のぞいてみよう! 多読の世界 第10回 図書館多読のイマ

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「多読って、聞いたことはあるけど…」これから日本語教師を目指す方、現場に立つ先生方に、日本語多読をもっと知ってもらうための連載。日本語多読支援研究会メンバーで構成されたウェブマガジンスタッフが、すでに多読を行っている国内外の教育機関やボランティア教室の先生方の声をお届けし、日本語多読が持つ可能性についてみなさんと考えていきます。

第10回 図書館多読のイマ

これまでお伝えしてきた国内海外の大学、国際交流基金などで取り上げた図書館多読の報告からわかるように、図書館と多読は相性バツグン! 何しろたくさんの本を必要とするのが多読ですから、図書館と協力することで、多読実践、多読授業は大変豊かなものになります。さて、今回は、教育機関ではなく日本の公立図書館での多読に焦点を当てます。そう、街の図書館も多文化サービスの一環として地域の日本語学習者のための多読に動き始めているのです。以下、日本語多読支援研究会のメンバー・粟野が、公立図書館の日本語多読のイベントの様子、担当者の多文化サービスへの思いをお伝えします。

1.多国籍タウン・新宿区立大久保図書館の日本語多読

東京都新宿区大久保は、住民の約4割が外国人居住者というインターナショナルな街。古くは中国、韓国の方が多く、いまではさらにネパール、ベトナムの方も多く住んでいます。日本語学校もひしめきあっています。

そんな中にあって、大久保図書館は、従来から外国語の本を多く所蔵し、多言語のおはなし会を開くなど多文化サービスに力を入れてきました。2015年からはNPO多言語多読と協力し合って、日本語多読のワークショップも始めました。日本語の本を読んだことがない、あるいは日本語を勉強中の外国の方に、図書館の本を通じて日本語の学習支援をするのが目的です。2016年度からは年に2回の開催で、これまで9回行ってきました。

ここでは、最新の2020年2月に行った最新のワークショップを例に大久保図書館での日本語多読の取り組みをご紹介しましょう。

やさしい日本語の本を読んでみませんか? ~ゼロから始める楽しい日本語多読

2020年2月14日金曜日。いつもは土日のどちらかの開催ですが、今回は平日午後に開催することに。参加したのは、日本語を勉強し始めたばかりの近隣住民のスペイン人と韓国人、そして近くの日本語学校の学生さん(ロシア人とベトナム人)の計13人でした。

開始前、いつものようにNPO多言語多読のスタッフが司書さんと協力して、図書館所蔵のレベル別日本語多読向け図書(「よむよむ文庫」「にほんご多読ブックス」)の他、多読に向く絵本をずらりと並べて準備しました。今回は、「こわい話」「悲しい話」などジャンル別にしてみました。

ある程度読める人が多いときは、ジャンル別のディスプレイに

参加者が集まったところで、4,5人ずつ分かれて「島」に座ってもらいます。まずは、私、粟野が多読と読み方のルールについて説明し、それから、字なし絵本「あいちゃん」とレベル0の「助けて!」(「よむよむ文庫」)をスクリーンに映してみんなでいっしょに読みました。文字に頼らず、絵を見て状況ごと読んでいく練習です。ひらがながやっと読めるという入門者にも、これで「読める!」という体験をしてもらうこと、すでに読める人にも、字面だけを読むのではない多読的な読み方を理解してもらうことが目的です。

みんなで絵を見ながら読むウォーミングアップ(写真は第8回、2019年6月15日)

それが終わると、それぞれの読書タイムがスタートします。字のない絵本を何冊か読んでもらった後は、自由に本を選んでもらいます。毎回、このスタイルでワークショップは進みます。

「島」ごとに待機しているスタッフは、超入門者には読み聞かせをしたり、読み終わるタイミングで声をかけて、次に読む本をさりげなく勧めたり、質問に答えたりしながら臨機応変に読書の進行を見守ります。

日本語の本を読み慣れていなくても写真集「うめめ」には興味津々

朗読音声を聞きながら読む学生さんも

たいてい日本語の本は初めて、という方ばかりですが、自力で読める、という経験に夢中になってくれます。2時間のワークショップですが、途中の休憩時間に席を立つ人はほとんどいません。

最後に、その日読んだ本の中で一番気に入った本を手にして、短いブックトークを試みます。会話はまだちょっと・・・という方は、表紙を見せるだけでもよいことにしています。そして「島」ごとにいっしょに写真を撮ります。

その後、今後大久保図書館から本を借りられるように貸出カードを作って解散。

お気に入りの本を紹介する「ブックトーク」

絵本、レベル別読みもの、写真集など気に入った本を手に記念撮影

※過去9回の大久保図書館での多読ワークショップの詳しい報告はNPO多言語多読のブログで読むことができます。

さて、このような図書館による日本語学習支援は、全国的にも珍しい活動ですが、どんなことからこのイベントが始まったのでしょうか。

2017年10月放映のNHK・ETV特集「アイアム ア ライブラリアン~多国籍タウン・大久保」に登場して以来、すっかり多文化サービスの顔として有名になった米田雅朗館長にお話を伺いました。


米田館長にインタビュー

ー 大久保図書館での日本語多読のワークショップは2015年6月28日が第1回でした。
開催に至った経緯を教えてください。

米田:大久保図書館は、地域柄、外国語の絵本を使ったおはなし会など、もともと多文化サービスに力を入れてきました。大人のためにも多文化サービスをしたいと思っていたところ、2014年にデンマークで行われている公共図書館の移民サービスの話を聞きました。移民の方がデンマーク語を習得するのに、図書館が「デンマーク語を読もう」というプロジェクトを立ち上げて支援をしているとのことでした。それで、大久保図書館でも日本語学習支援ができるのではないかと思いました。

多文化サービスで知られる大久保図書館館長・米田雅朗さん

ー 私が、NPO多言語多読として図書館で外国の方のために日本語多読支援ができないか相談に行ったのが、その前の2013年3月でしたね。

米田:はい。そのときのお話の記憶が蘇って、これだ! と思いました。

ー 新宿区に活動の本拠地がある私たちと米田さんの思いがめでたくマッチしたというわけですね(笑)。第1回の手応えはどうでしたか?

米田:日本語学習中の外国の方の図書館利用はあまりないので、どれだけの方が参加してくださるのかとても不安でした。近隣の日本語学校を訪問するなどして周知に努めました。当日は、定員20人のところ、なんとか15人が参加されて、みなさん熱心に読んでいらっしゃいました。とにかくほっとしたというのが正直なところです。終わった後のアンケートでもほとんどの方が「楽しかった」「また参加したい」と書いてくださいました。

その後、新宿区のアンケートで、外国人の方が困っていることの第一位が「日本語」だという結果がわかりました。それを見て、「読むことを通じて日本語を習得していくことができるこの活動には意義がある!」と改めて確信しました。

ー 2016年度からは年に2回のイベントになりましたね。

米田:はい。このイベントは、図書館による日本語学習支援であるとはっきり位置づけていて、継続的に行うことが重要だと思っています。2017年2月の第3回からは、お子さんも参加できるようにして、幼稚園に告知したり、4回目からは、チラシも日本語、英語以外に中国語、韓国語も用意して、近隣のお店にも置いてもらうように工夫してきました。

ー それでも、毎回、だれが来てくれるだろうとドキドキしますね。20人を超えるときもありますし、過去には4人だったことも・・・。参加してくれたみなさんは、とても満足して帰られるんですけど・・・。    

米田:そうですね。集客は大きな課題です。今はSNSなど便利なインターネット上のツールがありますが、それでもコツコツと草の根レベルで周知に努めることが、一番大事だと思っています。つまり、今は一人ひとりが点ですが、それがつながって線になって、やがて面になることを目指したいと思います。大久保図書館の外国人スタッフが知人に声をかけて、その方がまた友達を誘って参加してくれるということは今までありました。そのように地道に口コミで広げていけたら、と思っています。

ー 続けていく、ということが大切ですね。

米田:はい。継続が大切だと思っています。回数も増やしたいのですが、人手不足ということもあって年に2回にとどまっているのが現状です。

チラシと申込書は日本語、英語、中国語、韓国語版がある

ー こうした取り組みは、全国的には進んでいるんでしょうか。

米田:あまり聞かないですね。

ー 外国人労働者が増えているという背景があるのに、なぜ進まないんでしょう。

米田:図書館というのは、教育委員会、つまり文部科学省の管轄になるんです。外国人居住者へのサービスは地方自治体が行っています。ですから、図書館が積極的に行政に働きかけるなど行政とのパイプを作らないとなかなかうまくいかないのではないかと思っています。

ー 大久保図書館では、そのパイプを作る努力をされているんですね。

米田:新宿区の多文化共生推進課と連絡を密にとったり、今後は区の特別出張所と連携して図書館のイベントやニュースを居住民に知らせることもしていきます。日本語多読のイベントも外国人のみなさんに届けられるよう、あらゆる手段を講じていきたいと思っています。

ー 日本人にも知ってもらって、知り合いの外国の方へつないでもらうという動きも出てくるといいですね。人と人とのつながりが線を生むように・・・。今日は、お忙しいところ、ありがとうございました。

新型コロナウィルス感染拡大が懸念されるこの状況で、残念ながら、2020年6月に予定されていた恒例の日本語多読のワークショップは中止になりました。孤立した外国人も多くいるでしょうから、ぜひまた、早く活動が再開できることを祈っています。

2. 館長の熱い思いで実現した大田区立大森南図書館の日本語多読

大久保図書館に続け!と日本語多読の活動に名乗りを上げた図書館が他にもあります。東京都大田区立大森南図書館です。2019年3月2日(土)に初の日本語多読ワークショップが開催されました。

やさしい日本語多読 ~やさしい日本語の本をたくさん読んでみませんか?

大森駅からバスで17分。大森南図書館は、大久保とは違ってごく普通の住宅街の中にある図書館です。この日、参加してくれたのは9人。日本語学校の生徒さん、ボランティア教室から引率付きで参加してくれた小学生に地域住民の方が2,3人。国籍は、スリランカ、ミャンマー、ネパール、インドネシア、アメリカ、中国などさまざまでした。

「日本語の本を楽しんでいってください」と挨拶する館長の横山美穂さん(右)

お気に入りの本を手に記念撮影

いつものように、みんなで字の少ない本を読んだあとは、絵本やレベル別の読みものを読んでもらいました。こじんまりとした集まりながら、字のない絵本をじっくり読む人、友達同士でいっしょに絵本を読む小学生など、それぞれの楽しみ方で充実した時間となりました。

詳しい報告はNPO多言語多読のブログで読むことができます。

このワークショップを実現したのが、館長の横山美穂さん。

大久保図書館での日本語多読ワークショップに興味を持たれて、私、粟野に連絡をくださったのが2017年の夏でした。それから1年半後のこの日、初めての日本語多読ワークショップ開催となりました。

2020年3月8日にも2回目を開催予定でしたが、新型コロナウィルス感染拡大の状況で断念せざるを得ませんでした。横山館長に改めて、このイベントへの思いを聞きました。


横山館長にインタビュー

ー どうして図書館で日本語多読のワークショップを開催しようと思われたのですか?

横山:私は海外暮らしがとても長かったんですよ。夫の仕事の都合で、台湾に2年、マレーシアに18年いて、そのあとベトナムに8年。長い海外生活の中でいろいろな文化に触れる機会がありましたし、外国人の立場で現地の人たちに助けてもらうことがとても多かったんです。ですから、日本に帰ったら、日本にいる外国人のために、自分がしてもらったことの恩返しを何かやりたいとずっと思っていました。

大森南図書館館長・横山美穂さん

ー 多文化サービスの活動は、ご自身の長い海外経験にもとづいていらっしゃったんですね。本との関わりは、そのときからあったのですか?

横山:ベトナムにいたとき、日本語の本が全然なかったので、友達と文庫を作って、日本の駐在員やその子弟に貸し出すなどの活動をしていました。それに子どもがインターナショナルスクールに通っていたので学校図書館で日本語の本の選書、購入等のお手伝いをしていました。特に子どもの教育のために日本語の本はとても大切でしたから。日本に帰国後、司書として図書館に職を得ることになりました。図書館でどんな多文化サービスをやろうかと考えていたときに大久保図書館の活動を知って、これだ! と思いました。

ー 初めてお会いしたとき、多文化サービスへの熱い思いを語ってくださいました。とにかく小さくても一歩踏み出したいとおっしゃっていたのが印象に残っています。それから実現まで1年半かかりました。やはり開催は容易ではなかったんですね・・・。

横山:周囲の理解を得るのがなかなか難しかったです。私は、自分でも外国人のためのボランティア活動もやりながら、ことあるごとに多文化サービスをやりましょうと言い続けてきました。でも、どうしても、目の前の日本人に図書館へ来てもらうにはどうしたらよいかということが先で、外国人のためのサービスまで手が回らないのが現状です。2年前に館長になったので、少しは意見が通りやすくなったかもしれません(笑)。

ー 第1回をやってみてどうでしたか?

横山:とにかく実現したということは大きな意味があります。参加者のみなさんからも「役に立ちました」「楽しかったです」「よかったです」などのコメントをいただきましたので、これを地道に続けて外国人の方に知ってもらいたいと思っています。

ー 外国の方へ情報を届けることは本当に難しいですね。

横山:外国人が図書館を気軽に利用できる体制にはなっていません。英語以外では本の検索がしにくいし・・・。最近、やっと日本語多読用の本が図書館に入ったんです。やれることはなんでもやろうと思って、区の出張所に相談して、読みもの配架のお知らせを何百枚か刷って自治会の回覧板で回してもらいました。図書館の外の掲示板にも貼り出しました。そうしたら、それを見て多読の本を借りていく人がいらっしゃったんですよ! カウンターでその方に偶然お会いしたんですが、その方のご主人が外国の方で、この本がとてもいいから借りてきてくれと言われて、借りに来たんだそうです。思わず、ご主人のお友達にも宣伝してください! と言ってしまいました(笑)。

ー 海外では、多文化サービス事情はどうなっているんですか?

横山:マレーシアは多民族国家ですから、様々な言語があって、それぞれの言語の本が図書館にはあります。ベトナムにも、多文化サービスがあって、ロシア語、フランス語の本、英語、中国語、日本語などの絵本がありました。アメリカ、カナダの図書館は、移民が多い国なので多文化サービスは充実していますね。外国語表記はもちろんのこと、多文化コーナーも必ずあって、だれが選書しているのかなと思うほどいろいろな雑誌や本があるんです。本当に外国人でも違和感なくいられる居心地の良さがありました。

ー 外国人が図書館へ行っても違和感なくいられるっていいですね。日本の図書館はその点、外国人はまだ利用しがたい雰囲気があるんでしょうか。それでもこれだけ外国人が増えてきたのですから、図書館の多文化サービスは多少進んできているのではないですか。

横山:いや、まだまだですね。図書館の中に児童サービス、障害者サービス、高齢者サービスなどいろいろありますが、多文化サービスを掲げているところはほとんどありません。図書館で日本語教室をやるなど、日本語学習支援があってもいいと思うんですが・・・。外国人も同じ住民なんですから。

ー 日本人利用者にも外国人住民についてもっと知ってほしいですね。

横山:そうですね。双方向ということが大切ですね。大森南図書館でやっている子どもたちへの多言語のおはなし会は、日本の子どもも外国の子どもも交ざって楽しめるイベントです。それから同じ区内で、英語多読に力を入れていてサークルができている図書館があるので、そことコラボして外国人は日本語を読んで、日本人は英語を読むといった多読のイベントもやりたいなと思っています。

ー わあ、それができたら面白いですね!

横山:どんな人でも利用できる「みんなの図書館」が私の理想なんです。

ー 2回目の日本語多読ワークショップはコロナ禍で中止になりましたが、今後2回目、3回目と、続けていけるよう頑張りましょう! 今日は、ありがとうございました。

3. 多文化サービス事業開始! 西東京市立中央図書館の日本語多読

うれしいことに、東京都西東京市の中央図書館がさらに日本語多読活動の輪に加わりました。2020年2月8日(土)に第1回日本語多読ワークショップ「いっしょに読もう やさしいにほんご」が実現したのです。図書館の多文化サービスはなかなか進んでいないのが現実のようですが、それでも少しずつ、こうした動きが出てきているというのは朗報です。西東京市立中央図書館では、今回のイベントの前に「レベル別日本語多読ライブラリー」(アスク出版)、「にほんご多読ブックス」(大修館書店)を各レベル3セットずつ導入し、準備万端! 私たちも喜び勇んで駆けつけました。

「いっしょに読もう やさしいにほんご!」

ところが、やはり集客には苦労しました・・・。開催日近くなってもなかなか申し込みがなく、ハラハラし通し。結局、6人の方が集まってくださいました。内訳は、市内のボランティア教室への案内から参加した韓国人のカップル、中国からの留学生、NPO多言語多読の知り合いを通じて来てくれたベトナム人のエンジニア、それから図書館利用者の中国人親子でした。いつものように多読の説明、文字のない本をいっしょに読むウォーミングアップをしてから、徐々に多読の世界に入ってもらいました。

思い思いの本を黙々と・・・

日本の食べ物について支援者とおしゃべりを楽しみながら読む人も

文字なし絵本をじっくり時間をかけて読む人、やさしい日本語で書かれた「大豆」(「レベル別日本語多読ライブラリー」レベル0)を読んで支援者に質問する人、次々といろいろな本に手を出して読んでいく小学生など、ここでもいろいろな顔が見られました。西東京市の図書館では一度に30冊まで借りられるとのことで、終了時には、山ほどのレベル別多読図書を借りていく人もいました。

※詳しい報告はNPO多言語多読のブログで読むことができます。


西東京市立中央図書館 奉仕係 林さんにインタビュー

ー 今回のイベントは、どのようなことから実現したのですか?

林:西東京市図書館では、これまでも日本語以外の言語を母語とする方へ多言語の利用案内を用意したり、多言語のおはなし会を実施してきました。最近、特に外国人住民が増えて、西東京市では、10年前に比べて 1.4 倍になりました。そこで、多文化共生のまちづくりの一助を図書館でも担わなければならないということで、 2019 年度から多文化サービス事業を実施することになったんです。そこで、市内の日本語ボランティア教室を運営されている方へ図書館にどのようなサービスを望むかのアンケートを行ったところ、「学習者に合わせた日本語の本を用意してほしい」というご意見を多数いただきました。

開会の挨拶をする担当の林由美子さん

ー 母語の本ではなくて、学習者の日本語能力に応じた日本語の本のニーズが高かったんですね。

林:はい。それで、日本語のレベル別読みものを用意することにしました。でも、本を図書館に入れるというだけでなく、実際に利用するきっかけを作って、読んでみた感想や図書館へ望むことなど利用者から直接聞きたかったんです。それが今回のイベント実施の動機となりました。

ー 開催までにどのようなことを準備されましたか?

林:本は、アスク出版の「レベル別日本語多読ライブラリー」と大修館書店の「にほんご多読ブックス」を3セットずつ購入しました。それから、NPO多言語多読のサイトで紹介されている多読に向いた一般の読みものも用意しました。

広報のほうは、来館者へイベント案内のチラシの配ったり、市報に載せてもらったり、ボランティア教室へチラシを配布したりしました。近隣の日本語学校や市内の大学へも告知しました。

西東京市には多数の多読向け読みものがあり、一度に30冊も借りられる

ー 実際にイベントをやってみてどうでしたか?

林:参加者申し込みがなかなか来なくてドキドキしましたが、結局、6 人来てくださってほっとしました。みなさん、イベント開始前は少し緊張しているようでしたが、NPO多言語多読のスタッフの方の声かけで自然に和んだようでした。

普段は、利用者の方が本を楽しんでいる様子をじっくり見たことがありませんでしたから、私たちにとってとても新鮮な経験でした。本を読みながら、その内容について、私たちやスタッフのみなさんと自然に話が弾んで、とっても温かい雰囲気になって感動しました。

ー 韓国の方が、レベル0の「大豆」を読みながら、「これはどうやって作るんですか」と質問したり、同じくレベル0の「いただきます」を読んで、韓国と日本の食習慣の違いに話が広がったりしましたね。

林:最後にみなさんに感想を書いてもらいましたが、「今まで日本の本をあまり読まなかったんですが、実際に読んだら面白かった」とか「日本の本が読めるいい機会でした」「本の内容がどれも面白いと思います」などと書いてくださって、全員が楽しまれた様子がわかりました。

ー 人数は少なかったですが、みなさん休憩もとらず、熱心に読んでいて、いい時間が流れていたと私も感じました。

林:イベント終了時にはみなさんそれぞれ借りたい本が見つかったようでした。今後も図書館を継続して利用いただければいいなと思いました。また、母語の本を図書館で用意するとしたら、どんな本がいいかなどについても直接聞くことができて大変参考になりました。

ー 今度の課題はなんでしょうか?

林:参加希望者が少なかったので、まずは、広報の内容や方法を見直さなければいけないと思っています。今後のイベントは、このコロナウィルス禍で、どんな形で開催することが可能なのか、今模索している状態ですが、なんとか日本語が母語ではない方たちに図書館を利用してもらえるよう考えていきたいと思っています。

ー 先行する図書館でも告知には、みなさん苦労されています。いろいろ知恵を絞り合ってなんとかいい形で続けていけるといいなと願っています。ありがとうございました。

地域の日本語教室だけでなく、こうした公共の図書館の、本を通じた日本語学習支援が今後は当たり前のこととなる日を夢見ています。そのために、私たちができることは何か、引き続き模索していきたいと思います。

ここまで、図書館多読のイマについてご紹介しました。次回は、「日本語多読用の読みもの」を紐解きます。どうぞお楽しみに!

【最後に】

新型コロナウィルス感染拡大の影響で、学校や図書館が休みになったり、オンライン授業になって、多読の材料に困っている先生や学習者のみなさんがいらっしゃると思います。

そこで、この機会に多読や多聴多観ができるWebサイトをご紹介します。どうぞご活用ください。

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取材・編集:日本語多読支援研究会

日本語多読支援研究会は、NPO多言語多読の中のグループです。NPO多言語多読の会員の中で、特に日本語多読の研究普及を目指すメンバーで構成されています。

 [今回の担当] 

粟野真紀子(あわの・まきこ/NPO多言語多読理事長)

日本語学校で日本語教師を務めるかたわら、2002年より日本語多読普及活動開始。2006年以降、多読向け図書『日本語多読ライブラリー』(アスク出版)の執筆監修を行ってきた。2016年には新シリーズ『にほんご多読ブックス』(大修館書店)を刊行。共著書に『日本語教師のための多読授業入門』(アスク出版)がある。現在、NPO多言語多読理事長として、国内外のセミナー等で多読普及に努めている。

※この連載は、JSPS科研費 20K13084の助成を受けています。

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