この教材、どう使う?『つなぐにほんご 初級』実践的活用法

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――この教材、どうやって授業で使えばいいんだろう?

――もっと学習者の役に立つ活用法が知りたい!

この連載では、このような日本語教師の声にお応えすべく、教材の実践的な活用事例をご紹介していきます。

今回ご紹介するのはつなぐにほんご初級(著者:ヒューマンアカデミー日本語学校、発行:アスク)。学習者が日本語を使って、社会活動に必要なコミュニケーションが「できる」ようになることを目標にした総合教材です。

東京ベイ日本語学院の授業をのぞいてみよう

東京都大田区にある東京ベイ日本語学院を訪問しました。2022年に開校したばかりの新しい学校です。学校全体でみるとベトナムとネパールの学生がそれぞれ3分の1程度を占め、ほか、ミャンマー、フィリピン、スリランカなどの学生も在籍しています。

専門学校への進学や、介護、観光、自動車業界などへの就職を目指す学生が多く、「話せるようになる」ということを非常に大切にしている学校です。

机を使う学習と、机を使わない学習

教務主任の新藤先生の授業を見学させていただきました。ネパール人の学生が10名、ベトナム人の学生が1名、という初級のクラスです。この日は『つなぐにほんご初級1』のLesson8-1を学習します。

毎回、授業のはじめに発音と漢字の学習が45分間あり、その後『つなぐにほんご初級1』の内容に入っていきます。発音と漢字の授業では、3~4人のグループに分かれて机をくっつけて、クラスメイトと確認し合ったり見せ合ったりしやすいようになっていました。

また、教師が一方的に教え込むのではなく、学生が先生役になって授業を進める場面が印象的でした。学生の主体性を引き出そうとしてい、と新藤先生はおっしゃっていました。

ホワイトボードに学生が1名ずつ答えを書き、教師役の学生が丸をつける

発音と漢字の学習が終わると、教室内の配置がガラッと変わります。『つなぐにほんご初級』では、学習者は机を使わずに学習するため、このような配置にするのです。

みんなで机といすを移動する
『つなぐにほんご』では机を使わない

この写真の学生の様子にもう少し注目してご覧ください。学生の手元には、教科書も筆記用具もありません。教師が見せるイラストに注目しながら、考えている様子が伝わってきます。

『つなぐにほんご初級』授業の流れ

つなぐにほんごの授業は、いわゆる「文法積み上げ型」の指導とは異なり、文型や語彙の導入はしません。各レッスンのはじめのページには、4コマのイラストとセリフが載っています。

Step1

まずは、イラストを見てどんな場面かを考えることから始まります。新藤先生は、イラストを1枚ずつ見せながら、どんな会話なのかを学生に考えさせます。学生は、これまでに学習したり聞いたりしたことがある表現を使って、登場人物のセリフを言ってみます。

Step2

次に、どんな会話なのか、どんなセリフなのかを具体的に考えていきます。学生は3~4人のグループに分かれ、具体的な会話の内容を考えていきます。

どんな会話だったか、グループで相談しているところ

Step3

グループごとの相談をふまえて、場面会話の発表をします。自分たちで考えたセリフ通りに、場面会話を演じてみるのです。場面会話の流れに合っていれば、セリフは何でもOKです。

机や学生位置も場面会話のイラストの通りに配置し、なりきって演じる

Step4

発表を終えて、ようやくここで場面会話の音声を聞きます新藤先生は音声に合わせて、話している人のイラストを順に指していきます。音声を何度も聞いていくうち、「あ、こんなこと言っていたんだ」と気づきます

Step5

場面会話の内容が十分に理解できたら、セリフを言う練習をします。グループごとに、全体で、ペアで…と何度もアウトプットの練習をしていきます。学生は場面会話の内容がしっかりと頭に入っており、自信をもって発話していました。

Step6

場面会話を十分に練習した後で、もう一度発表を行います場面会話の内容を丸暗記して発表することが正解ではありません。登場人物になりきって、そして、自分自身がその会話に入り込んで発話してみることが大切です

使ってみてよくわかる! つなぐにほんご活用法

授業後に、新藤先生にお話を伺いました。

Q1:1つのパートを進めるのにどのぐらいの時間を使っていますか?

新藤先生1パートを進めるのに1日または2日かけています。あんまりていねいにやると学生は飽きちゃうし、学習内容によってかける時間を変えています。

 

Q2:初級1, 2 の2冊合わせるとどのぐらいの期間をかけているのでしょうか?

新藤先生4〜5か月で初級1が終わります。その後初級2に進み、7〜9か月で2冊が完了します。

 

Q3:積み上げ型の指導と、『つなぐにほんご』の違いはどのようにとらえていらっしゃいますか?

新藤先生積み上げ型の指導はAIでもできます。教師がいるんだったら、学生が文法や語彙を「使えるようになる」ための工夫をしなければいけません。せっかく日本に来たのだから、「どうやって使うか」を練習してほしい。そのような学生には行動中心アプローチである『つなぐにほんご』のようなテキストが望ましいと思います。

 

Q4:文法積み上げ型で学んできた学生は、『つなぐにほんご』の学び方に抵抗はありませんでしたか?

新藤先生もちろんあります。「教えてもらう」ことに慣れている学生は、最初は何をしているのかわからないし、戸惑うと思います。でも徐々に慣れてきて、「あ、こういうことなんだ」とわかってくると話せるようになっていきます。

 

Q5:学生が話せるようになるための工夫はありますか?

新藤先生学習したことを、すぐに実戦で使いたい、使ってみる、使えるようになったと思ってもらえるようにすること、学校内でもそういう環境を作って話しやすくするなど工夫しています。そういった「できること」を増やしてあげることで達成感を感じてもらえると思います。

 

Q6:授業中に発表をするとき、先生は指名しませんでした。学生の自発的な姿勢を尊重しているということでしょうか?

新藤先生教師が仕切ると学生が動けなくなってしまうんです。「自分がやらなきゃいけないんだ」と学生自身に気づいてほしいし、最初からその授業をしていかないと、そのように育たない。「発表しないと自分の練習にならない」ということに気づいてほしいと思っています。

ほんとうに話せるようになるために必要な指導

『つなぐにほんご初級』は、場面会話に学習者が入り込むことができるように設計されています。学生自身が遭遇しそうな場面ばかりが取り上げられているので、実際にその場面に出会ったときに自然と話せるようになるのです。

『つなぐにほんご初級』シリーズには、メインテキストの初級1と初級2に加えて、ワークブック文法解説書教師用マニュアルがそろっています。学生が主体的に学び、話せるようになる指導をしたいとお考えの先生方、ぜひお使いになってみてください。

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