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    【連載】ソーシャル・メディアをめぐる冒険〈毎月第4金曜日更新〉

    第9回 行動中心アプローチとTwitter

     

    みなさん、こんにちは。冒険家の村上です。
    この連載では、第1回の記事からソーシャル・メディアで日本語を学ぶ意義として、学習者がほかの日本語話者とつながることができるという点を挙げてきました。ほかの日本語学習者とつながるためには、学習者は語彙や漢字や文法を覚えるだけでなく、実際にキーボードで入力して投稿ボタンを押すところまでしなければなりません。そして、日本語教師は学習者のそうした行動を支援するために何を教えなければならないかを考えなければなりません。そして、それを教えるためにはどんな教材や活動をしなければならないかと考えます。
    このように行動から発想する考え方を行動中心アプローチとか行動中心主義といいます。

    もちろん、Twitterなどは検索機能をフルに使えば言語のデータベースとしても勉強の材料になりますので、言語を出発点として「この表現を教えたらどんなことができるだろうか」と考える文型シラバスのアプローチでもソーシャル・メディアには大きな利用価値があります。ただし個人的には、せっかくソーシャル・メディアを使っていながら、実際に他の話者とつながらないのは宝の持ち腐れではないかと思っています。

    そこで今回は、行動中心アプローチの考え方をもとに、ソーシャル・メディアにおける日本語教育の方法について考えてみましょう。特に、Twitterは複数のアカウントを持つことができるし、匿名でも投稿できて学習者に負担が少ないので、Twitterで他の学習者とつながるために何を教えればいいかを考えてみます。

     

    index

     

     


    ハッシュタグを通してつながろう


     

    Facebookなどと違ってTwitterには「グループ」という機能がありません。その代わりに同じ関心を持つほかのユーザーとつながるために利用されているのがハッシュタグです。ハッシュタグというのはご存じの方も多いかと思いますが、「#」で始まる文字列のことで、Twitterに投稿するとその部分が自動的にリンクになり、そのリンクを開くと同じハッシュタグをつけて書かれた投稿を見ることができます。「#日本語教師チャット」もその一つです。

    外国語学習におけるハッシュタグの使い方については、参考文献に挙げたOsman Solmaz氏の「ツイッターにおける自律的な語学学習:ハッシュタグを通した目標言語ユーザーとのつながり」に詳しいです。論文は英語で書かれていますが、簡単な解説を僕の個人ブログに書いていますので、ご興味のある方はご覧ください。この論文中でOsman氏は自身のスペイン語習得の経験から、自律的な外国語学習におけるハッシュタグの使い方には以下の3つのがあると観察しています。

    1. ライブイベント
      スポーツイベントやテレビの放送などに関するハッシュタグです。日本では今年、大河ドラマの「#おんな城主直虎」のハッシュタグが目立っていました。
    2. 祝福と喪失
      有名人が亡くなったときに思い出や感謝を共有したりします。
    3. ミームとユーモア
      日本ではたとえば「#心が乱れた時に見るGIF」などが有名です。ミームというのはネット上を伝播していくネタのことでいろいろな種類がありますが、日本では「煙草吸ってもよろしいですか?」などが有名です。

     

     


    行動のリストを作ろう


     

    では、こうしたハッシュタグを通して日本語話者と交流するには、どうすればいいでしょうか。ちょっと考えるだけでも、以下のような行動が考えられます。

    1. イベント名の日本語でTwitterを検索する
    2. そのイベントに関する投稿で使われているハッシュタグを見つける
    3. そのハッシュタグで投稿された他のユーザーの投稿を理解する
    4. そのハッシュタグ付きで投稿する
    5. そのハッシュタグ付きの投稿にコメントする
    6. そのハッシュタグ付きの自分の投稿へのコメントを理解する
    7. 自分の投稿へのコメントに返信する

     

    では、最初の「イベント名などの日本語でTwitterを検索する」ができるようになるには何を教えればいいのでしょうか。もちろん、そのイベント名が必要ですよね。そして、検索窓に打ち込むには、手書きではなくデジタルな入力も必要です。キーボード入力でも音声入力でも、そのイベント名の発音がわからないと入力できませんから、イベント名を認識できるだけでなくどう読むかも教える必要があります。

    つまり、「イベント名などの日本語でTwitterを検索する」ことができるようになるには、日本語に関するものとしては以下の2つを教えればいいのです。

    • 学習者の関心のあるイベント名
    • そのイベント名の発音

     

     


    内容を制限しよう


     

    この「イベント名などの日本語でTwitterを検索する」という行動については、文ではなく語彙のレベルしか必要ないので、初級でも上級でもすぐにできそうですよね。ただ、3番目の「そのハッシュタグで投稿された他のユーザーの投稿を理解する」になると、どう教えればいいか途方に暮れてしまうのではないでしょうか。その理由の1つは、ユーザーの投稿があまりにも多様で、何を教えればいいかわからないからだと思います。また、もう1つの理由は、これだけだと学習者のレベルも想定しにくいからでしょう。

    では、読む内容を「他のユーザーの投稿」という漠然した表現から「簡単で定型的な他のユーザーの投稿」としてみてはどうでしょう。スポーツイベントなどでは「がんばれ!」などがあるでしょうし、上記Osman氏のハッシュタグの使い方の2番目にある「祝福と喪失」では「おめでとうございます!」「ご冥福をお祈りいたします」などがあるでしょう。

    なお、先ほど「定型的な表現」と書きましたが、もちろん文法を教えるのがいけないというわけではありません。たとえば「がんばれ!」「がんばってください!」の違い、「おめでとう!」「おめでとうございます!」の違い、「ご冥福をお祈りします」「ご冥福をお祈りいたします」の違いなどについては、レベルによっては知っておく必要があると思います。

     

     


    条件を付けよう


     

    さて、第二言語習得の理論では、スポーツイベントの応援などのような明確な状況があって、「がんばってください」のような定型的な表現を何度も見れば(いわゆる「大量のインプット」ですね)、文型練習などはしなくても習得できるという認識が一般的なのではないかと思います。しかし、それでは学習者はすぐに上記の行動リストの4にある「そのハッシュタグ付きで投稿する」ができるようになるかというと、そうでもないんですね。なぜならここも対象が「定型的な表現で」などと限定されていないうえに、学習者の多くは定型的な表現では満足せずに自分の言いたいことを言おうとするからです。

    ただ、イベント名などは限りがあるので前もって教えれば済みますが、学習者が投稿するときは多様な内容が予想されます。こうした混乱を防ぐためには、「前もって準備する」とか「辞書を使う」などの条件をつけると、それほど多様な内容を教えなくて済むので、何とかなりそうです。つまり「辞書を使ってそのハッシュタグ付きで投稿する」などにすればいいわけです。

     

     


    能力記述文


     

    以上のように内容を制限したり、条件を付けたりすると、最初は漠然としていて何を教えればいいかわからないような行動リストが、だんだん学習レベルの特定された授業の目標として明確になってきます。授業の目標としてはこのままでもいいのですが、一般的な行動中心アプローチではそういう行動ができるようになったかどうかが重要なので、文末を「する」ではなく「できる」にすることが多いです。これを能力記述文とかCan Do Statementといいます。上の例では、以下のようになります。

    • 簡単で定型的な他のユーザーの投稿を理解することができる
    • 辞書を使うことができれば、そのハッシュタグ付きで投稿できる

    今回、最初からTwitterという場が設定されていたように、一般的な能力記述文では「内容」「条件」の他に「話題や場面」も書いてあることがほとんどです。この3つの要素にさらに投稿などの「行動」も入れた4つが能力記述文を構成する要素です。文型シラバスで各課の目標や評価基準が「てください」「てはいけません」などの文型で構成されているように、行動中心アプローチではこうした能力記述文が各課の目標や評価基準になります。

    上記のOsman氏の論文や僕自身のTwitterの使い方を参考にして、以下に日本語初級者のTwitterユーザーのための能力記述文を30ほど考えてみました。

    1. 漢字やカタカナでTwitter上の自分の名前を入力することができる。
    2. モデル文があれば、簡単な定型表現で160文字以内の自己紹介を書くことができる。
    3. 国名や地名など、自分に関係のあるハッシュタグを探すことができる。
    4. 自分に関係のあるハッシュタグのある投稿の画像を見ることができる。
    5. 辞書などの補助ツールを使えば、自分に関係のあるハッシュタグのある投稿を読んで、ごく基本的な情報を読み取ることができる。
    6. 辞書などの補助ツールを使えば、自分に関係のあるハッシュタグで投稿しているユーザーのプロフィールを読んで、ごく基本的な情報を理解することができる。
    7. 自分に関係のあるハッシュタグの画像に「いいね」することができる。
    8. 自分に関係のあるハッシュタグの、短い簡単な文章に「いいね」することができる。
    9. 簡単な定型表現で画像をほめるコメントをすることができる。
    10. 簡単な定型表現で画像に関して質問することができる。
    11. 辞書などの補助ツールを使えば、簡単な定型表現で文章に賛同のコメントをすることができる。
    12. 辞書などの補助ツールを使えば、簡単な定型表現で、参考になったツイートにお礼のコメントをすることができる。
    13. 辞書などの補助ツールを使えば、公式RTして、ごく簡単な短い賛同のコメントをつけることができる。
    14. 不特定の相手に一般公開で簡単な短い質問をして情報を求めることができる。
    15. フォローした挨拶を簡単な定型表現で送ることができる。
    16. 辞書などの補助ツールを使えば、自分へのコメントを読んでごく基本的な情報を理解することができる。
    17. 辞書などの補助ツールを使えば、コメントへの簡単な短い返事を書くことができる。
    18. 自分へのコメントに「いいね」を押すことができる。
    19. ごく簡単な短いコメントをつけて、Twitter外で読んだ記事をシェアすることができる。
    20. ごく簡単な短いダイレクトメッセージを送ることができる。
    21. 辞書などの補助ツールを使えば、ダイレクトメッセージを読んで基本的な情報を読み取ることができる。
    22. ダイレクトメッセージに簡単な短い返事をすることができる。
    23. 関心のあるニュースを読んだとき、Twitterユーザーの反応を知るために検索することができる。
    24. 大きなテロや災害があったときに、簡単な定型表現で励ましやお悔やみのツイートを適切なハッシュタグとともに投稿することができる。
    25. オリンピックなどの大きなスポーツイベントで簡単な定型表現の応援ツイートを適切なハッシュタグとともに投稿することができる。
    26. 同じチームや選手を応援しているユーザーに適切なハッシュタグとともに簡単なごく短いコメントをすることができる。
    27. 自分の好きな作家などの有名人のアカウントを探すことができる。
    28. 自分の好きな有名人のアカウントにごく短い簡単なコメントをすることができる。
    29. 自分の好きな本や映画などについて、ごく簡単な短い感想を投稿することができる。
    30. 辞書などの補助ツールを使えば、自分の国などに関する誤解をしているユーザーを批判して、ごく短い簡単な反論をすることができる。

     

    もし、Twitterの利用を通して日本語を学びたいと考えている学習者にしている先生がいらっしゃいましたら、参考にしていただければ幸いです。

     

     


    参考資料


     

    むらログ: 第二言語習得におけるハッシュタグの3つの使い方
    http://mongolia.seesaa.net/article/454797260.html

    Solmaz, O. (2017). Autonomous language learning on Twitter: Performing affiliation with target language users through #hashtags. Journal of Language and Linguistic Studies, 13(2), 204-220.
    http://jlls.org/index.php/jlls/article/viewFile/644/311

    JF日本語教育スタンダード2010年版 第3章
    https://jfstandard.jp/pdf/jfs2010_03_3e.pdf
    (35ページに能力記述文の構成が記載されています)

     

     

    近刊紹介
    SNSで外国語をマスターする方法について筆者がまとめた書籍『冒険家メソッド』(ココ出版)が、近日刊行予定!!

     

    《筆者》村上吉文 冒険家。これまで、国際協力機構(JICA)や国際交流基金からモンゴル、サウジアラビア、ベトナム、エジプト、ハンガリーなどへ派遣されてきた。2017年5月からカナダのアルバータ州教育省に勤務。ブログ「むらログ」(http://mongolia.seesaa.net/)では、日本語教育とICTに関する記事や、教育機関によらず自らの力で日本語を学ぶ「冒険家」たちについてのインタビューを発信している。

     

     

    連載バックナンバー

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    ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第7回「コミュニティを作ろう」

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