はオフに設定されていますので「オンにしてはだめですよ」と指示するだけでいいでしょう。

 

2つめはちょっとトリッキーなのですが、「誰もフォローしない」ということです。上述の設定をオフにしても、自分でフォローした相手はメッセージを送ることができますから、すべてを可視化するには誰もフォローしないようにしなくてはなりません。フォローしている人の数は外部から見えますから、間違って学習者が誰かをフォローしてしまったら、教師はそれを把握することができます。

 

ところで、こういうことを提案すると「フォローしないと読めないじゃないか」と思う人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。先月はあえて紹介しなかったのですが、実はTwitterにも「リスト」という機能があり、そのリストに登録しておけば、いつでも相手の投稿を読むことができるのです。Facebookのようにそのリストの人限定で自分の投稿を読んでもらうようなことはできませんが、少なくとも自分が読むときにはそのリストに登録されている人たちだけの投稿を表示することはできます。

 

読み方は簡単です。パソコンでもスマホのアプリでも、自分のアイコンをクリックかタップをすると「リスト」というメニューが出ますので、そこから読みたいリストを選ぶだけです。パソコンの人は、読みたいリストをブックマークしておくと次からはクリック1つでそのリストに登録された人の投稿を読むことができます。

 

さて、さきほど可視化することによって「教師が把握し、適切に問題に対処することができます」と書きましたが、ここでいう「適切に問題に対処する」ためのいちばん簡単な方法は、「ミュート」です。ミュートすると、相手の投稿が見えなくなり、かつ相手にミュートされたことが通知されません。@ツイートなどでメンションされたり返信されても、フォローしていない場合は自分に通知されません。詳しくは参考資料の「Twitterアカウントのミュート」(https://support.twitter.com/articles/20171588)という公式ヘルプページのフォローしていないアカウントをミュートした場合」をご覧ください。

 

ミュートに似た機能で「ブロック」というのもあります。これは相手にフォローされたくないときなどに使いますが、かなり簡単に自分がブロックされていることはわかりますので、ご利用にはご注意ください。参考資料の部分にブロックに関する公式ヘルプページも載せてあります。

 

 


管理の厳しいグループを紹介


 

さて、こうした経験を経て、学習者のネットリテラシーが育ってくると、もう少し自由にソーシャル・メディアの世界で冒険できるようになっているかもしれません。やはり、Twitterで誰もフォローしないというのはかなり不自然ですしね。

 

この段階の学習者に紹介したいのが、Facebookできちんと管理されているグループです。Facebookのグループにはいろいろなものがありますが、たとえば「日本語」という日本語学習者のグループでは、自分が攻撃の対象になるリスクをとって、問題のある会員を管理人が排除しています。また「海外旅行好きサークルwith国際交流」というグループも海外旅行好きな日本人が多くいますので、学習者が自分の国や地域のことを書くと歓迎されます。この2つのグループに共通することはグループの「説明」の部分に、会員の望ましい振る舞いや、削除、退会処分の基準などが詳細に明記してあることです。こういうグループではトラブルがあったときに管理人が積極的に関与するので、自由奔放型のグループに比べると、学習者が問題に巻き込まれる可能性はかなり低いでしょう。

 

 


リテラシーの育成が自律性の前提


 

さて、今回は学習者がソーシャル・メディアを安全に使うために教師が考えなければいけないこと書いてきました。最後にあらためて確認したいのですが、学習者のリテラシーを育てない限り、安全と自律性は両立しません。安全をとればルールで縛らなければなりませんし、リテラシーを育てないまま自由にさせれば問題に巻き込まれるリスクが高まります。そのためにも、先月号でご紹介したような方法を使いながら、まずは教師自身がソーシャル・メディアを積極的に使っていく必要があります。そして、教師がソーシャル・メディアを使えば学生だけでなく教師にとっても大きな成長のチャンスが訪れます。来月はどのようにソーシャル・メディアを活用すれば教師が学んでいけるのかをご紹介しますので、お楽しみに!

 

 

参考資料

リストの活用 | Twitterヘルプセンター
https://support.twitter.com/articles/260262

Twitterアカウントのミュート | Twitterヘルプセンターhttps://support.twitter.com/articles/20171588

Twitterアカウントのブロック | Twitterヘルプセンター
https://support.twitter.com/articles/238371

日本語(Facebookグループ)
https://www.facebook.com/groups/The.Nihongo.Learning.Community/

海外旅行好きサークルwith国際交流(Facebookグループ)
https://www.facebook.com/groups/vamos.a.viajar

 

近刊紹介
SNSで外国語をマスターする方法について筆者がまとめた書籍『冒険家メソッド』(ココ出版)が、近日刊行予定!!

 

《筆者》村上吉文 冒険家。これまで、国際協力機構(JICA)や国際交流基金からモンゴル、サウジアラビア、ベトナム、エジプト、ハンガリーなどへ派遣されてきた。2017年5月からカナダのアルバータ州教育省に勤務。ブログ「むらログ」(http://mongolia.seesaa.net/)では、日本語教育とICTに関する記事や、教育機関によらず自らの力で日本語を学ぶ「冒険家」たちについてのインタビューを発信している。

 

 

連載バックナンバー
ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第4回「教師自身が使いこなすために必要な第一歩」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第3回「自律性と一斉学習」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第2回「冒険家の実像」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第1回「なぜソーシャル・メディアか」

 

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