センパイ!大学院って何をすればいいんですか!? vol.2 大学教授のセンパイ《後編》

最終更新日

指導教官(予定)に「大学院って何をすればいいんですか!?」と聞きに行ったところ、予定外のロングインタビューに。後編では、テーマ設定と指導教官、大学院入学前にやっておいたほうがいいことなどを聞きました。(前編はこちら

 

《センパイ》西谷まり(にしたに・まり)氏 
一橋大学国際教育センター教授。専門は日本語教育、教育工学、言語不安。来月から中山を指導する予定。今回の取材で、パワフルで率直に話してくださる方だと判明した。

 

《同級生》ニャチャンさん 
ベトナムからの留学生。昨年は研究生として西谷ゼミに参加していた。4月から修士課程で中山の同級生になる予定。

 

《聞き手》中山裕子(なかやま・ひろこ) 大学卒業後、旅行会社の社員を経て日本語教師に。国内の日本語学校や中東のヨルダンで日本語を教えてきた。4月から大学院で日本語教育を研究する予定。でも大学院って何をすればいいのか、わからない! そうだ、先輩方に聞いてみよう!

 

 


センパイのテーマ「言語不安と教育工学」


 

中山 私、実は去年の大学院説明会を聞きに来た時に西谷先生とお話ししたんです。その時に「Eラーニングのことに私も興味があるんですけど」と私が言ったら、西谷先生が「まあ、Eラーニングはコンテンツ作りよりもどう使うかが大事ですよね」とおっしゃったんです。それで「私もそう思います! そうなんですけど、どう研究につなげたらいいですか」と質問したら「自分で考えて(笑顔)」と言われて、「あ、この先生面白い!」と思ったのが受験のきっかけなんです。

西谷 えー、そんなこと言ったかな……。

中山 それで、西谷先生の論文を調べたら、言語不安という心理的なものと教育工学という理系のものを扱っているのがますます興味深くて。心理って扱いにくいと思うんですよ。測りにくいですし。見えないし。それを教育工学を使って研究する難しさとか面白さっていうのは、どういったところでしょうか。

西谷 最初は不安というところにフォーカスしていたんですけど、中山さんがおっしゃるように不安は見えないので、実際の行動として現れてくる失敗を最近はキーワードにしているんです。

不安を扱うとなると、不安をどう自覚しているかを質問する調査になってしまうので。最近は失敗からどういう学びを得るのかをテーマにしています。このような失敗をした時に、どういう行動をとったらどういう結果にどうなるかというのを分岐していって、だから失敗から学ぶ態度が大事だ、ということですよね。

中山 そのテーマというのはいつ頃決められたんですか。

西谷 最初、博士課程では全然違うテーマをやろうと思ってたんです。当時、授業でディベートを扱っていたので、このディベートを日本語教育にどう活かすかをテーマにやろうと思っていました。でもそのディベートの中で、不安度の高い人はうまくいかないという気づきがあって。

それで調べ始めた時は、不安は悪いものだから少なくすればするほどいい、と思っていたけど、不安は高いけど成績は高いというグループもあって……。

中山 不安がマイナス要素だけではないということですね。

西谷 そうなんです。だから不安も悪くない、失敗も悪くない、というところから今につながっていったんだと思います。

 


テーマ選びと指導教官


 

中山 テーマがディベートから言語不安に変わっていった理由はなぜでしょうか。

西谷 そうですね。うーん……。私はディベート自体は先生に習いに行ったり合宿ディベートをやったりして面白いと思ったんだけど、これだけで日本語教育ができるわけじゃないので、より汎用性の高いものに行こうという意思が働いたのかもしれませんね。

中山 なるほど。

西谷 あとは指導教員が扱えるか扱えないか、というのもあるので。

中山 先生とのマッチングは大切なんですね。

西谷 松田先生は多分ディベートの研究なんて面白くないと思っているのはわかるので。

中山 そうなると、先生にアドバイスなんかももらいにくい、ということですか。

西谷 そうですね。私も一昨年初めてうちのゼミで博士号をとった学生がいて、その時にも思ったんでんですけど、修士論文はある意味自分の作業なんです。でも、博士論文は指導教員との共同作業なんですよね。

中山 そうなんですか? 私は逆だと思っていました。

西谷 修士論文の到達度目標のレベルだったら、自分の専門と関係ない分野でもある程度のアドバイスはできるんですけど、博士論文ともなると自分の専門とあまりにも遠いと良いアドバイスもできないんです。そういう意味では指導教員と同じ専門の方が一緒に考えやすいですね。まあでも他の教員や先輩たちに聞いたり独立してやっている人もいますけどね。

中山 そういう方の論文はやはり何か物足りない感じになりますか。

西谷 それは人によります。大学院は指導教員だけでなくいろんな学会で知り合った人や先輩や教授に話を聞いたりアドバイスをもらったりすることはできますから。

中山 なるほど……。うーん、なんだか先の長い話を聞いてしまいました……。

 


大学院入学直前にするべきこと


中山 実際、私は4月から入学するんですが、これから何をすべきでしょうか。

西谷 まずは先行研究をたくさん読むことが大切ですね。先行研究をたくさん読むとそこから参考文献も出てくるのでそれを読む。そうやって読んでいるうちに、自分が新しいと思っていたことが、実は既に研究されているものかもしれないので、そういう理由でテーマをガラリと変える人もいます。だからとにかく先行研究を読むことですね。PDFもたくさんあるし。

中山 はい……(ううう、既に大変そう)。

西谷 あと、ゼミで他の先輩たちが発表している時に、わからないことを見つけて質問できると良いですね。

中山 質問した方がいいんですね。

西谷 そうですね。ただ聞いているだけだと眠くなるだけなんで。私も時々……。あ……。

中山 あれ、あれ? 大丈夫です。カットします(とか言ってしませんでした。謝罪)。

西谷 発表する側も、反応がないより質問された方が嬉しいし。何か質問ができて、それを踏まえて自分の意見が言えたらいいんですけど、最初は質問だけでもいいと思います。

中山 とにかく反応することですね。

西谷 それこそ、「ゼミのコメント力」というテーマで博士論文を書いた人もいますし。

中山 じゃあまずは論文を読んで、ゼミで質問をして……。実は入学前からけっこう不安で。ちゃんとやっていけるのかな、とか、2年で卒業できるかな、とか……。

ニャチャン 私もです……。

西谷 卒業したいと思って卒業できなかった人は少ないですね。

中山 「少ない」ってことは、いるんですね……。

西谷 博士入試を受けたけどダメで、それで修士論文を取り下げる人もいますが、ちゃんと修士論文が出せれば大丈夫です。

中山 出せるかが心配です。

西谷 なんだかんだ入試をくぐり抜けてきた人は最後にまとめてきますよ。

中山 が、頑張ります。

西谷 予備調査とかが1年の時にできていると、2年の時は楽に進めるけど、予備調査を2年にやろうとすると、ちょっと忙しいですね。

中山 そうなんですね。じゃあ1年のうちに予備調査……。

西谷 そう、だから予備調査を踏まえて、2年で本調査ができたらいいですね。統計分析なんかは詳しい先輩が後輩に教えることになっているので。

 


後輩へのアドバイス


 

中山 では最後の質問なのですが、これから大学院を目指す日本語教師に向けて何かメッセージをいただけますか。

西谷 ちょうどこれ、私も悩むところなんです。「大学院に行ったらいいよ、その後すごくキャリアアップできるよ」と、自信を持ってすすめられないのがツラいところなんですよね。

中山 正直!!

ニャチャン それが西谷先生のいいところだってみんな言ってます。

西谷 でもこんなことを言っているけど、修士を出てから以前よりもやりたいことができている卒業生はいるんです。研究補助金をもらって研究員として教科書を作ったり、国際交流基金の専門家になってから帰国して大学の契約教員をやったり。自分の意思があって何かをやり続けたり関係を持ち続けたりして、ある意味ステップアップをしたりやりたいことができている人はもちろんいます。ただ、安定した仕事についているか、と言われると少ないです。

中山 そうですよね。やはり任期付きの仕事がほとんどですもんね。

西谷 まあ、ニャチャンさんは安定した(ベトナムの)公務員ですけどね。

中山 公務員、いいな!!

ニャチャン でも給料は安いですよ~。

西谷 まあ、日本人が日本語教育を始めた時点で安定は求めてないことになるので。

中山 (いや、そんなことは……)

西谷 だったらやりたいことはやって、大学院に行きたいんだったら行ってもいいけど、だからと言って、その後自分が思い描いていた道に進めるかどうかはわかりませんってことですね。

中山 なるほど。

西谷 本当に別の道に進む人もいますしね。

中山 そうなんですね。要は「大学院に入ったからって安心するなよ」ってことですよね。

西谷 そうそう、だから修士課程にいる間に、なるべくいろんな人との関係性を学内学外で作ることも大事です。

中山 ニャチャンさん、これからもよろしくお願いします!

ニャチャン こちらこそよろしくお願いします。

中山 それでは長い時間インタビューにお付き合いいただいてありがとうございます。4月から入学するのでよろしくお願いします。

西谷 こちらこそ。楽しくやりましょう。

(終)

 

 

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