
能動的⇔受動的(agency⇔passivity/ recipiency)
本記事は【第1,2 回】外国につながる子どもへインタビュー!の続きです。
第1回の記事はこちらから https://www.idobata.online/?p=2948
第2回の記事はこちらから https://www.idobata.online/?p=3108
外国につながる子どもである、高校生のサミさんへインタビューした時の語りから、サミさんのアイデンティティを考察します。本記事では、その語りから表出したアイデンティティをBamberg(2012)の「能動的⇔受動的」(訳は村田, 2020)を枠組みとして記述します。
緊張する学級教室、心地よい図書室
小学 6 年生の後半にスリランカから日本に来たサミさんは、平仮名・片仮名はスリランカで独学で勉強していたため、何とかわかっていました。しかし、どのようなあいさつがあるのか、どのようにしたらいいのか、そのようなことはわからなかったそうです。抜粋 8 は、当時の学級参加に対する気持ちの語りです。
サミ:当初(小学校に通い始めた時)、みんな話しかけてくれたんですよね…来日したその日はめっちゃわくわくしてて、やっとこれたなーみたいな感じで。学校行く(日)に近づくと、どうしよう、友だちできるかなあ、どんなふうにしゃべろうかなあとか、結構不安でした。
私:学校が始まってからはどうでしたか?
サミ:みんな話しかけてくれたから、よかったなって。
(抜粋 8)
来日してから、わくわくしていた気持ちは、登校日に近づくにつれて不安に変わってきたといいます。しかし、学級では、「みんな話しかけてくれた」から安心したそう。
サミさんは、学級の教室と、取り出し授業が行われていた図書室で過ごしていました。学級の場と取り出し授業の場では、気持ちの違いがあったのか気になり、聞いてみました。
私:その場所(取り出し授業で使用していた図書室)と教室の違いって何かありましたか?
サミ:1対1だと…もちろん、1対1であんまり…なんか…楽しかったんですよね、教室より。多分あんまり人いないから、それかな…と思って。あんまり人いないから。
私:あんまり人がいないから良かった?人がいると…人がいるのはあんまりすきじゃなかった?
サミ:はい、緊張します。そのとき人がいなかったから。
私:サミさんの人っていうのは?
サミ:友だちとか、先生とか、他の先生方。日本語の指導してくれた先生は、やさしかったし、すぐ仲良くなれたんですよ。
(抜粋 9 )
クラスメートがいる教室は、人が多かったので、サミさんは緊張していました。しかし、取り出し授業の場は教室とは違って、緊張せず、心地よいと感じていました。
人が多い学級の教室にいるのが得意ではなかったことを聞いて、サミさんは、あまりクラスメートと関わらなかったのかと思い、学級で孤立してしまっていたのではないかと心配に思いました。そこで、教室で寂しく感じることはあったのか、サミさんに聞きました。
私:教室で孤独とかって感じたりすることはありましたか?
サミ:感じなかったですね。友だちいたので。休み時間は友だち、私その時折り紙とか好きだったので、一緒にいてくれる子が3人いて、中休み?とか昼休みに過ごせる人がいるからいいかなーって思ってたんですよね。
私:へー、そっか、でもその友だちとどうやって会話…?
サミ:なんか今も、仲良いんですけど、今も親友なんですけど。それで、その親友とは、ちょうど家が近いんですよ。家が近くて、あの登校班が一緒だったんですね。で、初めて登校班で登校するときに、親友が、自分(親友)の家の行き方を、地図をかいてくれて、それで、ここうちの家だからいつでも来な、みたいな感じで、それでなんかしゃべれるかなーていう感じで、仲よくなったんですね。それで席も近かったから、一緒に折り紙とかしたりして、仲良くなったって感じですね。
私:へー。その子たちはサミさんのことどう思ってたんでしょうね。言葉がわからないの…
サミ:なんかわかるように言ってくれたんですよね、ジェスチャーとかで表してくれたり。あんまり難しい質問とかは聞かれなかったです。1人でいる時に、話しかけてくれたりして、一緒に、これやる?みたいな感じで誘ってくれた。
(抜粋 10 )
幸いにも、私の想像していたものとは違い、学級で過ごす休み時間には、登校班が同じで席も近かった友だちが話しかけてくれ、折り紙やおしゃべりをして楽しんでいました。友だちは複雑な質問を避け、言語管理をしながら、ジェスチャーを用いて、サミさんをコミュニティに迎え入れていました。
以上より、小学生のころは 1対1の取り出し授業の時間は、人がいないために教室でいるよりも心地よく感じていました。一方、教室でも、孤立はせず、友だちとおしゃべりを楽しんでいました。
グループ活動に対する憧れ
サミさんは、小学 6 年生から中学 1 年生まで取り出し授業をうけていましたが、中学 2 年生からは、国語と社会の授業の時間も教室でクラスメートと勉強しました。そこで、中学生になってから、以上にあった気持ちに何か変化があったか、聞きました。
私:小学生の時は、1対1がよかったって言っていましたが、中学生になってからはどうでしたか?
サミ:やー、友だちと一緒に学びたいなと思ったんですよね。グループ活動とかできないじゃないですか、1人だと。だから、グループ活動とかやってみたいなーと思って。
私:グループ活動やりたかったんだ?
サミ:はい、英語とかでもあったんですけど、多いのが社会と国語なんです。
私:え、社会と国語がグループワーク多かったんですか ?
サミ:はい、国語の方が多かったです、なんか、プリントとか一緒にやったりーとか。
私:それが楽しそうだったんだ。
サミ:話せる友だちがいると楽しいんです、話せるから、、、話せない人だとだまっちゃうんですけど。知り合いがいると楽しいじゃないですか。一緒におしゃべりできるから。
私:たしかに、ここ、こうだよねーとか言って。
サミ:そう、考えがあったらうれしいし。
私:へー、なるほどね。なんか、一番印象深いグループ活動とか、覚えてますか?
サミ:仲良しの友だちがみんな一緒、なんか近くの席になったときがあって、その時はめっちゃ楽しかったです、雑談ばっかりでした。
私:楽しそう((笑))
サミ:はい((笑))
(抜粋 11 )
抜粋 11 より、小学生の時は 1 対 1 の取り出し授業が心地よいと感じていたサミさんの中で、明らかに変化が生じています。それは、取り出し授業の時間に行われる、グループ活動に参加したいと思い始めたことです。
主体的な役割参加
さらに、高校生になってから変わったと思ったことを聞きました。
私:高校に入って、自分変わったなーとかありますか?
サミ:んーやっぱ、自分から話しかけるようになったんですよね、(私:ふーん)それと、あとは、意見もちゃんと言うようになったかな…それぐらいです。
私:意見も言うようになったんですね?
サミ:はい、これはこうじゃないのー? って…前は言えなかったけど。
私:おー、なんか…刺激が…んー、なんで変わったと思いますか?
サミ:んーでも友だちいっぱいつくりたいと思ってたんですよね。刺激はなんだったんだろう、わかんないです。
私:へー、友だちいっぱいつくりたいんだ ?
サミ:はい、中学校の時は、そんな、仲良い人はいたけど、そんな今みたいに大勢はいなかったし、自分から話しかけなかったから、んーまあ人見知りだったから、まず、まあ、それで数人としかいなかったんですけど。今は何でも言えるようになったし、それで、なんか中学校のときから、あー高校からはいっぱい友だちつくろーと思ってたんですよね。
私:へー、なるほどねー。なんか、ともだちいて良いこと、ともだちいっぱいいて良いことってありますか?
サミ:えー、やっぱ学校行くモチベになる((笑))
私:あー、友だちがいるから学校にいこーって?
サミ:(聞き取れない)行きたくなーいって思っちゃうんですよ。それでもう起きるので精一杯…でも友だちいるから、行こ―みたいな感じで思えるから。
(抜粋 12 )
中学生のころから、高校では友だちをたくさんつくろうと思っていたサミさんは、高校生になってから「自分から話しかけるように」なり、友だちも増えていきました。さらに、以前は言えなかったが、意見も言えるようになりました。加えて、友だちが学校にいることで学校に行こうと思えるようにもなりました。小学生、中学生のころは比較的受身でありましたが、高校に入ってからは周囲へ能動的に働きかけています。主体的に働きかけているのは周りの友だちへだけではありません。サミさんは、高校生になってアルバイトを始めました。
私:休みの日とかも友だちと遊んだりしますか?
サミ:遊んだりします。最近はバイトで遊べてないんですけど。
私:そっか、サミさんバイトしてるんですね?
サミ:はい、バイトしてます。
私:へー、何してるんですか?
サミ:○○屋(飲食系)でバイトしてます。
私:○○屋、へー、いいなー…なんでそこ選びましたか?
サミ:友だちもやってて、給料も良いっていってたから、じゃあうちもやろっかなーって思って((笑))暇だしやろっかなーって思って。
私:バイト楽しいですか?
サミ:楽しいです。
私:何をしてるんですか?
サミ:接客と○○づくり。
私:へー、すごい、楽しそう…なんか不安とかありますか。
サミ:いやーないんですけど、先輩とかどんな感じかなーって。まだ全員に会ったことないから、かぶんないんですよね。
私:へー、そっか、友だちもやってるんですよね。
サミ:友だちー…いたんですけど、なんかやめちゃって。
私:そっか、でもなんで、なんでバイトするんですか?
サミ:いやー、なんとなくなんか暇だから、何かやりたいなーと思ってたら、友だちと言ってたら、じゃあバイトとかいんじゃない?って言われて(私:へー)親、最初反対してたんですよ、勉強と両立できないでしょーって言われて、で、私がめっちゃ説得して、で、いいよーって。
私:へー。どうやって説得したの?
サミ:えー、なんか、暇だし、えー何て言えば良いかな、、、その、ただいるよりは、なんかして稼いでもいんじゃない ? みたいな感じで言ってて、大学とかもあるからいいじゃん、貯めてーとかって言ったんです。
(抜粋 13 )
サミさんは、「何かやりたいと思」い、友だちのすすめでアルバイトを始めました。自分の意思で始め、友だちが辞めた後も自分の意思で続けています。小学生のころは、コミュニティへの参加は、誰かが働きかけてくれてからであったが、中学生になると、自分のいない国語と社会の時間に行われるグループ活動に参加したいと思い始めました。そしてグループ活動にて、仲間の考えを聞いたり、発言したりすることの楽しさに気づきました。しかし、まだサミさんの友だちの数は限られていました。そこで、サミさんは高校生になったらもっと友だちをつくりたいと強く思い始めました。高校生になると教室で自分の意見や考えを言えるようになりました。そして学校外でも、バイトという社会の新たなコミュニティに属し、役割参加していました。
まとめ
中学生の時に、自分から話しかけたり、意見が言えるようになった要因についてサミさんに聞くと、「友だちいっぱいつくりたいと思ったんですよね」と語っていました。そのように思えた理由には、サミさんの属するコミュニティにある共通する特徴があったからだと思います。それは、小学生の時からの親友のコミュニティ、中学生の時の仲よしの友だちのコミュニティ、学級のコミュニティのメンバーが、コミュニティに参入しようとする者、それが日本語使用に制限のある者であっても、受け入れるという場を構築していたということです。そして、そこはメンバーの考えや意見を対等な立場で受け入れ、それを尊重し合う場となっていたと考えます。誰も指導していないのに言語管理をしながら話しかけてきてくれた小学校からの親友、グループ活動のメンバーであった中学生のときの仲良しの友だち、主体的に意見を言える場を共に構築している高校のクラスメート。彼(女)らはそこに共同参加しようとするメンバーを対等に受け入れていたのではないでしょうか。そして、そのようなコミュニティであったからこそ、サミさんは役割参加したいと思えたのではないでしょうか。
参考文献
Bamberg, M. ( 2012 ). Why Narrative?. Narrative Inquiry. 22(1). 202-210.
村田和代( 2020 )「日本在住日系人へのインタビューナラティブの談話分析」秦かおり・村田和代(編)『ナラティブ研究の可能性―語りが写し出す社会』ひつじ書房.
