のぞいてみよう! 多読の世界 第9回 「海外の日本語多読活動—アメリカ特集」

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「多読って、聞いたことはあるけど…」これから日本語教師を目指す方、現場に立つ先生方に、日本語多読をもっと知ってもらうための連載。日本語多読支援研究会メンバーで構成されたウェブマガジンスタッフが、すでに多読を行っている国内外の教育機関やボランティア教室の先生方の声をお届けし、日本語多読が持つ可能性についてみなさんと考えていきます。

第9回 海外の日本語多読活動—アメリカ特集

こんにちは。日本語多読支援研究会の纐纈(はなぶさ)憲子です。アメリカの日本語教育支援者の間では、近年「多読」の言葉が浸透してきています。様々な形で取り入れる機関も増えてきました。今回は、私が勤務する米国ノートルダム大学での多読授業を中心に、アメリカ諸機関の活動を特集します。

1.米国ノートルダム大学の多読授業

クラブから正規授業開講へ

ノートルダム大学は、インディアナ州にあるカトリックの私大です。多読授業を行なっている図書館にはキリスト像が描かれています。

多読授業が行われている図書館の建物

2012年ごろ多読を知った私は、東アジア学専門司書と一緒に多読用図書の購入を始めました。そして、2013年から1年間、隔週の課外活動として多読クラブを行ったのですが、これがとても好評でした。参加人数も毎回20人以上、いすが足りない時には床に座り込んで読む学生がいるほどでした。まだ多読に対して不安のかたまりだった私にとって、これはうれしい驚きでした。「多読クラブは、忙しい生活の中で大切な宝物のようだった」と言い残して卒業していった学生もいました。参加者にアンケートをとったところ「多読に特化した授業希望」の声が高かったので、翌2014年、単位を出す正規授業開講に踏み切ったのです。

多読クラブの様子(2014年3月)

授業内容

 日本語多読授業は、1-2単位(50分/100分)の選択科目として、初級と中上級2レベルのクラスを、それぞれ週1回図書館内の教室で行なっています。両レベル合わせて毎学期20名前後が受講し、継続者も多数います。しかし、ほとんどの学生が1単位だけ履修しているので、多読授業は週50分です。決して十分とは言えないかもしれませんが、細く長く続けることが重要だと考えています。

 毎回、授業の最初10分ほど、全体活動(ブックトーク・読み聞かせ・好きな言葉の紹介など)をします。そのあとは個人読書の時間。1冊読んだらオンライン読書記録を提出します。多読では、一人ひとりとじっくり向き合えるのが魅力ですから、学生との面談もなるべく頻繁に行います。学期最後の授業は、プロジェクト発表に当てています。また、教室外課題として、学期末プロジェクトの準備、2回の自己評価、口頭ブックレポートと筆記ブックレビューがあります。

開講に当たり、私は成績のつけ方を通常と違う形にすることを決めました。多読ではみんなが違うことをしていますから、共通テストはできません。普段だと提出物の日本語の間違いを成績に反映させたりもしますが、多読にはそぐわない気がしました。それで、毎回出席し、提出物の締め切りを守りさえすれば100%の成績をあげることにしました。言い換えれば、提出物の日本語力や内容を評価対象にすることを一切やめたのです。これで教師である私は成績づけから解放されることになり、以前の自分の評価観を批判的に見直すようになりました。これについては、次のプロジェクト発表のところでもお伝えします。

図書館内の教室。近くに多読用書棚があるので便利

プロジェクト発表

 授業にプロジェクトを組み込んだ理由は、「普段の授業が個人活動中心なので、成果の共有の場を作りたかった」「インプットである多読を、アウトプットの話す・書くにつなげたかった」の2点です。内容やフォーマットは完全に自由にしています。彼らは常に自分で好きなものを選んで自分のペースで読んでいますから、発信型プロジェクトでも、教師のコントロールはなるべく外すべきだと思ったのです。また、作品の作成に当たっては、読む時と同じく「辞書を使わずなるべくやさしい日本語を使うように」と言っています。

 学生は学期中盤に企画書を書き、そのあと数回ドラフトを提出します。意味が分からないところなどについてはフィードバックをしますが、極力日本語の添削はせず、なるべくオリジナルを生かすようにしています。文法などの日本語の正確さを求めるのが、プロジェクトの目的ではないからです。

 発表では双方向型を目指し、リラックスした雰囲気作りを心がけています。多読は「楽しい」がキーワードですから、発表でも聞き手に楽しんでもらうことが大切だからです。これまで、創作絵本、ビデオ、音楽、ゲームなどユニークな作品が次々と生まれてきました。毎学期みんなクラスメートの発表を楽しみにしていて、授業を取り続ける理由にプロジェクトを挙げる学生もいます。

人数が多い時は同時進行のブース形式で

床に座って読み聞かせ

「百鬼夜行」の間違い探しゲーム

こんな特大カードゲームも

では、ユニークなものをいくつか見てみましょう。

 好きな本について紹介する場合、みんな発表の仕方に趣向を凝らします。これは「にほんごよむよむ文庫」レベル1『ハチの話』についてですが、彼はなんとすごろくを作ったんです。詳細な渋谷の地図は全部手描きです。

すごろくのプレーヤーはみんなハチ。亡くなった先生の亡霊を探す設定

この二人は「にほんごよむよむ文庫」レベル2『桃太郎』を使って本格的なオンラインゲームを作りました。このように様々なテクノロジーを駆使した作品も増えています。

桃太郎のストーリーはロールプレイゲームにぴったりだったのだとか

本を読み進めるうちに、多くの学生が「自分で絵本を作りたい」という気持ちになるようです。このメロンパン好きの学生は、「パンさん」という絵本を作りました。発表当日には手作りのメロンパンもふるまってくれました。

アメリカではお目にかかれない本格的なメロンパン。美味でした

自分の専攻や得意分野と結びつけるケースもよく見られます。これは、政治学専攻の学生が作った「世界新聞」です。彼女は、授業でもオンラインでNHKのNews Web Easyなどを積極的に読んでいました。

この学生は陸軍の将校訓練課程に所属し、マンガや小説には興味を示しませんでした

次は音楽専攻の学生の作品で、彼女は芭蕉の「古池や」の俳句にメロディーをつけました。音楽理論で習った作曲技法を、よく読んでいた日本の詩に対する興味とつなげたそうです。

発表では実際に歌を披露してくれました

このように、学習者の選ぶ内容や方法は実に多彩です。彼らが好きなこと、得意なこと、見せたいことは本当にそれぞれ違うんですね。

プロジェクトを通じて気づいたこと

この6年のプロジェクトを通じて、私は特に以下の2つのことに気づきました。

1)自律性・創造性が引き出される

わずか1単位の授業なのに、彼らがプロジェクトのために膨大な時間やエネルギーを費やすことに、心底驚かされます。作品を見て鳥肌が立つという経験を、何度繰り返してきたか分かりません。学習者は成績のためではなく、本当に自分がやりたいから、創造性やパッションを発揮して作品を作るんです。これこそ本当の自律性と言えるのではないでしょうか。

点数をつける必要がないので、基本的に私は彼らのアイデアを否定しません。アドバイスはしますが、学習者を信頼してまかせています。そのため、彼らには何をやっても認めてもらえるという安心感があるようです。

金沢に留学した学生作成の詳細な手描き3-Dマップ

自分で撮った写真をマンガ仕立てに。白黒からカラーに世界が変化していく

2) 一斉授業で目立たない学習者が光る・従来の評価への疑問

プロジェクトでは、普段あまり目立たない学習者が、実に生き生きとして発表することがよくあります。日本語のテストや宿題の出来はあまりよくないけれど、人の心を動かす作品を作る力を持っている学習者が、たしかにいるんです。これは教師である私に深い内省をもたらしました。私たちは、通常授業で果たしてきちんと学習者を評価しているのでしょうか。授業でもテストでも、我々は彼らを教師が作った枠にはめようとしているのではないか…そんな気がしてきたのです。

超初級の学生作成の手描き絵本。限られた日本語なのにちゃんとオチがある

また、プレッシャーに弱く、通常授業で苦労する学習者もこのごろよく見かけるようになりました。多読が日本語学習を続けるための唯一の場所になるケースも多くなっています。様々な理由から一斉授業からこぼれ落ちてしまう学習者を拾い上げる場の提供も、多読の大切な役割なのではないでしょうか。

数百枚の写真を使ったストップモーションビデオ『読書』

過去の多読プロジェクト作品は、大学の図書館サイトで公開しています。

ノートルダム大学の多読活動は、第5回連載「多読授業、こんなときどうする? Q&A10選」でも触れています。

オンライン多読授業

 さて、2020年前半、新型コロナウィルスの影響で対面授業ができなくなってしまい、オンライン化を余儀なくされたところも多いことでしょう。ノートルダム大では、3月中旬の学期途中から学期末まで6週間、Zoomを使ったオンライン授業を行いました。もちろん多読も例外ではありません。

 始めるに当たり、頭を抱えたのが「読みものをどうするか」ということです。レベル別読みものには電子書籍があるのですが、ノートルダム大学には入っていません。そこで助けられたのが、NPOの「無料の読みもの」サイトです。音声つきのものも増え、充実してきています。

※「無料の読みもの」はこちらから!

NPO多言語多読「にほんご多読無料の読みもの」サイト

しかしながら、レベル0、1の無料読みものは数が少なく、「足りないのではないか」と心配そうな学生がいました。絵本もオンラインでは限られますし、素材の少なさから、無料読みものだけでは初級はなかなか厳しいと思います。幸いなことに、私たちは1か月間Kinokuniya Digital Libraryの電子書籍無料トライアルに申し込むことができ、レベル別読みものにアクセスできるようになりました。初級学習者が多い場合は、図書館にレベル別日本語多読ライブラリー(アスク出版)などの多読用電子書籍を購入してもらうといいと思います。

同じくたいへん役に立ったのが、NPO多言語多読ブログの「日本語多読・多聴・多観Webリソースの紹介」です。読みものだけでなく、聞く小説、動画、読み聞かせなど、多聴・多観素材も豊富にリストされています。多読というと読むことにかたよりがちですが、インプットを増やす目的から、「聞く・観る」もとても有効です。

「日本語多読・多聴・多観Webリソースの紹介」はこちらから!

初級向けWebリソースは少ないが、「和タのC」は入門者でも大丈夫

私たちは、通常の授業時間にZoomで集まり、初めに全体でWeb素材を一緒に見たり、読み聞かせをしたりしました。また、ブックトークや個人面談にはBreakout roomを使いました。学生はこれまで同様オンライン記録を提出し、予定どおりプロジェクト発表もZoomで行いました。そこで感じたオンラインの長所、そして難しさを挙げてみます。

オンライン多読の長所
  • いつでも一人でWebリソースにアクセスでき、自律学習が促進される
  • 多聴・多観を導入するまたとないチャンス
  • 教室外の様々な人たちと交流可能
オンライン多読の難しさ
  • 学習者を観察できない
  • 声かけのタイミングがはかれない
  • 学習者同士が気軽に話せない
  • 読書コミュニティを構築しにくい

まず、オンライン授業の最大の長所として、いつでも一人でWebリソースにアクセスでき、自律学習が促進される点が挙げられます。そして、多聴・多観を導入するまたとないチャンスであることも重要です。さらに、ブックトークやプロジェクト発表に他機関から参加してもらったりして、教室外の様々な人たちと交流することができる点も、新しい可能性を広げてくれます。

一方、オンライン多読で一番戸惑ったのは、対面の時のように学習者を観察できず、声かけのタイミングがはかれなかったことです。一般的に、オンライン授業ではカメラをオフにする学習者も多いですし、仮にオンの場合も彼らが画面上で何をしているのか、こちらからは分かりません。また、クラスメート同士授業前や合間に気軽に話すことができなくなり、みんなで一緒に読書コミュニティを作り上げることが難しいと感じました。

私はとりあえずなるべく頻繁に個別に話して、何を読んでいるか聞き、質問を受けるようにしました。今年 (2020年) の5月31日に開催された「オンライン多読勉強会」(NPO多言語多読主催)で、日本語学校の先生が、オンラインでお互いにコメントを書き込むことでコミュニティが維持できるだろうとおっしゃっていました。これまでの口頭での交流を書き作業に変えるアイデア、ぜひ取り入れてみたいです。

個人読みの間は、カメラをオフにする学習者が多い

試行錯誤だったオンライン多読授業。終了後にアンケートを実施しました。全員が「予想よりよかった」と肯定的にとらえてくれていて、ひとまずほっとしました。そして、オンライン素材の数やバラエティーについて肯定的な意見がいくつもありました。ただやはり「対面授業の方がいい」という学習者が圧倒的に多く、「クラスメートと気軽に話せる・学習コミュニティがある」「紙の本が読みたい」などの理由が挙げられました。Zoomを通しての発表に関しては、「スムースだった」との感想が多かったものの、「3-D作品や双方向性のゲームには限界あり」といったもっともな意見もありました。なお、発表ではコロナがらみの作品もいくつか登場しました。

多読を5学期履修した上級の学生による「たどく大家族」のマンガから

オンラインとなるとつい構えてしまいがちですが、個人活動が軸である多読の根幹が変わることはないのだ、と今回やってみて感じました。今後、コロナ禍の状況によって、オンライン授業を続けるところ、対面授業に戻るところ、両者混在型のところなど、授業形態がますます多様化することでしょう。今後、対面・オンライン双方の長所をバランスよく生かしていけたらいいですね。そのためにもタイムリーな支援者同士の意見交換が重要だと思います。

日本語多読を超えて

 ノートルダム大学では、正規多読授業が始まって5年経過した2019年から、以下の新しい動きが出てきました。

 1) 多言語多読クラブ

まず、多言語多読への広がりです。アメリカの外国語教育で多読はまだあまり知られていないので、私は学内の外国語センターや図書館と協力して、2015年から何度か外国語多読の研修会を開いてきました。すると、少しずつ興味を持つ他の言語教員や司書が増えてきたのです。2018年には図書館内に外国語の多読用書棚ができ、7言語の読みものが少しずつそろってきました。そこで、私は、2019年秋にフランス語・スペイン語の担当者と一緒に、多言語多読クラブを始めました。クラブのおかげで、外国語を学ぶ学習者が集まる場ができ、また教師同士のコミュニケーションにも貢献しています。

静かに本の世界にひたったり、友達としゃべったり

いろいろな国のお菓子も用意

2)日本語多聴多観ディスカッションコース

 同じく2019年から、学習者発案の新「中上級日本語多聴・多観・ディスカッションコース」が始まっています。その半年前、多読履修者二人が「多読のようなフォーマットの話すクラスがほしい」と言ってきました。私がやりたいことを箇条書きにするように頼んだところ、彼らはコースの目標や内容、評価方法まで網羅されたすばらしい企画書を書いてきたのです。以来、このコースは完全な学習者主導で、活動や評価を自分たちで決め、毎学期彼らがシラバスを書いています。持ち回りでディスカッションリーダーを担当するほか、教室外でプログラム全体向けの課外活動を彼らが企画・運営しています。

先学期Zoomを使った授業形態に移行してからも、会話テーブルや映画鑑賞会を継続しました。夏休み中は、卒業生や日本の大学生も加わり、オンラインで活動を続けていました。成績やクラスと無関係に、学習者たちが自律的に学習コミュニティを作り上げていく…。多読から発展していく活動にこれからも期待できそうです。

クラスブログにディスカッショントピックをポストし、意見交換をする

2.Foreign Service Institute (FSI)の多読授業

 アメリカで多読を行なっているのは、大学だけではありません。Foreign Service Institute(FSI)は、ワシントンD.C.にある外交官養成を行う社会人対象の機関で、2015年から日本語多読を取り入れています。2019年11月に全米外国語教育協会(American Council on the Teaching of Foreign Languages: ACTFL)の年次大会がワシントン D.C.であったのですが、その時にFSIを訪問する機会に恵まれました。そこで、今泉郁乃先生、Brent里歌先生をはじめ、何人もの方々にお話をうかがうことができました。

近未来的な地下鉄に乗って最寄駅へ

地下鉄の駅まで車で迎えに来ていただき、FSIに到着。広い構内には、一面の芝生が広がっています。カフェテリアも教室棟も明るく開放的な雰囲気です。

 FSIでは仕事で必要な言語運用能力を短期間で身につけるためのカリキュラムが組まれています。なんと65の外国語のトレーニングを行っているそうです。その中で、日中韓アラビア語は、英語母語話者にとって最も難しいカテゴリー4の言語として位置づけられています。これらの言語の学習者は、他より長い88週間の集中コースで学びます。

 日本語科では、現在初級から上級まで1回20分の多読を週に3-4回、通常授業内に組み込んでいます。上のレベルでは、毎週のJapanese Book Café(オプショナルの自主学習活動)でも30分多読を行っています。すべてのレベルで途切れることなく活動を継続できることは、すばらしいと思いました。

写真はFSIウェブサイトから。
日本語多読用教室もこじんまりとした居心地のよさそうな空間でした

FSIウェブサイト(英語)

 FSIのクラスは、どれも2-6名と小規模です。支援者の目が各学習者にいき届き、多読には理想的だと感じました。Book Caféでは、参加者はGoogle Formを使って簡単な読書記録をつけています。それにより、日々の自分の進歩が視覚化でき、意欲的に多読に取り組めるそうです。また、先生方は各学習者の活動について、日付や本のタイトル、レベル、コメントなどの観察記録をつけていらっしゃいます。ちょっとのぞかせていただくと…「クスクス笑いながら読んでいる」「『かわいいです』とコメントあり」「読むペースがはやい」「『ことばがわからないのがたくさんある』とのコメント」「笑ってるから内容わかってるみたい」などなど…。記録を先生同士共有されているので、きっと引き継ぎもスムースにいくのでしょうね。先生方も「多読を通じて、いかに学習者を観察することが重要かを学んだ」とおっしゃっています。

教室内の棚にはきれいに多読用書籍が並んでいる。マンガも充実

学習者は社会人ですが、多読に対する満足度はとても高いようです。「ストレスがなく楽しい」「面白くていいストーリーが多い」「冗談がわかるようになった」などの感想が挙がっているとか。先生方によると、多読によって語彙力や推測力、読みの流暢さが上がるそうです。そして、自信がつき、学習意欲も向上すると感じていらっしゃいました。

 FSIでは多読が定着してきたので、今後いかに多聴を組み込んでいくかが現在の課題だそうです。近いうちにまたお話をうかがうのがとても楽しみです。改めまして、お世話になった先生方、本当にありがとうございました。

3.アメリカ諸大学の多読活動

最後に、アメリカでの日本語多読普及をリードしている4名の方々に、それぞれの活動を紹介していただきます。

南カリフォルニア大学・熊谷由香先生

2012年に多読クラブを始め、2013年から2レベルの多読の授業を開講しています。週1回100分の授業は東アジア図書館内の多読図書コーナーの部屋で行うため、学生は授業中も自由に本を選べます。多読以外の通常の日本語授業内でも1年生から多読の時間を取るようにしています。

全米の教師対象のワークショップも行っており、2015年にはNPO多言語多読の酒井邦秀先生、粟野真紀子先生、Dr. Krashenを招いて日本語多読の意義とノウハウを紹介、2018年には様々な学校での実践紹介をする場を設けることができました。また南カリフォルニアの近隣大学の有志と集まって読みもの作成なども行っています。

第一回USC日本語多読ワークショップ(Oct., 2015) 

第二回USC日本語多読ワークショップ(Feb., 2018) 

SC Tadoku Books

東アジア図書館内の多読図書コーナー

スミス大学・高橋温子先生

2007年から通常の初級後半以上のコースでゆるく多読を取り入れ、3年前から超初級コースでも始めました。多読はレベルを超えて皆のキーワードになっており、多聴多観と共に、個人に見合った自律的な学習方法として好んで取り組まれている様子が、学生のポートフォリオの中に多く記録されています。ゆるくゆっくりでも、多読を2年間続けた学生らは、大意を掴みながら読むことのスキルと感覚を覚え、自信を感じているようです。

多読と日本語学習のアウトプットとして、読者を想定、意見交換をし、多読本を作成して読み合っています。学習者と母語話者の本を読むことで、ことばや文化の多様性への気づきや学習意欲の向上を促す効果もあるようです。 

スミス大学の日本語学習者作成多読本シリーズ

 超初級学習者から始める読みの教育についての実践発表報告スライド

多様性と多読本作成についての学会発表論文

多読本の作成中、思わず多読にいそしむ学生も

ニューヨーク大学・野仲香代先生

ニューヨーク大学では2013年に多読クラブを始めました。毎学期初めに参加を募り、日にちや場所を決定します。参加者は希望者数の3分の1の10〜15人で、週一回の頻度で集まります。場所は学科のある建物で空いている部屋を使います。多読用の本と市販本は私の研究室に常時保管し、クラブの度に運んでいます。図書館には電子版がありますが、クラブでは紙の本を使っています。出欠は自由ですが、読書記録が数枚になる熱心な学生もいます。通常授業にも多読を取り入れており、2021年には正規多読コースも開講予定です。

 2016年と17年にはNY市近辺の日本語関係者を対象に多読研修会を行いました。二回とも盛況で、この地域の多読の普及につながったのではないかと思っています。

 多読クラブのリンク

多読クラブポスターと第二回多読研修会ポスター

ウィスコンシン大学ミルウォーキー校・小島祐子先生

2016年より週に1回50分の多読授業を行なっています。予算・場所の制約上、図書館に多読コーナーを設けることはとてもできない状況でしたが、何度もスタッフと協議を重ね、「クラスカート」というシステムを利用することで落ち着きました。カウンターから図書館内の教室まで毎週カートを押して教室に向かっています。

中間と期末には好きな本を紹介してもらうビブリオバトルを開催し、学習者間のインターアクションを増やしています。期末に行う際はキャンパスに公開し、日本語履修者、外国語に携わる教師、図書館スタッフなどが集まり、質疑応答や投票に参加してくれています。人・コミュニティにつながる多読授業を目指しています。

ビブリオバトルについての論文
小島祐子 (2016) 「多読×ビブリオバトル」『イマ×ココ』4, 26-31

図書館ではクラス専用のカートを用意、本を保管してくれている

以上、アメリカの多読活動についてお送りしました。今後、さらに初中等機関などにも浸透していくことを願っています。

次回は「図書館多読のイマ」です。どうぞお楽しみに!

【最後に】

新型コロナウィルス感染拡大の影響で、学校や図書館が休みになったり、オンライン授業になって、多読の材料に困っている先生や学習者のみなさんがいらっしゃると思います。

そこで、この機会に多読や多聴多観ができるWebサイトをご紹介します。どうぞご活用ください。

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取材・編集:日本語多読支援研究会

日本語多読支援研究会は、NPO多言語多読の中のグループです。NPO多言語多読の会員の中で、特に日本語多読の研究普及を目指すメンバーで構成されています。

 [今回の担当] 

纐纈憲子(はなぶさ・のりこ/米国ノートルダム大学Professor of the Practice)

学習者の多様化により、一斉授業の形で全員に満足してもらうことはますます難しくなってきています。そんなときに個別学習の多読を知り早7年。多読によって引き出される学習者の自律性・創造性に驚かされたことは数え切れません。同時に、教師としての自分のあり方も大きく変わってきました。教師人生の中で多読に巡り合えて本当によかった、と心から思います。一人でも多くの人に多読のもつ可能性を知ってもらいたいです。

※この連載は、JSPS科研費 20K13084の助成を受けています。

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