ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第6回「教師自身の学びのために」

最終更新日

 

【連載】ソーシャル・メディアをめぐる冒険〈毎月第4金曜日更新〉

第6回 教師自身の学びのために

 

みなさま、こんにちは。今朝のエドモントンの気温は2度で帽子に手袋が必要でした。来週は氷点下まで下がることが予想されていて、本格的な冬ももうすぐです。

 

さて、前々回は「教師自身が使いこなす」ために共有範囲をコントロールして気兼ねなく投稿することを紹介しましたが、これはどちらかというと「デメリットを避ける」という方向の考えです。教師が授業にソーシャル・メディアの力を取り入れるには自分自身がソーシャル・メディアに慣れなければいけませんが、そもそも「デメリットがない」だけでは使いたいとは思いませんよね。それで、今月は教師自身が自分の成長のためにソーシャル・メディアを使い、「これはすごい学びのツールだ!」ということを体感していただくための具体的な方法をいくつかご紹介したい思います。

 

勉強のためにはFacebookでもGoogle+でもいいのですが、今回は日本語教師のユーザーがそれなりにいて、つながるための敷居が低いTwitterを例にとってご紹介しましょう。Twitterの場合は個人情報を公開する必要がなく、相手の了承がなくてもどんどんフォローしていけるからです。

 

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日本語教師のアカウントをフォローしよう!


アカウントの作成はこちらに「Twitterアカウント開設方法」というキーワードで検索した一年以内に公開された記事の一覧がありますので、ご覧ください。Twitterにアカウントを作ると日本語教育とは関係のないアカウントをお勧めされますが、それらは全部無視したほうがいいです。その代わりに、日本語教育関係者をたくさんフォローするといいでしょう。全員の投稿を必ず読む必要はないので、なるべく大量の人をフォローしてアクセスするたびに新しい投稿が目に入るぐらいの流速を確保しましょう。

 

では、どうやって日本語教師のアカウントを見つければいいのでしょうか。「日本語教師」などで検索してもいいのですが、それだと「美人すぎる日本語教師」とか勉強にならない投稿も大量に目にすることになってしまいます。もし、積極的に情報発信している日本語教師とつながりたいなら、「#日本語教師チャット」というハッシュタグで発言している人をフォローするのもいいでしょう。この「日本語教師チャット」は僕が同業者のTwitterユーザーに呼びかけて始めたオンラインのチャットで、まだ2回しか実施していないのですが、今後も毎月、最終土曜日の午後8時30分から1時間の予定でやりたいと思っています。この記事が公開される予定日の1週間後の土曜日が第3回ですので、ご関心のある方はぜひご参加ください。

 

また、ちょうど1年前に「#おすすめ日本語教師」というハッシュタグで、ご同業のみなさんにおすすめの日本語教師ユーザーを挙げてもらったこともあります。上記の「#日本語教師チャット」に一部重なりますが、参考になる人をたくさん見つけることができるでしょう。

 

 

 


チャットに参加しよう!


英語が苦手でない人は、「#langchat」も非常におすすめです。毎週土曜日の日本時間で午後11時からになってしまうので、ライブで参加するのは難しいかもしれませんが、後からでも参考になる情報を大量に読むことができます。このチャットは語学の教員が集まるところなので、フランス語やスペイン語など、日本語以外の教育に関する実践を知ることもできます。

 

語学に限定しなければ、教育全般に関するチャットとしてもっとも有名なチャットの1つは「#satchat」です。これは米国東部時間で毎週土曜日の朝7時半から8時まで行われているもので、日本時間でいうと土曜日の午後8時半からになります。

 

なお、こうした教育者関係のチャットでは、同時に大量の参加者が投稿するので、議論が錯綜することを避けるために、2つのお約束があります。1つはもちろん「#日本語教師チャット」や「#langchat」のようなハッシュタグを使うことですが、もう1つはモデレーターが「Q1」「Q2」という文字列を使って問いを投げかけると、その他の参加者は「A1」「A2」といった文字列を使ってその問いかけに応じた自分の考えを投稿するということです。「日本語教師と待遇」がテーマだった前回は真野蟻乃典さん(@mano_arinoske)がモデレーターをしてくださったのですが、「現在の待遇に満足していますか」「待遇改善のアイデアがありますか」「教師の待遇が改善されたら日本語教育はどのように変わると思いますか」という問いを投稿され、最初の問いに対して「A1」を入れて投稿した人は13人でした。

 

これがもっと大きな、たとえば上述の「#satchat」になると、ものすごいことになります。この原稿の執筆時点でもっとも最新の9月9日のチャットでは、「Q1」に対して111人もの教育関係者が「A1」を投稿していました。この日は30分のチャットの間に「Q6」まであったので、まるで嵐のように目の前をさまざまな教員たちの考えが流れていきます。これは本当に圧倒的な体験です。1つの問題に対して、リアルタイムで大量の意見がものすごいスピードで共有されていくのです。そしてそれが毎週行われているのです。

 

いや、それだけではありません。先ほど僕は「#satchat」をもっとも有名なチャットの「1つ」と書きました。そうなんです。これがすべてではないのです。たとえば昨日(9月14日)は全部で57ものこうした教育チャットが開かれていました。その中にはカナダのサスカチェワン州の教員が集まるものなど、あまり一般の日本人には縁のなさそうなものもたくさんありますが、科目別のチャットがあったり、学年別のチャットがあったり、非常に多様な教員たちがお互いに意見交換をしているのです。

 

このような教員チャットはGoogleカレンダーで共有されていて、どなたでもこちらからご覧になることができます。今回の記事をみなさんがいつお読みになっているかはわかりませんが、その時点でもどれか1つのチャットが進行中かもしれませんし、どれだけ長くても数時間以内には必ずどこかのチャットを見ることができるでしょう。

 

 

チャットだけではないTwitterの学び


しかも、上記のカレンダーに載っているのは、開催時間を決めてリアルタイムに書き込むタイプのチャットが中心で、教師の勉強用のハッシュタグは、実はまだこれでも全部ではないのです。非同期タイプ(いつでも書き込んでいいもの)のハッシュタグもたくさんあり、たとえば僕の住んでいるアルバータ州の教育関係者の使うハッシュタグでは「#abed」というのが有名です。さらにアルバータ州でブレンド型e-ラーニングに関わっている人のための「#blendEDAB」などの下位グループもあります。

 

また、教師研修などのイベントごとにこうしたハッシュタグを決めて、感想や質問などを共有するのも世界中で頻繁に見られます。日本語教育の関係者の間でも、古くは土井佳彦さん(@doiyoshihiko)が「#sig_925」「#nkg_1008」などのハッシュタグで日本語教育学会などの会場から投稿を共有していらっしゃいましたし(両者とも2011年)、最近は角南北斗さん(@shokuto)がこの手の提案をよくされています。今年9月3日の九日連研修会「日本語教育×IT」では「#kyunichiren201709」というハッシュタグで現地からさまざまなツイートが投稿されましたし、8月19日の『日本語学習のためのeラーニングとは―関西国際センターにおける開発と運用―』というイベントでは「#jfkcelearning2017」というハッシュタグで現場での発表に対するコメントや感想などが共有されました。

 

特定のハッシュタグがない場合でも、教授法に関する議論などは当事者や第三者が「まとめ」を作ることがあり、そこで論点を追うこともできます。たとえば前述の「おすすめ日本語教師」はこちらでまとめられています。もっと有名なものとしては「『みんなの日本語』、あるいは文型シラバスは時代遅れなのか?」や「日本語教育とレイシズム」は両方とも現時点で2万を超える閲覧数になっています。

 

 


あなたも変われます、いますぐに


さて、こうした学びの道に足を一歩踏み出してみると、世界はどんどん変わって見えることと思います。たとえばつい2日前も、「こじこじ@日本語教師とか」さんという方が、こんなことをつぶやいていました。

 

 村上註:

 「ついった」=Twitter

 「垢」=アカウント

 「フォロバ」=フォローバック(先にこちらからフォローした相手が自分をフォローしてくれること)

 

この記事を読んでいる人の中で、まだ自分の成長のためにソーシャル・メディアを使っていない人がいたら、明日とか言わず、ぜひいますぐこの瞬間からご自分の学びのための利用を始めてください。そうすれば、日本語教師の成長に直結するだけでなく、日本語学習者も同じようにソーシャル・メディアで日本語を習得することができるということも経験的に認識できるようになるのではないかと思います。

 

 

参考資料

#おすすめ日本語教師 – Twitter検索
https://twitter.com/search?f=tweets&q=%23%E3%81%8A%E3%81%99%E3%81%99%E3%82%81%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E6%95%99%E5%B8%AB&src=typd

#langchat – Twitter検索 (外国語教育に関わる人たちのチャット)https://twitter.com/search?f=tweets&q=%23langchat&src=typd

#satchat – Twitter検索 (土曜の朝の教育関係者のチャット)https://twitter.com/search?q=%23satchat

Education Chats(カレンダー形式の教育関連チャットの一覧)
https://sites.google.com/site/twittereducationchats/education-chat-calendar

ハッシュタグ #sig_925(日本語教育学会テーマ別研究会:多文化共生社会における日本語教育研究会「日本語教育の公的保障と教育支援システムを考える」)
https://twitter.com/hashtag/sig_925

ハッシュタグ #nkg_1008(日本語教育学会秋季大会、パネルセッション「多文化共生社会における日本語教育システムを考える」)
https://twitter.com/hashtag/nkg_1008

ハッシュタグ #kyunichiren201709 (九日連研修会「日本語教育×IT」)
https://twitter.com/hashtag/kyunichiren201709

ハッシュタグ #jfkcelearning2017 (日本語学習のためのeラーニングとは―関西国際センターにおける開発と運用―』)
https://twitter.com/hashtag/jfkcelearning2017

『みんなの日本語』、あるいは文型シラバスは時代遅れなのか? – Togetterまとめ
https://togetter.com/li/1096274

日本語教育とレイシズム – Togetterまとめ
https://togetter.com/li/1100397

 

近刊紹介
SNSで外国語をマスターする方法について筆者がまとめた書籍『冒険家メソッド』(ココ出版)が、近日刊行予定!!

 

《筆者》村上吉文 冒険家。これまで、国際協力機構(JICA)や国際交流基金からモンゴル、サウジアラビア、ベトナム、エジプト、ハンガリーなどへ派遣されてきた。2017年5月からカナダのアルバータ州教育省に勤務。ブログ「むらログ」(http://mongolia.seesaa.net/)では、日本語教育とICTに関する記事や、教育機関によらず自らの力で日本語を学ぶ「冒険家」たちについてのインタビューを発信している。

 

 

連載バックナンバー

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第5回「学習者の安全のために」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第4回「教師自身が使いこなすために必要な第一歩」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第3回「自律性と一斉学習」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第2回「冒険家の実像」

ソーシャル・メディアをめぐる冒険 第1回「なぜソーシャル・メディアか」

 

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