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    【連載】センパイ! 大学院って何をすればいいんですか!?〈毎月第3金曜日更新〉※編集部の都合で7月分の更新が遅れました。申し訳ございません。

    vol.5 実践研究をしているセンパイ

    みなさん、こんにちは。ひろこです。
    気がつけば学期末のレポート地獄です。現実逃避でインタビュー記事を書いています。
    今回は研究についてちょっとディープに聞いてみました!!
    センパイ、研究について教えてください!

    《センパイ》藤本かおる(ふじもと・かおる)氏 
    武蔵野大学グローバル学部日本語コミュニケーション学科准教授。首都大学東京人文科学研究科博士後期課程単位満了退学 修士(文学)。eラーニング、反転授業、遠隔教育などに詳しい。ひろことは旧知の仲。

    《聞き手》中山裕子(なかやま・ひろこ) 大学卒業後、旅行会社の社員を経て日本語教師に。国内の日本語学校や中東のヨルダンで日本語を教えてきた。今年4月から大学院に進学。でも大学院って何をすればいいのか、わからない! そうだ、先輩方に聞いてみよう!

     


    大学院で何をするか


    ひろこ 今日はお忙しいなか、そして暑いなか、ありがとうございます。

    かおる 本当に暑いですね。勘弁してほしいですね。

    ひろこ 私とかおるさんは妙なご縁で。最初は韓国の焼肉を食べる会でしたよね。もう7年ぐらい前の。

    かおる そうですね。

    ひろこ あれからかおるさんはいろいろな変遷をたどっていまや立派な准教授に。

    かおる 立派じゃないですよ。

    ひろこ 実は私はヨルダンから帰国して、大学院を受験するかを考え始めたときにかおるさんに相談したんですよね。そのとき、「何が研究したいの?」って聞かれて答えられなかったんですよ。確か、「なんとなくICTはやりたい」って答えたんですが、「じゃ、ICTで何やりたいの?」って聞かれて、何も言えなかったんです。だから大学院受験はやめて働き始めたんですけど、だんだん研究したいと思うようになって、それで受験して、おかげさまでなんとか入学しました。

    かおる 大学院の、特に修士課程だったら、その先に何をしたいのかっていうのが大事。もし仕事の幅を広げたいってだけならそこまで目的意識は必要じゃないかもしれないけど、その先にもっと研究を進めたいって思うなら、ある程度、修士のあとのことを考えたほうがいいと思う。もちろん修士で勉強しているうちにもっとはっきりさせたいことがあるから進学するって人もいるんだけどね。

    ひろこ まだ入学して3ヶ月ですけど、目的意識がないと辛いかなとは思います。いろんな授業でいろんなことを聞くと、研究のテーマも方向性も、可能性がいろいろ出てきてしまいますよね。自分のなかに何もないと、なかなかひとつの方向に向かえないからたいへんだなって。

    かおる よく聞く「もっと勉強したいから大学院に」というのはちょっと違うんじゃないかなと思っていて。

    ひろこ そうですよね。私も大学院の授業って知識をもらうだけじゃないというか、自分で知識を取りに行かないと何も手に入らないなと。

    かおる あとはこの分野でいうと、指導教官の専門とぴったり合った学生が入って来るわけじゃないから、先生もどう研究させたらいいのか、手探りの場合もあると思う。たとえば理工系や社会学や心理学とかだったら、その先生のやり方があって、それにのっとってやればいいんだけど、日本語や日本語教育の分野は複合的というか、領域をまたがっていることも多いから、先生のアドバイスを受けながら学生は一つひとつ考えていかなきゃいけない。

    ひろこ 確かに。ゼミにも先生の研究内容とは違うことを研究している人が結構います。でも先生1人だけじゃなくていろんな先生や先輩たちからいろいろ意見がもらえるので、すごくありがたいんですけど、その一方でいろんな興味が出てきてしまってまとまらないんですよね……。

    かおる 1年目にあれもこれもってインプットするのはいいと思うんだよね。だけど1年目の後半から2年目にかけて、本当にデータを取るときになったら、ちょっと耳をふさぐことも必要。いろんな先生がアドバイスしてくれるけど、それは先生の経験からのアドバイスだから。まったく真逆の話が来たりするときに、自分のスタンスがしっかりしているとどんなものが来ても大丈夫だけど、スタンスがなかったらあれもこれもやらなきゃ!ってなってドツボにはまる

    ひろこ そうなんですね。確かにそういう話は時々聞きますね。

     

     


    社会人学生と研究


    ひろこ いまの時点で私は自分の研究についてはまだ何もできていない状態です。授業に食いつくだけで精一杯で1学期が間もなく終わってしまうので、大いに心配です……。

    かおる 1年目ってそんなもんじゃないですかね。1年の最初から研究計画がバッチリできている人なんていないんじゃないかな。計画ができても揺らいだり崩れたりするのが当たり前だから。

    ひろこ そういうものなんですかね。

    かおる そう、1回崩れて、3年かかる人もいるし、崩れたままの人もいるし。

    ひろこ こ、こわい!

    かおる 特に社会人経験がある人は崩れて迷い始めたら放っておかれる場合もあよね。

    ひろこ それ本当に怖いんですけど!

    かおる 放っておかれたとしても頼りになる先輩がいていろいろ話ができるといいんだけど、大学院って後輩のほうが年上で経験が長かったりすると先輩も口出ししにくいのよ。本人も相談しにくいだろうし。その辺は社会人学生の難しいところで、周りも先生たちもそれまでの経験を尊重してくれるからこそあまり口出さないというか配慮というか……。

    ひろこ でも経験があったとしても研究ってどうやったらいいか、わからないです。

    かおる まあ、修論は経験だけでなんとかなることが多いよね。修論「は」なんとかなる。でも修論だけでいいのか、もしかしたらその先があるのかを考えたほうがいいってことなんだよね。

    ひろこ それ、先輩たちからも先生からもよく言われます。「博士課程に進みたいなら、博士を見据えた研究をしないと辛いよ」って。

    かおる 特に実践系の人はたいへんだよね。修論は実践報告だけでもいいけど、その先に進みたいなら実践をどう理論づけていくかが見つけられないと博論は書けない。実際、私がその点を失敗して博論頓挫したので、本当に身に沁みますわ……。

    ひろこ 実践報告と理論づけができている論文とは何が違うんですか。

    かおる 実践報告っていうのは、「こういうことをしました、そしてこういう結果が出ました、こういう傾向があるようです」というもので、理論づけというのは、どういう理論に基づいて実験をしたか、その結果に対してもどういう理論に基づいて出しているのか、そういうことかな。

    ひろこ 分析方法と理論は同じですか。

    かおる うーん、それは違うかな。教育の理論ってあるでしょ。どういう理論に基づいて教室を運営しているか、コースを運営しているか、どのツールを使っているか……とか。

    ひろこ ああ、分析方法は結果をどう見るかっていうのに使うもので、理論はもっと大きいことですね。…うーん、難しい!

    かおる たとえば村上(吉文)さんがやっているのは社会構成主義になると思うんだけど、ヴィゴツキーとか橋渡し理論とかそういう理論があるから実際にこういうことをしてどうなったか、というのが理論づけしているってことになるのかな。

    ひろこ あー、なるほど。つまりGTA(grounded theory approach)とか等至性アプローチは結果を分析するときのツールであって、理論ではないってことですね。

    かおる 分析方法もいろいろあるけど、それも「なんでこの結果を出すのにこの分析方法?」とならないためにも、先行研究を読まないとだよね。

    ひろこ そうですよね……。やはりどれだけ先行研究を読むかですね。

    かおる 自分が得意だからこの分析方法を使うっていうんじゃなくて、自分のしたい研究にあった方法を選ぶっていうのも大事だよね。質的研究にしろ量的研究にしろ。

    ひろこ はい……。

    かおる 私もこれ難しくていまだに悩んでばかりなので、修士のときにもっとやっておけばよかったと、本当に思います。

     

     


    研究の意義


    ひろこ 私は、自律学習というか、教育機関で勉強していない学習者について研究したいんですけど、「で、それを研究してどうするの?」って聞かれることがあるんですよね。お金にもならないのにどうするの?って。でも私はこれを研究したいしお金にもなるんじゃないかと思っているんですけど。

    かおる それって結構重要で、自分の研究がどう役に立つのかっていうのは、「絶対、役に立ちます!」っていうスタンスでやるのか、「役に立たないかもしれないけど私はやりたいんです!」ってスタンスに立つのか。

    ひろこ え、どっちがいいんですか。

    かおる どっちでもいいと私は思うよ。まあ研究なんて、ぶっちゃけほかの人にとっては「どうでもいいんじゃないの」っていうのも多いと思う。

    ひろこ え、これカットしますか?

    かおる いや大丈夫。でも、ある人にはどうでもいいことでも、ある人にとっては役に立つから。役に立つだけじゃなくて、必要があるとかやっておくべきことっていう価値もあるから。だから役に立たないと思われていても研究する意義はあるってことはいっぱいある。私なんてパソコンが普及し始めたぐらいからeラーニングとかやっているから、それは何の役に立つのかとか、教師の仕事がなくなるとか散々言われてきたんだよね。

    ひろこ なくならないですけどね。

    かおる そうそう。15年前からずっと言われ続けているけど、なくなってないからね。ただ教師の役割は変わっていくと思うけど。まあ、とにかく周りにとやかく言われて、ヘショってなって、「やめようかな」って思うぐらいなら、その研究はやめたほうがいい。

    ひろこ やめようとは思ってないです!

    かおる なんの役に立つかどうかっていうのは、そのときにわからないこともある。だから、やりたくて何か意味があるなら、やる意味はあるしやればいいと思う。

    ひろこ 研究をやめたいとは思っていないんですけど、「そんなことやって意味ないじゃん」とか「お金にならないじゃん」って言われたときに、何て言い返したらいいのかがわからなくて……。

    かおる それは「あなたにとっては意味ないし関係ないかもしれないけど、私には意味あるんです」でいいんじゃない?

    ひろこ なるほど!!

    かおる 意味ないじゃんっていう人たちもいじめようと思って言っているんじゃなくて、特に修士のときは周りの人がいろいろ考えて、アドバイスをしてくれているわけだから、何か言われたとしても「いやいや無駄かもしれませんけど、こういうところが価値があるんです」って言えればいい。

    ひろこ 無駄って自分で言っちゃう勇気……。

    かおる その価値を見出すためにも理論づけが必要。

    ひろこ 理論づけ戻ってきたー!

    かおる ま、私もいろいろ言っていますけど、自分の研究に関してはまだまだですから。

    ひろこ かおるさんの今後の研究を楽しみにしています。

     

     


    大学院を目指す人へ


    ひろこ 最後に大学院で学んでいる人たちや大学院で学びたい人へのメッセージをお願いします。

    かおる 今日話していて思ったけど、「そんなことやってて意味あるの?」って言われても「やりたいんです!」って言い切れるぐらいの気持ちになってから大学院に入ったほうがいいかも。

    ひろこ そうですね。私も2年前にかおるさんにお話を聞いたときだったら「意味ないじゃん」って言われたら落ち込んで迷子になっていたかもしれませんが、いまは多少落ち込んだり「ちぇっ」と思ったとしても、「でもやりたい!」って思えるので良かったです。

    かおる いままでの研究者だって自分のやりたいことをやっている人が結局は多いから。どんなに社会的意義があっても自分の興味関心がないと研究は難しいよね。

    ひろこ そうですよね。少なくとも2年はかかるので、興味がないと続かなさそうです。

    かおる 時間もお金もかかりますからね。

    ひろこ はい。今日は本当にありがとうございました。

     

     


     

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