センパイ! 大学院って何をすればいいんですか!? vol.7 海外のセンパイ(2)

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【連載】センパイ! 大学院って何をすればいいんですか!?〈毎月第3金曜日更新〉

vol.7 海外のセンパイ(2)

みなさん、こんにちは。ひろこです。
前回の記事をきっかけにFacebookでつながった(つながらせた?)小川センパイにお話をうかがいました。小川センパイは国際交流基金の専門家としてご活躍中です。大学院や海外でのお仕事について、センパイ、教えてください!

 

《センパイ》小川靖子(おがわ・やすこ)氏 国際交流基金 上級専門家。大学、大学院で国語文法を研究したのち、韓国の短大で日本語を教えたことをきっかけに日本語教育の道へ。早稲田大学大学院日本語教育研究科修了。先月まで国際交流基金ソウル日本文化センターに勤務していた。今月からはフィリピン・マニラ事務所に赴任する。

《聞き手》中山裕子(なかやま・ひろこ) 大学卒業後、旅行会社の社員を経て日本語教師に。国内の日本語学校や中東のヨルダンで日本語を教えてきた。今年4月から大学院に進学。でも大学院って何をすればいいのか、わからない! そうだ、先輩方に聞いてみよう!

 

 


最初の大学院では国語文法を研究


ひろこ 赴任前のお忙しい時間にありがとうございます。

小川 いえいえ。

ひろこ 小川さんが韓国にいかれた最初のきっかけは何だったんですか。

小川 私、もともとは日本文学部にいて、日本語文法専攻だったんですね。そのときになんとなく大学院にいきたいなーと思って進学しました。大学院が終わる頃、韓国から来ていた先輩に、「ちょっと仕事しないか」と言われて韓国で働き始めたのが最初です。だから私のなかで日本語ってどうやって教えるんだろうって感じだったんですね。

ひろこ 最初の大学院では何をテーマにしていたんですか。

小川 受け身文の一考察について研究してました。

ひろこ では、文法を研究していたけど教えるほうにはかかわっていなかったんですね。

小川 そうですね。それまで私が受けてきた外国語教育は英語だけだったので、日本語をどう教えるのかはわかりませんでした。なので、最初はよくわからないまま韓国に行きました。先輩に騙されたようなものですね(笑)

ひろこ 騙された(笑)。いやいや、すごいチャンスじゃないですか。韓国では大学で教えられていたんですよね。

小川 日本でいうところの短大ですね。

ひろこ 日本人の先生は会話のクラス担当ってよく聞くんですけど……。

小川 はい。会話担当でした。先輩たちに「好きにやっていい」と言われたので、最初は自分が受けた英語教育の焼き直しのようなことをしていました。

ひろこ 言葉の意味を確認したり教科書を読んだりですか。

小川 あとは決まった会話をペアで読むとか。でも1、2ヶ月経った頃に学生が「自分1人でできることじゃなくて、人と話したり学びあったり、クラスでしかできないことをしたいんです」と言ってくれたんです。

ひろこ 冷静に言ってくれる学生たちだと助かりますね。しかも最初の頃に言ってくれると。

小川 確かに。ずっと黙ってて耐えて、最後にアンケートに書く、なんてされるよりずっと良かったと思います。ただ、言われたからといってすぐに希望通りの授業ができるようになるわけじゃないんですが……。

ひろこ それで、クラスでしかできない授業を模索しつつ、そのお仕事を続けられていたんですね。

小川 そうですね。

 


2回目の大学院は効率性重視


ひろこ そのお仕事はどれぐらいやってたんですか。

小川 2年ぐらいやってました。それで進路についていろいろ考えていたときに、前述の先輩が「早稲田(大学)に日本語教育学研究科ができたから、行くならいまだよ」と言ってくれたんです。

ひろこ でもそのときは仕事してたんですよね。

小川 そうなんです。でも先輩が「今後も日本語教育にかかわるんだったら日本語教育の修士ぐらいはもっていたほうがいい」と言ってくれて。私も「そんなもんかなぁ」と思って受験したんです。

ひろこ 先輩の言葉は強いですね。

小川 国費で日本に留学したぐらいの方なので先を見る力はあるんだなと思って話を聞いていました。それで、日本に戻って大学院に入りました。

ひろこ 大学院は1回目と2回目で何か変わりましたか。

小川 1回目のときは漠然としていました。テーマも「何か見つかるんじゃないか」と思いながら1年目を過ごしていましたね。

ひろこ 確かに研究テーマ探しに時間がかかるというのはよく聞きますし、私自身も同じような状況です。

小川 でも2回目は最初からテーマを決めて2年で卒業すると決めて通いはじめました。

ひろこ そのときのテーマは何だったんですか。

小川 第二言語習得ですね。いまでいうピアラーニングみたいなものです。教師があまり介入しないというスタイルの。あとは教室でできることとできないことの境界とか。

ひろこ それは最初に韓国で学生に言われたことがきっかけですか。

小川 そうですね。私は博士過程に行くつもりはなかったので、指導教官からすると、勉強しないし、2年で卒業して就職したいって言っているし、あまり真面目な学生じゃなかったと思います。

ひろこ そうですか。そんなことないと思いますけど。

小川 なんというか、時間も限られているので、ダラダラ参考文献を探さない、テーマを絞って効率を目指す、そういう態度でした。とにかく私は修士号をもらって次の仕事に就くのが目的だったので、変な話、修士論文は通ればいいと思っていました。

ひろこ じゃあ、2回目の大学院では最初から就職活動もしていたんですか。

小川 就職活動まではしていませんでしたが、常に仕事はするようにしていましたし、仕事の情報を見たり、先生方に「韓国で仕事がしたいです!」とアピールもしていたんじゃないかな。

ひろこ それで、次の仕事が決まったんですか。

小川 はい。ちょうど私の大学と釜山の大学が提携して日本語教師を日本から送ることになったので、そこに無事就職できました。

ひろこ 順調ですね!ということは、かなり早くから論文を書いてたってことですか。

小川 それが書いてなかったんですよね。でもまあ自分のなかでクオリティは求めてなかったので……。

ひろこ え、それ言っちゃって大丈夫ですか。切るところ言ってくださいね。

小川 2回目の大学院なので、論文がどういうものかだいたいわかっていたし、どの辺が大事かっていうのもだいたいわかっていたので。

ひろこ ゴールが見えていたので効率よくできたってことですかね。

小川 そうですね。もちろん論文を書くのは大変だったし徹夜もしましたけど、全部想定していて、こんな風に持っていけば論文になる、とわかっていたのは大きいと思います。

ひろこ すごくうらやましいです。ゴールを明確にしてそこに至るまでの道筋が見えていると安心して書けますね。

 


韓国の就職活動


ひろこ ちなみに、韓国で仕事を探そうとしたら何をすればいいんですか。

小川 人の紹介で、ということも多いので、人脈が大事ですね。

ひろこ そうなんですか。じゃ、採用試験のようなものはあまりないんですか。

小川 いまは模擬授業などもあるようですが、韓国の大学で日本の大学と提携している場合は書類審査だけのこともありますね。一般公募の場合は模擬授業や教案提出もありますけど。

ひろこ 人脈って大事ですね。

小川 どのポジションのどんな人とつながるかが大事ですね。その人に人柄を保証されるってことですから。

ひろこ 大学院を修了した次のお仕事は?

小川 仕事を探していたとき、ちょうど国際交流基金の専門家の募集に釜山事務所の枠があったので応募しました。

ひろこ 国際交流基金は書類審査だけではないですよね。

小川 そうですね。書類審査があって、筆記試験があって、それに受かると最終面接が日本であります。この面接は2種類あって、普通の事務的な面接と日本語教育の面接をします。

ひろこ 派遣先の希望はできるんですか。

小川 一応書類には第3希望までかけるんですけど、最終的にはマッチングなので、なかなか希望通りにはいかないと聞いています。

ひろこ でも、小川さんは希望通り韓国だったんですよね。

小川 それが、私は最初受けたときに何も知らなかったんで、第1希望の韓国しか書かなかったんです。面接でも韓国の話しかしなかったので、それで韓国になったのかも……。

ひろこ ほかの所にはいかせられないって感じだったのかもしれないですね。
国際交流基金の仕事と大学の仕事はどう違いましたか。

小川 国際交流基金では中等教育の現地教師研修がメインだったので大学の仕事とはだいぶ違いました。

ひろこ 現地の先生方に向けて小川さんが研修するんですよね。
いままでの学習者相手とは全然違う仕事なんで、切り替えは大変じゃないですか?

小川 現地の先生方はキャリアも長いので、私を上手に育て導いてくれました。

ひろこ 研修を受ける側の先生方ですか?

小川 そうです。研修をうまく運べるようにアシストしつつ、やりたいことを伝えつつ……という感じです。

ひろこ そうですか。お話を聞いていると小川さんは周りの人と上手に過ごされているようですね。

 

 


海外で働き続ける理由


 

ひろこ 長く韓国で働いていたのは何か理由があるんですか。

小川 釜山の大学勤務時は、同僚の先生方といくつか共同研究をしました。大学も同僚の方々もとても協力的で研究しやすい環境だったことが理由の1つです。あと、やっぱり住みやすいっていうのもあると思います。私は釜山に7年いたんですけど、港町だからオープンですし日本からもすごく近いんですね。いざとなったら飛行機で帰れるし、というか船で3時間ぐらいで九州まで行けるんで、気持ち的に楽だったんだと思います。

ひろこ その後はどうされたんですか。

小川 日本国内も知ったほうがいいかな、と思って、名古屋で非常勤講師を3年していました。

ひろこ 国内の仕事というと、今度はまた学生に教えるお仕事ですよね。

小川 はい。学生もいろんな国の学生がいて、韓国とは学習スタイルもテストのストラテジーも違いましたし、面白かったですね。

ひろこ 学生以外に違う点はありましたか。

小川 日本では複数の先生が同じクラスを担当するじゃないですか。いっしょにテストを作ったり成績をつけたり。韓国は1人の先生がコースを担当するので1人で責任を持ってやっていました。

ひろこ そのあとはどうされたんですか。

小川 やはり海外に出たいなと思って。海外に行くなら国際交流基金がいいなと思って受験しました。

ひろこ 交流基金がいいなと思った理由はなんですか。

小川 2、3年しかいられないんですけど、組織として大きくかかわれるので面白いなと思ったからです。

ひろこ 国際交流基金だと街全体や国全体、事務所によっては周辺国の日本語教育にもかかわれますよね。

小川 そうなんです。学習者とかかわる時間は減ってしまうんですけど、大きくかかわれたらと思って。

ひろこ また韓国に行かれて3年過ごされて、今回は脱!韓国なんですよね。

小川 そうですね。今月からフィリピンのマニラに行きます。

ひろこ 韓国から帰国してフィリピンに行くまでの2週間足らずの日本滞在時に、わざわざインタビューに答えていただいて本当にありがとうございます。

小川 まあまあ、もう行くだけですから。

ひろこ なぜマニラなんですか。

小川 これもマッチングでしょうか。私は中等教育を希望したんですが、マニラのEPAのお仕事に決まりました。

ひろこ またぜんぜん違う仕事ですね!

小川 はい。なので、いままで私がしてきたことで何ができるかまったくわかりません(笑顔)。

ひろこ じゃ、行ってみてから決めるって感じですか。

小川 EPAのプロジェクトはすでに始まっているんですが、私はこれから行くので……。まあ見ながらですね(笑顔)。

ひろこ 小川さんの「とりあえずみてみよう」というのが、海外で仕事をするのに必要なマインドなんだなと思います。

小川 そうですね。日本語教育にかかわっている点ではぶれていないですし、このお仕事をいただけたのも何かのご縁だし。

ひろこ その「いただいたものをありがたくいただく」っていうの大事ですね。

小川 あ、その言葉、すごく納得!

ひろこ 日本語教育の仕事って本当にいろんな種類があるし、現場によってもけっこう違うじゃないですか。でも小川さんは「またぜんぜん違う〜」って笑顔でいられるのが、海外を含めていろんな現場で働くコツなのかなと思います。

小川 そうですね。嫌なことがあっても「ネタになった! どこかで話そう!」って思っているので。

ひろこ わかります!

小川 嫌なこともあったと思うんですけど、できないことはできないし、できることはできるので、何かあったら「新しいネタありがとうございます」って思っています。

ひろこ 見極めというか、できないこともあると最初に思っているのがストレスにならないのかもしれませんね。

小川 ベストを目指すのはきついので、ベターだったらよしよし、ぐらいに思っています。

ひろこ 「ベターだったらいい」! これは名言ですね! 小川さんの大学院でのスタンスにも通じますね。

小川 確かにそうですね。

ひろこ 最後に大学院について何かアドバイスをお願いします。

小川 大学院も先を考えて逆算をしてゴールやリミットを決めることをお勧めします。日本に残って博士課程に進む場合のゴールと、修士が終わったら就職する場合のゴールは違いますから。逆算がオススメです!

ひろこ 卒業後、大事ですね。私も将来を考えなきゃ……。

小川 と言いながら、私もまだ博士に行こうか考えるときもありますけどね。そのときはまた何かネタがあれば戻ることもできるかなと思います。

ひろこ ネタ、大事ですね。

小川 そうですね。

ひろこ 今日は楽しいお話をありがとうございました。マニラでも楽しくお過ごしください!

小川 こちらこそ、ありがとうございました。

 

※お知らせ※来月は休載します。12月の更新をお楽しみに!

 

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