のぞいてみよう! 多読の世界 第8回 地域密着の多読活動②

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「多読って、聞いたことはあるけど…」これから日本語教師を目指す方、現場に立つ先生方に、日本語多読をもっと知ってもらうための連載。日本語多読支援研究会メンバーで構成されたウェブマガジンスタッフが、すでに多読を行っている国内外の教育機関やボランティア教室の先生方の声をお届けし、日本語多読が持つ可能性についてみなさんと考えていきます。

第8回 地域密着の多読活動②

第8回は、地域に根付いた多読活動のパート2です。今回は、浜松国際交流協会の外国人生活者のための「読み書きクラス」の多読、名古屋YWCA(愛知県名古屋市)の児童生徒のための日本語支援としての多読をレポートします。

1.「読み書きクラス」の多読!

こんにちは、日本語多読支援研究会メンバーの粟野です。残暑厳しい2019年8月下旬、浜松駅から二駅、舞阪駅から徒歩10分の浜松市外国人学習支援センター(UーToC)へ向かいました。
浜松市は外国人が人口の約3%を占めていて、定住外国人も多いことから、市が多文化共生の施策を積極的に進めている多文化共生先進地域として知られています。そんな地域での多読活動ですから、注目しないわけにはいきません!

浜松市外国人学習支援センター:U-ToC

浜松に住む外国人のスナップ写真が壁にずらり

UーToCでは日本語クラス、ボランティア養成講座、日本人のためのポルトガル語講座などが開催されていて、託児サービスもある充実ぶりです。その運営は市から委託を受けた浜松国際交流協会が担っています。

毎週火曜と木曜の午後1時半~3時が「読み書きクラス」で、その中に多読が取り入れられたのは4年前の2016年。今回の訪問は、多読が始まった直後の日本語学習支援者スキルアップ講座以来2度目。実際に授業の様子を見せていただくのは初めてなので、とても楽しみでした。

クラスが行われている大会議室をのぞいてみると…広ーい教室に学習者のみなさんとボランティアさんがたくさん! 合わせて30人以上いらっしゃるでしょうか。数名の小グループに分かれて、それぞれ別の課題に取り組んでいる様子です。

大会議室で7つのグループに分かれて学習中

それぞれの活動を順番にのぞいてみると・・・。グループは全部で7つ。

「UーToC日本語教室」のチラシより

上のチラシでわかる通り、ひらがな、カタカナ、漢字をグループ①②③で学習した後は、④生活漢字、⑤検定漢字、⑥多読、⑦読みもの、のいずれかのグループを自由に選択するという仕組みになっているそうです。「多読」と「読みもの」と区別されているのには、「おや?」と思いましたが、ここでは、文字を学んだ後に、ある程度まとまったお話などをたくさん読んで読み慣れるのが「多読」で、いわゆる読解教材を使って精読的な読み方ができるようにするのが「読みもの」、という区別がされているとのことでした。

それぞれのグループで勉強する内容が細かく決められていて、勉強した後の記録もきちんと保存されています。こちらは、60人ものボランティアさんが登録する日本語教室ですから、だれでもスムーズに支援に入れるようにシステマチックになっているんですね。(実は、2018年に上皇陛下ご夫妻が私的ご旅行で訪問されたこともあり、ボランティアさんにもますます人気が出たそうです!)

ファイルボックスにそれぞれのグループの課題や記録がわかりやすく収められている

各グループに数人の学習者さんがいましたが、さて、多読グループは?と見ると、残念!! この日は3人の予定だったのですが、現れたのは、16歳のAさんのみでした。

支援者の岩﨑美紀恵さん(左)と学習者のAさん

中近東出身のご両親を持つAさんは日本滞在も長く、日本語に特に問題はないように見えましたが、事情があって高校に行っていないそうです。そこで、ここの教室に通うことで日本語のレベルアップを図っているというわけです。

「レベル別日本語多読ライブラリー」のレベル0から順番に読み進めて、今は、レベル4。台車に置かれた本が入った段ボールの箱から自分で取り出して、『走れメロス』を読み始めました。読み終わると記録用紙にタイトルと感想を書いて、次の本に進みます。支援者は、その感想を読んでコメントします。

この日の学習支援者は岩﨑美紀恵さん。前回、Aさんが『野菊の墓』(「レベル別日本語多読ライブラリー レベル4」アスク出版)について、「感動的なお話です。恋に年齢は関係ないと思う」と書いていたのを見て、「こんなにきちんと読んで感想を書けるってすごい!」と、とても感動したそうです。

Aさんは、「本は好き! 本を読むと世界が広がるから」と話してくれました。好きなジャンルは、やはりお年頃?「中国の悲しい恋物語」(「にほんご多読ブックスレベル4」大修館書店)のような恋愛ものだそうです。

そんなやり取りをするうちに、あれあれ、Aさんの妹さんが二人、別の兄弟が二人、クラスが終わるのを待ちきれなくて教室に入ってきてしまいました! 岩﨑さんもにわかに忙しくなって、コーディネーターの染葉麻愛美(そめは まゆみ)さんといっしょに子どもたちの相手をし始めます。

臨機応変に対応する岩﨑さん(左)とコーディネーターの染葉麻愛美さん(右)

こういうハプニングが地域の日本語教室の楽しいところ。それに「多読」ならだれでも混ざれる! Aさんの妹さんの本を読む真剣な目!

夢中で本を読むAさんの妹さん(小学3年生)

こういう姿を見るのが多読支援の醍醐味なんです!

たちまち1時間半の授業は終了。浜松国際交流協会のコーディネーター、染葉さんにお話を伺いました。

インタビュー

染葉さん(左)と支援者の松﨑美佐代さん(右手前)と

ー 多読を導入したのは2016年だそうですが、どんな点が良かったと思われますか?

染葉:まず、ひらがな、カタカナ、漢字を習った学習者さんに文字を読む機会を作ってあげられたことがよかったと思います。日常生活の中で日本語を意識的に読むという学習者は少ないですから。

ー せっかく文字を習っても、目にすることがなければ定着しませんものね。多読ならお話の力を借りて文字に知らず知らずのうちになじみますよね。

染葉:そうですね。文字を読む練習をしているというより、内容に刺激されて顔が輝くのが、見ていてうれしいです。まだ、文を書けるレベルではない学習者で、「たのしかった」の一言にイラスト添えてくれる学習者もいました。楽しんでいることがすごく伝わってきます。

また、自分から支援者に感想を話したりして、結果的に会話の力も伸ばしているようです。
例えば、中国出身の学習者が「ホウイとチャンア」(レベル別日本語多読ライブラリーレベル2)の話を説明してくれたり、「結婚式」や「着物」(両方とも同シリーズレベル1)を読んで母国との違いを教えてくれたり、自分の結婚式の写真を見せてくれたりします。支援者と本を通じて交流できているところもいいなと思っています。

イラスト入りで楽しい読書記録。読後の満足感をよく伝えている

ときには支援者と感想を交換しながら…

ー 本を作った者として、そういう会話が生まれていることはとてもうれしいです。どんな本が人気がありますか。

染葉:日本の衣食住に関するテーマは人気がありますね。挨拶や行事の由来や意味を、本を読むことで学ぶことができていると思います。

ー 多読支援で、とくに工夫されていることはありますか?

染葉:入門者にも多読を理解してもらえるように多読のルールを7言語に翻訳しました。7言語の内訳は、ルビ付きのやさしい日本語、英語、中国語、ポルトガル語、スペイン語、タガログ語、ベトナム語です。

ー それはすばらしいですね! 私たちも見習いたいです。

染葉:この多言語版を作ってから、多読のルールを理解してくれる学習者が増えました

やさしい日本語、英語、中国語、スペイン語、ポルトガル語、
タガログ語、ベトナム語の多読のルール

ー 今後の課題は?

染葉:支援者が多読に対する正しい知識を持てるよう、定期的に勉強会や振り返りの時間を持てればと考えています。なぜなら、支援者が「読み書きクラス」の7つのグループのどこに入るかは固定ではなく、多読グループの担当支援者も毎回変わるからです。

 

ー 多読支援は、文字の学習のようにわかりやすくないから伝えるのは大変ですよね。

染葉:多読を取り入れてすぐは、耳慣れない学習方法で「支援者は本を読んでいる学習者を眺めているだけ?」と、勘違いされることもありましたが、支援者のみなさんに多読のやり方を少しずつ伝え続けてきた結果、今は、みなさんが少しずつ経験を積みながら、同じ本を読んで読後の感想を学習者と交換したり、同じ本を読んでいる学習者同士をつないで感想を交換しあえる機会を作ってくれています

 

ー 私たちも多読支援について、もっとわかりやすく伝える方法を考えなければいけませんね。今日は、ありがとうございました。

実は、見学中に気になったことがありました。学習者さんの読書記録を見せてもらっても、Aさんの本の選び方を見ても、どうもみなさん、律儀にレベル0のVol.1、レベル0のVol.2…とレベル順、巻数順に読んでいっているのです。本は段ボールの箱に入ったまま。
きちんと決められた課題をこなしていくという、文字を覚えるときに培われた学習スタイルが多読にも当てはめられているのかなと思いました。 Aさんは本好きだからいいけれど、順番に読むことが決められていたら、途中で嫌になる学習者が出てくるのでは? とちょっと心配になりました。「楽しくたくさん読む」のが多読なので、もうちょっとゆるく読んでほしい…。そこで、正直に染葉さんや支援者の岩﨑さん、松﨑さんにお伝えしました。

「本は機械的に順番に読まなくてもいいと思いますよ。レベルは考慮しなければいけませんが、支援者がアドバイスしながら、学習者が興味を持っているテーマの本、好みの本を選んでもらったらどうでしょうか。そのためには、本を表紙を見て選べるように並べたり、ジャンル別に並べてみるのもいいですよ」

さて、この訪問の数か月後、染葉さんからメールでうれしいご報告がありました。

自分で本を選ぶ

アドバイスをいただいてから、机の上に本を並べて学習者が読む本を取るようにしました。すると、表紙を見たり、中を少し覗いたりと選ぶことを楽しんでいる姿が見られるようになりました。

それまでは、学習者にはまだ本は選べないという思い込みや、学習記録を見て親切心から次の番号の本を渡すということをしていたのですが、もしかしたら、学習者は読みたくない本も読まされていたかもしれないと、はっとしました。

興味のあるジャンルの本を読む

ある学習者が、クラス前夜にクイズ番組を見ていたとき、「屋久島」に関する出題があったそうです。

この学習者は、多読教材の中に「屋久島」というタイトルがあったのを思い出し、クラスに行ったら読んでみたいと思ったそうです。

翌日、席についた途端、私に一連の経緯を話してくれました。以前だったら、「(前回の)続きの本を読んでみたら?」と声かけをしていたでしょう。または、「レベルが違うから…」と。どうにかして順番に読ませるよう軌道修正を行っていたと思います。でも、粟野先生からのアドバイスの直後だったので、「屋久島の本を探してみよう」と、これまでとは違った声かけができました。読後の感想は、「世界自然遺産に知りました(原文ママ)」。番組内でも簡単な説明があったようですが、「早くて聞き取れなかった。『屋久島』を読んでやっとわかった。すっきりした~」と、笑顔でした。

残りの時間は、「招き猫」「奈良の大仏」などを自分で選び読んでいました。本人曰く、「日本つながり」だそうです。このような本の選び方、多読のやり方は初めてでしたが、学習者は自分で選べる方が楽しいと言ってくれました。これ以降、自発的に本を選び、黙々と読み進めている姿が印象的です。

新年度に向けこのような読み方もあると支援者に再度提示したいです。文字を習得したての学習者が自発的に本を選ぶことができない場合、簡単なレベルから読むことも一定期間は有効だと感じています。でも、多読に慣れて語彙がたまり始めたら、ジャンル別に読んでもいいということをアドバイスできるよう支援者に伝え、スキルアップしてもらうのが当面の目標です。

 また、ジャンル別に読み進める際の補助になればと思い、支援者の皆さんに協力を得ながら本を分けています。NPO多言語多読のHPの本検索のジャンル分けも参考にしながら、作成中です。

染葉さんが、大勢の支援者を束ねる大変さの中で、よりよい支援の形を考えて、少しずつ進化させていっている様子に頭が下がります。次回お訪ねするときは、どうなっているか楽しみです!

2.児童生徒のための多読支援!

次に、外国にルーツのある子どもたちの日本語学習支援をしている名古屋YWCAのグローバルスクールの多読活動の取り組みを紹介します。

名古屋YWCAといえば80年以上の歴史があるNGOで、日本語学校、日本語教師養成講座なども運営する大きな組織です。その中のグローバルスクール(旧ガリ勉クラブ)では、小学生から高校生までの外国にルーツのある子どもたち80人~100人程度の学習支援をしているそうです。多読導入は2013年。2017年にボランティアのみなさんに多読研修をして以来のお付き合いですが、多読への取り組みについてあらためてお話を伺ってきました。

2020年2月のある晴れた午後、名古屋の中心部にある名古屋YWCAを訪ねました。

名古屋YWCAのビル(左)と、近くの名古屋テレビ塔と複合施設オアシス21(右)

インタビュー

早速、グローバルスクールで多読を支える2019年度のコーディネーターの上村桂恵子さんとボランティアの岡本和夫さんにお話を伺いました。

岡本和夫さん(中央)と上村桂恵子さん(右)

ー 2013年から7年近く多読をやっていらっしゃいますが、そもそもどうして多読を取り入れたのですか? 

上村:『日本語教師のための多読授業入門』(アスク出版)を読んで、興味を持ったのがきっかけです。生徒たちに読む力をつけてほしいと考えていたので、楽しみながら力をつけていく多読がいいんじゃないかと思って飛びつきました。読む力はすべての基本外国にルーツのある子どもたちが日本の学校でやっていくにはとても重要なことだと思っています。

 

ー どんな形で取り入れているのですか?

上村:グローバルスクールでは、生徒一人、または二人にボランティア支援者が一人つく形で、2時間、子どもがそれぞれにやりたい勉強や宿題をしています。漢字を練習したり、算数の宿題をしたり自由ですが、その中で本を読むことを強く勧めています。本の貸し出しもしています。

学期中は、他の勉強の前や合間に絵本やレベル別多読向け図書を読む

ー 貸し出しもしているんですね! いいですね。貸し出しができる機関はあまりないんですよ。多読を長く奨励されてきて、手応えを感じていらっしゃいますか? 

上村:子どもは正直で、読みたいときは読んで、嫌なときは拒絶します(笑)。一貫して読みたくない子もいますが、意識的に読むようにしている子は1、2年で変わってきますね。普通は日本の子に追いつくには3、4年はかかりますが、続けて本に親しんでいれば必ず効果が現れます。ときどき専門学校進学や大学受験の時、願書が書けない子がいるんです。たくさん読んでインプットを増やさなければ書く力もつかないので早い段階から読み慣れて、多読を続けてほしいと思っています。

ー多読は、持続が鍵ですね。

上村:はい。それで、単調になるのを防ぐために、夏休みには、図書館からもたくさん借りてきて特別に多読の時間をとってみんなで読む活動もしています。しおりやポップを作る作業も取り入れています。

ー 私も2019年の夏に見学させていただきましたが、大勢の生徒さんが豊富な本から漫画や絵本を選んで一斉に読む姿は圧巻でした。

2019年8月の「多読の時間」。ずらりと並んだ本はちょっとしたミニ図書館!?

レベル別多読向け図書、漫画、絵本の他にネット上に
公開されている
無料読みものなども網羅されている

上村さんのアドバイスをもとに本を選ぶ生徒。壁に生徒が書いたポップが貼られている

小学生から高校生までの生徒たちとボランティアさんが一斉に読む

2019年の夏以降は、どんな活動をされたんですか。

上村:2学期には、本をたくさん読んだ人に多読大賞をあげるというイベントをやってみたんですよ。多読の先生である岡本さんに表彰してもらいました。

ー へえ。生徒さんたちの反応はどうでしたか?

上村:小学生中心に5人が表彰されたんですが、普段、学校で表彰されるなんていう経験があまりない子たちなので、大喜びしていました。表彰されるのを見ていた子も「いいなあ」とすごくうらやましがって…。「3学期は50冊読破する!」という大きな目標を立てた子もいたんですよ(笑)。

ー モチベーションがかなり上がりましたね(笑)。表彰された子はどれぐらい読んだんですか? 

上村:トップの子は3か月で21冊でした。フィリピンの小学4年の女の子です。3年半前に来日しました。

2019年12月「多読大賞」の賞状を手にした生徒さんたちと岡本さん

ー それにしても、こちらの蔵書はバラエティ豊かで素晴らしいですね。

 上村:本の収集に関しては岡本さんにおんぶにだっこなんですよ…。

 ー 「おかもと文庫」と書かれた段ボールの箱が二つありますね。絵本や漫画などがぎっしり詰まっていますが、このコレクションはどんなふうに作ってこられたんですか。

厳選された絵本や漫画でいっぱいの「おかもと文庫」

岡本:まず、NPO多言語多読のリストをもとに本を集めました。その他、「絵本ナビ」や「Amazon」のレビューや新聞の記事、児童書を多く出している出版社の公式サイトをよく見て参考にしています。気になる本を少しずつ買っていったらだんだん増えて…。

※NPO多言語多読 

 ・本の検索ページ
 ・多読に向いた作品リスト

 ー 支援者でそこまで熱心な方はなかなかいないと思います。いつもアンテナを立てて情報収集していらっしゃるんですね。選ぶときは、どんな点が決め手になるんですか? 

岡本:生徒さんが興味を持ってくれそうな傾向の作品か、総ルビか。本が厚過ぎないか、1頁の文字や行の密度が高すぎないかを吟味します。それから、実際読んでみて、難解な表現が多くないか、文章の内容が高度過ぎないかもチェックします。

 ー 文字や行の密度! 重要ですね。内容は高度過ぎないほうがいいんですね?

 岡本:生徒さんたちに何を読ませたらいいのか、周囲の先生方や知り合いに何回か相談したことがあるんですが、学校の教科書を勧めてくださる方や岩波少年文庫がいいとおっしゃる方がいます。でも、それらはむしろ多読の最終目標とすべきであって、そこまでいくにはどうするかを考えなければいけないと思うんです。生徒さんたちは日本語については非母語話者なので圧倒的に日本語のインプットが少ないし、一見、日本語を流ちょうに話しているように見えても、読む力が不足している場合が多いです。私は生徒さんたちの今の日本語力をちゃんと見極めて、無理なく読めるやさしいものから勧めることが大切だと思っています。

 ー まったくおっしゃる通りだと思います。

 選書の決め手

 ・生徒が興味を持ちそうかどうか
 ・総ルビかどうか
 ・本が厚すぎないか
 ・1ページの文字や行の密度が高すぎないか
 ・難解な表現が多くないか
 ・内容が高度すぎないか

ー 本のジャンルに関して気をつけていることはありますか?

 岡本:本当は教科につながる読み物などが見つかればいいんでしょうが、現実には生徒さんの現在の日本語レベルで読めるそんな都合のよい本は、なかなかないんです。

 ー わかります…。私たちも、教科につながる読みものを作ってほしい、とリクエストされることがあるんですが、それをごくやさしい日本語で実現することが難しい上に、本当に興味がわく本になるか疑問なんですよね。意図的な教科書っぽい本になってしまいそうです。

この日も古本屋から本が何冊か届き、早速開封する岡本さん。
やさしい哲学の本『かんがえるアルバート ぼくのじかん』(講談社)

岡本:ですから、まずは日常生活に関わるものや、話の展開がわかりやすくて面白い昔話や童話などお話系を読んでもらうことが第一歩ではないかと思います。なるべくいろいろな分野の本をそろえて、ラインナップに幅をもたせようとはしていますが。

ー まず読めなければ始まりませんからね。

岡本:はい。支援者が高すぎる理想を押しつけないで、生徒さんの今の読む力に寄り添って本を選ぶ、そしてもうひとつ大切なことは、それを自分で選んでいる、という感覚を持たせてあげることだと思うんです。

 ― 読まされているのではなくて、自分が好きなものを好きなように読んでいるという気持ちですね。それは読書の原動力になりますよね。

 岡本:全体としては、支援者が本を用意するのですから、押しつけ要素がゼロとは言いませんが、読むのは生徒さん自身です。ここでは、生徒さんは指導者の指示で課題をこなしていくことが多いので、自主性を発揮する場が限られています。その意味でも自分で考えて本を選べる多読は貴重な場なんです。

ー 学習者をよく見て、気持ちよく読書ができるよう支援して自律へと導く、まさしく、多読支援の極意ですね!

支援の決め手

・高すぎる理想を押しつけない
・学習者の読書の能力を把握して、それに合った難易度の本を用意する
・学習者が自分で選ぶ自由を重視する

 グローバルスクールでのこれまでの定番的人気本リストはこちら

ー 岡本さんがこんなに熱心に多読に取り組まれるのは、どうしてなんでしょうか。

岡本:昔、大学院生だった頃、日本語でも英語でも、自分の文章力の無さを痛感したんです。その前提となるインプットが圧倒的に足りない、もっと若いときに読書をしておけばよかったと後悔しました。その後、英語多読に触れて、いわゆるレベル別多読向け図書を10冊ぐらい読んだところ、何か腑に落ちた感じがしました。そんなささやかな経験があったので、ボランティアに参加して日本語多読に出会ったときに、これだと思いまして…。

ー ご自分の実体験がおありだったのですね。やりがいを感じるのはどういうときですか。

岡本:やはり、自分が投入した本を生徒さんが一生懸命読んでいるのを見るとよかったなあと思います。最近、うれしかったのは、多読をレベル0から地道に積み上げようという熱意ある生徒さんが複数現れたことです。上村先生をはじめ、新入生や日本語力ゼロの生徒さんを担当される先生方の、多読理解度が高いことと熱意の賜物だと思ってます。それで、私も「おかもと文庫」の内容をレベル0からレベル3くらいまでが中心になるようにシフトすることに決めました。そのためにマンガや児童文庫を若干削って、その分、絵本を拡充する予定です!

ー 常に「おかもと文庫」は進化し続けているんですね! 「多読貧乏」にはくれぐれも気をつけてください!(笑)

読みたくない子どもにも強制することなく、工夫しながら柔軟に、かつ持続的な支援をしていらっしゃる様子が印象的でした。そして、学習者をよく見て選んだ心のこもった数々の本! この両輪が多読支援に欠かせない大きな要素だなあと改めてつくづく思いました。

ありがとうございました。

※名古屋YWCAのこれまでの活動について詳しくは以下のNPO多言語多読のブログをご参照ください。

2017年~2018年の活動
https://tadoku.org/blog/blog/2018/02/14/5890

2019年夏の活動
https://tadoku.org/blog/blog/2019/10/11/8862

ここまで、地域に根づいた多読活動を2か所ご紹介しました。次回は、アメリカでの多読特集をお送りします。どうぞお楽しみに!

【最後に】

新型コロナウィルス感染拡大の影響で、学校や図書館が休みになったり、オンライン授業になって、多読の材料に困っている先生や学習者のみなさんがいらっしゃると思います。

そこで、この機会に多読や多聴多観ができるWebサイトをご紹介します。どうぞご活用ください。

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取材・編集:日本語多読支援研究会

日本語多読支援研究会は、NPO多言語多読の中のグループです。NPO多言語多読の会員の中で、特に日本語多読の研究普及を目指すメンバーで構成されています。

 [今回の担当] 

粟野真紀子(あわの・まきこ/NPO多言語多読理事長)

日本語学校で日本語教師を務めるかたわら、2002年より日本語多読普及活動開始。2006年以降、多読向け図書『日本語多読ライブラリー』(アスク出版)の執筆監修を行ってきた。2016年には新シリーズ『にほんご多読ブックス』(大修館書店)を刊行。共著書に『日本語教師のための多読授業入門』(アスク出版)がある。現在、NPO多言語多読理事長として、国内外のセミナー等で多読普及に努めている。

※この連載は、JSPS科研費 20K13084の助成を受けています。


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