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    【連載】センパイ! 大学院って何をすればいいんですか!?〈毎月第3金曜日更新〉

    vol.9 webデザイナーのセンパイ

    みなさん、こんにちは。ひろこです。
    なんと、修士1年目が終わってしまいました。なんてこった! このセンパイインタビューも残りわずかです。今回は私の修論テーマにもかかわる日本語教育とITの分野をお仕事にされているセンパイにお話をうかがいました!

     

    《センパイ》角南北斗(すなみ・ほくと)氏 大阪大学大学院文学研究科で日本語教育学を専攻。在学中から、国際交流基金関西国際センターで授業補助や教材開発を行ないつつ、日本語学校での日本語教師を務める。博士前期課程修了後、2005年よりフリーランスとして、主に教育分野を中心としたWebサイトのデザイン業を開始。Web制作に関する技術的支援やコンサルティング、日本語教育/ITリテラシー/プレゼンテーション/経営などの領域における研究発表や講義を行っている。

    《聞き手》中山裕子(なかやま・ひろこ) 大学卒業後、旅行会社の社員を経て日本語教師に。国内の日本語学校や中東のヨルダンで日本語を教えてきた。今年4月から大学院に進学。でも大学院って何をすればいいのか、わからない! そうだ、先輩方に聞いてみよう!

     

     


    直感で日本語教育を選択


     

    ひろこ 今日はお忙しいなか、ありがとうございます。一度、学会でご挨拶させていただきました。それでまんまと今日はインタビューまで……。よろしくお願いいたします。

    角南 こちらこそ。

    ひろこ 早速なのですが、角南さんは大学院に入る前は何をしていたんですか。

    角南 僕は大学からそのまま大学院に進学しました。同じ大学です。

    ひろこ 学部ときの専攻も同じですか。

    角南 はい、指導教官も変わらず、青木直子先生です。

    ひろこ 自律学習といえば、の青木先生ですね。では、角南さんも自律学習に関する研究をしていたんですか。

    角南 いえ。僕の研究テーマは自律学習ではなかったのですが、うーん、修論黒歴史なのであまり思い出したくないです……。

    ひろこ 黒歴史! そんなことないと思いますが、でもそう思っている方ってけっこういるみたいですね。私の指導教官も「私の修士論文は探すな」と言っていました。
    角南さんといえばITと日本語教育をつなぐお仕事をしていらっしゃるんですが、修士のときからそういう類の研究や仕事をしていたんですか。

    角南 日本語教育の現場とのかかわりは、国際交流基金関西国際センター(以下、基金)での日本語研修事業のサポートが最初です。学部4年生のころですね。

    ひろこ じゃあ、ずっと日本語教育の業界にいて、働きながら大学院に通っていたんですね。

    角南 修士に進んでから日本語学校で教えることも始めたので、確かにそうなんですが、でも基金の仕事を始める前は、普通に就職活動をしていました。

    ひろこ それは日本語教育とは関係なくですか。

    角南 出版社とかいいなあと思っていました。ただ、就職活動が本格化する前に基金での仕事を紹介してもらって、なんとなく直感で「こっち(日本語教育)に行くほうがいいんじゃないかな」と思って、こちらに進むことにしました。

    ひろこ そこが分かれ道だったんですね。

    角南 はい、選んでしまいました。

    ひろこ わかります。私もです。

    角南 で、基金で働きつつ、修士にも行くことにしました。

    ひろこ どういったお仕事をしていたんですか。

    角南 週2日くらい、朝9時から夕方5時まで、先生の補助や教材開発など、教室で教える仕事以外を広くやっていましただんだん仕事の中身も変わっていきましたけど、基金には10年ぐらい籍を置いていましたね。

    ひろこ そのなかにITの仕事が含まれていたんですか。

    角南 はい。当時コンピューターに詳しい人が組織のなかにいなかったので、コンピューターでわからないことがあれば呼ばれるようになりました。

    ひろこ 当時からコンピューターに詳しかったんですね。

    角南 詳しかったわけではないんですが、若い人のほうが知ってるでしょ、みたいな感じで。

    ひろこ ほかの先生方はパソコンを使ってなかったんですか。

    角南 いえ、みんな使っていましたが、ちょっと専門的な知識が必要な作業は相談されましたね。たとえば、自主教材のカセットテープをCD化する仕事とか。

    ひろこ それ、私も教師になりたての頃にやっていました。日本語学校の面接のときに「パソコンとかメカが好きです」とアピールしたらそんな仕事が降ってきました。

    角南 僕の場合は、特段そういったことに詳しいわけではなかったので、まずやり方を調べて、必要な機材がなければ購入してもらうよう稟議書を書いたりプレゼンをしたり。

    ひろこ そんなことまでされてたんですか。

    角南 はい。ほかの人がやらない仕事が出番だと思って、かなり自由に動いていました。そういうスタイルは自分に合っていたので、ありがたかったです。

    ひろこ いろいろなことを頼まれているなかでコンピューターというかITにかかわることが多かったので自然と詳しくなった、ということでしょうか。

    角南 そうですね。頼まれ仕事だと、自分ではあまり関心がない分野も勉強しなければならないので、守備範囲は広くなりました。日本語研修に来ている人たち、特に若い人たちはITに詳しいので、そういう人たちからの要望や質問を教師の代わりに聞いたりもしていました。それが自然と当事者のニーズを知ることにもなっていましたね。

    ひろこ なるほど。

     

     


    教師とエンジニアの間に立つ仕事


     

    ひろこ 進路についてはどう考えていたんですか。

    角南 修士2年生になったときに、どうしようかとかなり悩みました。日本語学校への就職や博士への進学なども考えましたが、どれにも「これでやっていくぞ」という気持ちにまではならなくて……。4年で卒業した同期からは「院に進学したのに博士まで行かないの? 就職するなら学部卒でよかったのに」と言われました。

    ひろこ 厳しいこと言いますね……。

    角南 まぁ僕自身も、修士に進んだときは日本語教育以外は考えてませんでしたからね。何か打開策はないかと思って、日本語教育と関係のないイベントにも顔を出したりしていました。そのなかで、たまたま情報教育系の学会に参加したんです。そこで「この分野で発言することが自分の使命だ」と思ってしまったんですよね。

    ひろこ 使命……?

    角南 そこで行われている教育の議論は本質からズレていると感じたんです。小学生向けの情報教育の授業ではMOUS検定(Microsoft Office User Specialist。現在の略称はMOS)を学習のモチベーションにしよう、という意見が一部の人たちで盛り上がっていて、いやそれは違うだろう、特定のソフトの操作スキルの習得を教育目的にするなんて間違ってる!と思いました。

    ひろこ なるほど。

    角南 それで、次の年に同じ学会で発表して自分の意見を伝えようと思って、大学院は修士で終わりにして情報教育の世界に行くことにしました。

    ひろこ え! 大決断じゃないですか! その学会で物申したいがためにですか!?

    角南 そうですね。その思いが業界を移るきっかけになりました。ただ、そう思っても情報教育の仕事がすぐに得られるわけはないので、生計を立てる必要がありました。基金でウェブサイト制作の手伝いをしていたときに、教師とエンジニアの間に立つような仕事をして、こういう仕事に需要があるんじゃないかなと感じました。

    ひろこ 間に立つというと、どのような仕事ですか。

    角南 先生方が「こういうものを作りたい」といろいろな要望を出すんですが、そのままエンジニアに言ってもなかなか伝わりにくくて。で、先生方の意図をエンジニアに伝えたり、エンジニアのできることなどを先生方に伝えたりという役割ですね。

    ひろこ それを仕事にするために専門学校に1年通われたんですか。

    角南 はい。職種としてはウェブデザイナーになるのかな、じゃあウェブデザイナーを養成する専門学校に行こう、と。そういう思いがあったので、専門学校修了後の就職活動で行きたい会社が見つからず……。それで、何のアテもなかったんですけど、個人で仕事を始めることにしました。

    ひろこ 個人で仕事を始めるって、どうやったらいいんですか。

    角南 周囲に「始めました!」と伝えればいいだけです。でも簡単に依頼が来るわけはなくて、半年くらいヒマでしたね。日本語教師の仲間が仕事をくれたりして、少しずつ収入を得ていって。サイト「日本語でケアナビ」の開発も、基金での日々の仕事の積み重ねで「あいつに相談してみよう」となったのだと思います。でも、サイトを作る仕事って、作って終わりだと次につながらない。作ったものも勝手には世の中に広まらない。それはいいことではないので、「宣伝も兼ねて学会で発表しましょう」と制作の依頼主を説得して学会で発表するようになりました。

    ひろこ おおー! 賢い!

    角南 それで、学会で発表を聞いた人が「自分たちもこういうの作りたいんですけど」と声をかけてくれて、芋づる式のような形で仕事をしてきました

    ひろこ それがいまでも続いているんですね。

    角南 そうですね。

    ひろこ すごいですね。そうやって繰り返して12年……。

    角南 サイトやサービスを作って、学会で発表して、また作って……。

    ひろこ 確かに学会でよく発表されていますよね。

    角南 ただ、「サイトを作りました」という発表だけでは報告や宣伝にすぎないので、業界や聞き手にとって価値のある話になるよう、いつも考えてやっています。たとえば、他の人が似たようなプロジェクトをする際に参考になるようなことを示すとか、自分たちの取り組みにはどんな社会的な意義があるのかとか、ですね。

    ひろこ なるほど。

     

     


    フリーランスという働き方


     

    ひろこ 角南さんのようにいろいろな組織とかかわっていく働き方をするためには何が必要なのでしょうか。

    角南 まあ、運ですね。

    ひろこ 運ですか?

    角南 運ですよ。僕がいままでフリーランスで仕事ができたのは運です。どれだけいい人に出会えるかってことです。

    ひろこ 自分の努力や技術やその成果ではなく?

    角南 もちろん、きちんと仕事をして、その成果を伝えていく努力をするというのは前提ですけど……。まあ、現実は残酷じゃないですか。自分の思うように話が進むことはそうそうないですし。それに、僕は根性もないですし。

    ひろこ 自虐的ですね。

    角南 いやいや、本当に。僕は飽きっぽいし。ラッキーでした。ただ、先の保証がないので、ドキドキしながらの毎日です。

    ひろこ 私もドキドキしながらの毎日です。いまも非常勤だし……。

    角南 以前のインタビュー記事でもありましたよね。「日本語教師を選んだ時点で安定とか求めてないでしょ」って。

    ひろこ ああ、私の指導教官のお言葉です。

    角南 僕も指導教官に「日本語教師の仕事は収入面で厳しいものがある」というようなことを言われました。確かに日本語教師は去年と今年で働く場所というか国すら変わったり仕事内容が突然変わったりってよくあるじゃないですか。不確実というか、訳がわからないことが起こるというか……。

    ひろこ 外国人がいなくなってある日突然仕事がなくなるということもありますし……。まあ、普通の会社でもあり得ることですけどね。

    角南 ほかの会社でもあり得るんですけど、振り幅というかスケールが大きいですよね。景気のいい話も聞きませんし。ただ、Twitterとかを見ると、そういう状況にも負けずにフリーランスの日本語教師と名乗って頑張っている人もいるじゃないですか。

    ひろこ そうですね。

    角南 まだ多数派じゃないかもしれないけど、そういう人たちの活躍がロールモデルになる、そういう働き方でも食べていけることが示されれば、日本語教師の働き方も多様になっていくんじゃないでしょうか

    ひろこ 角南さんのブログに書いてある「日本語教師とバラ色の未来リンク)」ですね。

    角南 そうなるといいですね。

    ひろこ 今日は長い時間ありがとうございました!

    角南 ひろこさんもおつかれさまでした。お互い頑張りましょう。

     

     

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