日本語議連 第五回総会レポート

最終更新日

2017年3月14日(火)、衆議院第一議員会館にて、日本語教育推進議員連盟の第五回総会が行われ、4つの日本語学校関連団体が日本語学校の現状と課題、立法化をふまえての要望を伝えた。

この様子は、NHKのWebサイトに掲載されたほか(現在は見られない)、日本語教育学会が配布資料を公開している(リンク

出席したある日本語学校関係者が「私たちが日頃考えていることを全部伝えられてよかったのではないか」と感想を述べるほど、充実したヒアリングとなった同総会について、詳細をレポートする

 


日本語議連とは


日本語教育推進議員連盟(略称「日本語議連」)は、超党派の国会議員の集まり。日本語教育の普及・推進と質の保証を確保するため、日本語教育の基本理念や、国や自治体の責務を盛り込んだ議員立法「日本語教育推進基本法」の制定を目指して議論を重ねている。2016年11月に設立してからこれまでに4回の会合を開いた。

第1回(11月8日):設立総会。文化庁国語課や法務省入国管理局、文部科学省高等教育局など7つの府省庁と国際交流基金からヒアリング。

第2回(12月1日):日本語教育関係各種団体の取り組み

  • 国際交流基金(JF) 日本語国際センター所長 西原鈴子氏
  • 日本語教育学会 会長 伊東祐郎氏
  • 国際協力機構(JICA) 青年海外協力隊事務局長 小川登志夫氏

第3回(12月15日):外国人労働者と日本語教育支援

  • 日本国際協力センター(JICE) 研修事業部長 打田斉道氏
  • 国際研修協力機構(JITCO) 業務執行理事能力開発部長 福島康志氏
  • 日本経済団体連合会(経団連) 経済政策本部長 岩村有広氏

第4回(1月10日):外国人集住地域における地方自治体の取り組み

  • 静岡県 地域外交局長 藤原直宏氏
  • 横浜市 国際局副局長 赤岡謙氏
  • 外国人集住都市会議・豊橋市長 佐原光一氏

 

日本語議連の役員は下記のとおりで、河村、中川、馳の3氏が文部科学大臣経験者である。

  • 会長:河村建夫氏(自民)
  • 会長代行:中川正春氏(民進)
  • 事務局長:馳浩氏(自民)
  • 幹事長:笠浩史氏(民進)

 

詳細はFacebookページ「日本語教育推進プラットフォーム」(リンク)で発信されている。

 

 


日本語学校の現状と課題が

テーマとなった第五回総会


さて、3月14日に行われた第五回総会には、日本語学校関連団体の代表者が集まった。最初に中川会長代行が「外国人がさまざまな形で日本に滞在する機会が増えてきた。それにもかかわらず、社会統合、多文化共生の体制がどこまでつくられているか、大きな問題。日本語(教育)を基盤として協力体制がなければならない」と挨拶。馳事務局長は「日本語教育を国策としていく段階に入った。それを立法によって明確にしていきたい」と決意を表した。

続けて、各機関7分という設定で、4団体の代表者が立法化に向けた要望を訴えた。

 

(1)日本語教育振興協会(日振協)

 

組織概要 →サイト
設立:1989年
協会認定の日本語教育機関:345機関(2015年7月時点)
活動内容:日本語教育機関の運営基準の運用・審査・認定事業、教職員の研修開催、学生の受け入れの適正化など。

 

発表者:理事長 佐藤次郎氏

報告(一部)

いろいろな留学生が来日している。新聞報道でも報道されているとおりだ。しかし私どもの認定校については、従来中国の時から不法残留者の対策、犯罪者の対策、あらゆることをやってきた。だから私どもの学校では、一時犯罪などが増えたが、現在は数が減っている。

(教員不足の深刻化について)この問題は待遇の問題もある。資格の問題もある。総合的に検討していただく必要がある。実態を調べたうえで国が総合的な施策を立てていただきたい。

 

要望

1 日本語教育機関を日本語教育振興基本法(仮称)の中に教育機関として規定し、所管官庁を明確にされることを要望します。

2 留学生が安心して学習でき、かつ、その経済的負担を軽減し、また教職員が安定して働ける環境作りを支援するため、下記の施策の実施を要望します。

(1) 国が認証する評価機関による日本語教育機関の教育の質を維持・保証する第三者評価制度の創設

(2) 留学生の授業料等にかかる消費税の非課税

(3) 留学生の国・地方公共団体及び民間の奨学金の創設・充実

(4) 留学生に対する通学用割引定期乗車券等の適用

(5) 日本語教員の養成・確保、研修、処遇改善のための支援

(6) ベトナム教育訓練省の高等学校卒業統一試験の成績等の認証システムの活用により、留学生の受入れの適正化

 

 

(2)全国専門学校各種学校日本語教育協会(専各日協)

 

組織概要 →サイト
設立:1986年
正会員:専門学校43校、各種学校26校(2016年4月1日現在)
活動内容:「外国人留学生等が日本語を安心して学ぶために、日本語教育機関並びに日本語教育の充実・発展・向上に取り組んでいます」(ウェブサイトより)

 

発表者1:副会長専門学校部会長 深堀和子氏

「日本の留学事前申請(在留資格認定証明書交付申請)は、審査に3ヶ月近くかかる。一方、たとえばアメリカの場合、在日領事館(つまり学生にとっての母国)において30~40分の程度の審査で留学ビザ発給の可否がわかる。日本に留学したいと思うようなスピーディーでスマートな審査は、検討する価値のあることではないか」

 

発表者2:副会長各種学校部会長 吉岡正毅氏

※要望全文は配布資料に掲載。

(なかでも「一番重要」とした「日本語教師不足の深刻化に対する施策の要請」について)「私は全国日本語教師養成協議会(サイト)の会長もしている。日本語教師養成の民間の団体の意見を聞いてまとめる立場。日本語教師の不足が深刻。日本語教師が日本語教育の質を高めるし、日本の国益を担う。日本の言語政策は欧米・中韓に比しても遅れをとっている。日本語教員の支援として、(1) 教育訓練給付金を10万円から拡大していただきたい。(2) 貸付金制度。日本語教師の資格は、文化庁が厳格に規定して質の担保を保証することになった。質を担保された教員を生み出すために、貸付金制度を創設していただきたい。5年間、日本語教育に従事したあとの返済免除等。(3) 日本国内と海外の大学等で正式教員として赴任する場合の給与の差が大きいので、給与補助などを検討していただきたい」

 

 

(3)全国日本語学校連合会(JaLSA)

 

組織概要 →サイト
「法務省から告示を受けた日本語教育機関を会員資格とする国内初の日本語学校の法人格を持った唯一の業界団体」(ウェブサイトより)
設立:2004年
加盟校数:147校

 

発表者:主席研究員 佐伯浩明氏

報告

「留学生30万人計画があるが、われわれ日本語教育機関は、(留学生の)日本での就職、大学・大学院・短大、すべての入り口、登竜門である、という認識をもっている。その意味で、日本語教育機関がいかに大事かということをぜひ頭に入れていただきたい。全国に日本語学校は約600校あり、日々増えている。学生数は5万6000人を超えていて、受入国は50カ国を超える。日本になじんでいく高度人材のいちばんの受け入れの窓口になっている」

 

要望 ※全文は配布資料に掲載

1 日本語教育機関への奨学金の拡充

2.日本語教員の資質向上の経費新設

3.外国子弟の日本語教育と小学校と日本語教育機関の連携の必要性

4.留学生30万人計画実現のための寮整備推進費の拡充

5.留学生及び訪日外国人数の増進のための科学技術経費の拡充

 

 

(4)日本語学校ネットワーク

 

組織概要 →サイト
設立:1997年
会員数:58機関(2017年1月1日現在)
活動内容:「日本語教育機関に入学し、真摯に日本語を学ぶ留学生が日本に於いて有意義な留学生活を送れるような学習環境を整えるため、また日本が日本留学を目指す外国人学習者にとって魅力的な国となるよう、関係団体や関係者への意見発信や陳情を行っております。」(ウェブサイトより)

 

発表者:代表理事 大日向和知夫氏

報告(一部)

○日本語学校の「退学」について。留学の目的はさまざまで、目的を達成するための手段として日本語を勉強する。目的を達成させることができる日本語のレベルに到達したらそこで勉強を終了する。それが学科教育を行っている一般の教育機関と最も違うところ。学科教育の中では途中退学に負のイメージがあるが、日本語学校の途中退学は、目的を達成したためである。

○「出稼ぎ留学生」について。一部のマスコミで出稼ぎ留学生という言葉が使われて、偽装留学生が報道されている。(多くの留学生は)確かに裕福ではないが、勉強を目的としたいわば「苦学生」である。アルバイトは必要だが、留学経費の一部を補うためにやっている。稼ぐことを目的とした出稼ぎ留学生とはまったく異なるということをご理解いただきたい。

 

要望

○日本語学習機関の上限は最長2年。しかし非漢字圏の学習者が半数以上を占めているいま、上限期間の見直しが必要。

○さまざまな設置形態をもつ日本語教育機関を統括的に監督する官庁を設置し、優秀な外国人人材の受け入れ及び定着に活用していただきたい。

○日本語学校の現場に視察に来ていただけないか。外国生活に悪戦苦闘しながらも、自分の将来を日本にかけた、一生懸命勉強する学生の姿を見ていただきたい。

 


活発な質疑応答。

現場視察を呼びかけ


4機関からの報告のあと、出席した議員から質問が寄せられ、日本語学校関連団体、および法務省が回答した。

・留学生の日本語力の評価基準

・日本語教師の資格をつくる場合の基準

・留学生の送り出し国側の悪質ブローカー問題

・監督官庁が定まっていないことで生じる問題は何か?

・留学審査になぜ時間がかかるのか?

・日本語学校を途中でやめると退学扱いになる。能力があってやめるなら修了扱いにできないのか?

 

回答のなかで出席者たちは、

「資格について、新たな制度をつくるのではなく、いままで培ってきたものからよりよいものをつくってほしい」

「『日本に来ている留学生はアルバイトをしなければ生活できない人たちだ』と一括りで話される傾向があるが、アルバイトをしなくてもいい学生もたくさんいる」

「マスコミが騒いだからといって極端な対応をするのではなく、留学生そのものを見て的確な入管体制をするのが大事。人数が少ないのであれば、適正な配置、もしくは現地での審査なりオンライン審査なりを検討してほしい」

「大部分の日本語学校はしっかりやっている。現地に行って面接をし、悪質ブローカーとは付き合わないようにしている。”良貨が悪貨を駆逐する”ような制度ができるといい」

などと、熱く語った。

 

最後に、日本語学校側からの「現場を見に来ていただきたい」という呼びかけに対し、馳事務局長が「視察ツアーを企画しましょう」と応じて閉会となった。

 

《取材・文》平井美里 ライターとして9年働いた後、青年海外協力隊の日本語教師隊員として、2年間、某国の大学で日本語を教えた経験をもつ。現在は当ウェブマガジンのコンテンツ拡充のために奮闘中。

 

関連記事

センパイ! 大学院って何をすればいいんですか!? Vol.2 大学教授のセンパイ《前編》

研究者じゃないけど、学会に行ってみた(2016年度日本語教育学会秋季大会レポート)

【インタビュー】日本語教師転職エージェント・トレデキム 関行太郎社長

日本語教師の勉強会を見学vol.1「サタラボ」

 

シェアする